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辛い麺メント:姐夫重慶麺館

今日訪れるのは姐夫重慶麺館。前から何度も店の前を通り抜けて気になっていた。店内はとても狭く、調理場と飲み物(有料)が入った冷蔵庫。小さいテーブル四台、席およそ六つ。これだけ。ちなみに姐夫とは姉の夫の意味、きみから愛する姉を奪った憎き男のことだ。僕には姉がいないのでその気持ちがわからないがね。

店に入るのは午前11半。もう客が入っている。さっそくメニューを拝見。なるほど、牛肉麵以外に、ちょっと見慣れていない奴があるな。せっかくだからこの鶏雑麺にしよう。この前の辛い麺メントも言っていたが、雑とは中華料理において内臓全般の呼称であり、決して雑に作った麺の意味ではない。辛さはまた不明のため、安全重視にサイズを小にした。注文用紙に印と付けて、店員の姉さんに渡す。

「どうも!鶏雑小ヒトーツッ!」
「あいよ!鶏雑小!辣椒(トウガラシ)は大丈夫かネ?」

とシェフの男が言った。ちょっと大陸の訛りがある。

「うん、大丈夫だ」と僕が頷いて返事した。シェフはすぐに作業を始めた。どんな麺がくるのか、今から楽しみだ。

暫くして、姉さんが麺を運んできた。

「鶏雑小!ごゆっくり!」「ありがとう」

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これが鶏雑麺(小)だ。まず気になるのはこの真っ赤な水面。辣油の層が分厚い。もしかして結構辛いのでは?そして具鳥の砂肝、もつ、ハツをセロリとネギ、トウガラシを加えて炒めたものらしい。野菜として申し訳程度のレタス。茹でてある。麺はよくスープと油をよく付着する平麺か。

日本人から見ていささか雑かもしれないが、僕にとってとても食欲をそそる一品だ。箸を入れるぞ。麺をよく攪拌して、辣油と馴染ませる。これは汁の有り無し関係なく行う。改めて辣油の厚さを知った。狼狽えるな。僕だってこの一年でいろんな辛い麺を食べて対辣耐性をつけたはず!

麺を摘まみ上げて、一口目。あむ、ちゅる。

ワーオ。

まろやかな。見た目はおぞましいけどあまり辛くないぞ?

と思ってたら、麻ァーッ!辛さが控えた代わりに、花椒の香りとビリビリが際立つ!頬の裏からビリビリが昇ってこめかみまで上がってくる!クーッ!痺れるぜ!

これは美味いやつだ。舌に広がる麻痺感を楽しみながら、僕は麺を貪った。やはり辣油の量が結構あるので啜って食べるのはNGだ。気管を大事にしろよ。具の鳥内臓も味が染み込んでいて歯ごたえがよく、単独で食べてもきっと旨い。きっといいつまみになれるだろう。レタスはまあ……レタスだ。野菜は大事だぜ。

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わっ、またこんなにスープが残っている。どうすればいいんだ?勿体ないし、一口だけ……ずずっ。

麻ァーッ!なんだこのスープは!?麺と一緒に食べるときの比じゃねえビリビリが舌に広がり、脳天に突っ込んでくる!まずいぞ……いや旨いけど、そういう意味ではなく、このスープ、マジでやばい。

せっかくだからもう一口、ずずっ……ああやっぱいいなこのスープ、もうちょっと味わって成分を解明しないと、ずずずっ……スパイスの粒が歯の隙間に掛かってちょっと不快だな。スパイスを事前に砕けたのか?道理でこんなに効けるスープを仕上げたわけだ、ずずずっ……グル……グル……

僕は椀を持ち上げて、スープを飲み込んだ。

「ハァー……」

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ご馳走さんです。やばいね、こんなに麻辣スープを飲んでしなったら、翌日はケツ穴が燃え上がる苦しみを味わうと知っているというのにまたやってしまった。これが辛い麺ファイターの性、KARMAとでも言うべきか……

かばんから財布を取り出すべく探りながら、他の客とシェフの会話が聞こえた。

「オタクの麺は予想より辛くないね。もっと辛いやつと期待していたけど」
「そりゃお客さん、いきなりあっしが本気で重慶本場の味を出したら、辛すぎて皆逃げちまうよ!だから基本は中辛ぐらいに調整ているんだい。もっと辛くしたいならOKネ、いつでも言ってくれよ」

ほほう、なるほどな。次回こそ、シェフの本気を試してみようではないか。

「すんません。お勘定」
「あっはい。鶏雑麺小、90元(日本円だと¥270に相当)ね。あざした!」

僕は満足して店を出た。胃の粘膜は大量の麻辣スープに抗議の声を上げている。

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