目を覚ませ僕らのCORONAがMEXICOじゃなくなっているぞ! 4
(スーパーヒューマンサムライスクワッド、間もなく始まる!)
⚡ S u p e r h u m a n S a m u r a i ⚡
『バドワイザーはいかなる不正アクセスを赦さない』
「ぐっ!」
バドワイボットは拳を振り下ろす、サムは瞼を固く閉じた。臓腑に震わす衝撃、それに伴う耳鳴り。サムは自分が死んだと思った。
しかし5秒、6秒が経過、サムは自分が意識を保っていることに気づく。
(おれ?もしかし自分また死んでいないってこと?いや待て、意識だけが残る幽霊になったという線もある)
彼はグリッドマンとして死にかけた経験が何度もあったものの、本当に死んだことがなかったため、死後のことなど知り得ぬ。
(しかしテレビに出る瀕死経験者がよく言う眩しい光や心地よい温かみってやつはまったくねぇや……あっ、そういえばまた目を閉じたままたっだ)
サムは恐る恐る瞼をあけた。自分がまたダイナドラゴンの中に居て、感覚がある、死んではいなさそう。サムはまず安堵を覚えた。次に目に入ったのは破壊されてスクラップじみた様相にを呈するバドワイボットと、背を向けている黒い巨人の姿。
「はっ」
サムは息をのんだ。カラーリングと細部のデザインがたいぶ違うものの、その正義を形にしたような堂々の姿はまさしく彼が30年の前に失い、そして30年もの間にずっと渇望した、夢のヒーローそのものだった。
言葉では言い表せない激情が沸き上がり、サムは呟いた。
「グリッド、マン……」
彼に応えるかのように、グリッドマンと似た巨人が振り向き、サムを一瞥した。
サムのピンチに駆けつけた黒い巨人は一体何者なのか?グリッドマンの派生なのか?
それを知るためには時間を少し遡る。午前4時、多くの人はまた夢を見ているこの時間、マルコム・フリンクは既に起床し、自宅のジムで早朝のトレーニングに勤しんでいた。
「フッ、ハッ!フッ、ハッ!」
マルコムは木人椿に向かって短打をリズミカルに繰り出す。50代が目前の彼は肉体がアスリートのように引き締まって、力が満ちている。
「フッハッ、フッハッ、フッハッ、フッハッ!」
マルコムはギアを上げる。動きが霞んで見えるほどのスピートで木人椿に拳を叩き込んでいく。カッカッカッカッ、木と骨肉がぶつかい合う小気味のいい音がジムに鳴り響く。
『お取り込み中に失礼します、ボス。Ms.フォレスタからお電話です』
スマートスピーカーから女性の声による通知が入り、マルコムは手が止まった。
「……ゾーンに入るところだったが」
『それはお生憎さまでした。お断りしておきましょうか?』
「いや、いい。出せ」
『かしこまりました、回線に繋げます』
『こんばんは、マルコム君。それともおはようと言った方がいいかしら?』
「シドニー・フォレスタ、こんな時間に電話とは随分常識的じゃないか?」
『そんな物言いができようじゃ、寝起きじゃないよね?その年で夜更かしは数日も引きずるわよ?』
「それはそっちもだろ。それに夜更かしではない、早起きだ。冷やかしなら切るぞ」
『まって、実はお願いがあるの』
シドはサムがCORONAビールが福建省のバドワイザー工場で製造されていることがメタウイルスモンスターの仕業だと思い込んで、サムライアタックビークルでバドワイザーのシステムに侵入しようとしていることをマルコムに伝えた。
「事情はわかった。それで、ボクにアイツを助けてやってほしいと?」
『ええ、手元にデジ・ワールドにアクセスできる手段がない以上、貴方以外に頼める人間がいないわ』
「虫が良すぎるぞ、シドニー。なぜボクそんなことしなければならない?お前たちせいでボクがどれほど苦い思いをしてきたか、知らないはずがあるまい」
『これはあくまでお願いよ、やるかどうかは貴方次第。でもマルコム君なら正しい行動を取ると信じるわ』
「それはどうかな?ボクは根に持つタイプの人間だ。まあでも、そこまで言うなら助けるかどうかは別として、様子だけ見に行ってもいい」
『ありがとう。それと申し遅れたけど、タイムズのパーソン・オブ・ザ・イヤーに選ばれておめでとう。写真がなかなかイケおじだったわ』
通話を切った後、マルコムはジムの鏡に映っている自分をしばらく見つめていた。
「イケおじか……フッ、悪くない」
男は何歳になってもちょろいもの。外見が褒められて、喜ばない男は居ない。
「さて、かかるか。アーケイン、現在デジ・ワールド内に戦闘行為は?」
『ハイ、ボス。ただいま一件が該当しています』
スマートスピーカーから発する声の主、その名はARCーCANE、マルコムは自分の手でプログラムして育った人工知能である。マルコム身辺のマネージメントとデジ・ワールド潜行する際のサポートが彼女の役目。文章やイラストをクリエイトするなど低次元なことはしていない。
『現場の映像を確認できました。モニターに映します』
ジムに設置されているテレビモニターが起動し、デジ・ワールドの様子を映し出す。画面に中でバドワイボットはダイナドラゴンの攻撃を軽く受け止め、カウンターを食らわせた。
「思った通りの展開だな。30年前のプログラムで現在のインターネット環境に戦おうだなんて、無謀にもほどがある」
『このままでは恐竜型のプログラムは1分足らずして搭乗者もろとも消滅してしまいます。急ぎの介入をおすすめします。いかがなされますか?』
「往くさ。サム・コリンズは憎いが、このまま死なれては安眠に悪い」
『そう言うと思いました。Wi-Fi回線クリア、逆探知防止ファイアウォール作動、多重プロキシをセット。いつでも行けます』
「有能だな、アーケイン。さてーー」
マルコムはスマホを手に取り、構える。
「タイム・トゥ・モノモーフ!!」
掛け声と共に画面をタップし、マルコムの肉体が光に包まれながらデジタル分解され、ローカルのデジ・ワールドの中で黒と紫のアーマーを纏った戦士の姿に再構築。グリッドマンの面影がありつつもバッドアスな雰囲気を漂わせる彼こそがマイティメタリックモノノフグリッドベイン、マルコム・フリンクがモノモーフした最新のハイバーエージェントだ。
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(スーパーヒューマンサムライスクワッド、CMの後すぐ!)