突貫!TOKKABOYS!
12月25日、8:34am。二人の若い男性は鹿児島中央駅の新幹線ホーム立っていた。
高い方の名前はタカト、丸い方の名前はリョウジ。二人とも17歳の高校生だが、制服を着ておらず、リュックを背負って、手には駅の売店のレジ袋。互いに何も言わず、スマホを覗くことすらなく、戦場に臨む兵士みたいな無表情で佇んでいるだけ。
今日はクリスマスだが、休日ではない。しかし愉快な遠足にも見えない。いったい二人に何があったのか?時を昨晩、生徒会に開催されたクリスマスパーティに遡る。
今年の生徒会は何を考えていたのか、「2010年代最後のクリスマス・イヴで、卒業パーティーを兼ねてクリスマスパーティーをやろう!」と計画を立てて、学校側もノリノリで案を通過させた。一部の生徒は湧き立った。スーツとドレスを仕立て始め、美容室に通い、もっとも美しい自分でパーティーに赴き、高校生活最後の思い出を作ろうとした。そして一部は我関せず、いつも通りの日々を過ごした。タカトとリョウジはそうした。
この二人は中学頃からの親友であった。
タカトは漫研の副部長。身長180㎝体重65Kg、絵描きは上手くないが、スレンダー体型なのでコスプレにおいては有利。高いコミュニケーション能力と理性的思考の持ち主で、他の部や生徒会と斡旋する場合は大いに役立った。あらゆるジャンルと嗜好を尊重し、後輩からも慕われている。
だがモテない。彼は生まれてこれまでの人生に、他の人間と付き合う経験がなかった。
そしてリョウジ、身長167㎝体重86㎏。漫研とチェス部二股している彼は九州ジュニア大会で準優勝経歴のある、柔軟な思考をと鋭敏な知性を併せた切れる男だ。
だがモテない。彼は女子と普通に話せるが、友だち以上の関係に進んだことは無い。
なので彼らはクリスマスロマンスなど早々諦め、無料のドリンクとケーキ目当てでパーティに参加した。そこでだ。
この夜、二人の気になっている女子がそれぞれ可愛いドレスで登場した。いつもと違う姿を見せつけられたタクトとリョウジは心が大きく揺らぎ、眠っていたビーストが目が覚めた。
勇気を出して話しかけてみるか?と悩んでいたが、その必要が無くなった。二人のレディにはハンサムのパートナーが迎えに来た。
「ですよねー」と嘆く二人。彼らはテンションがただ下がり、パーティーが早く終わると願うばかり当時に、心のどこかがもやもやしていた。
最後の一撃を食らわせたのは、DJがプレイするBoyzoneの”No matter what”だった。すでにペアを組んだ生徒たちがダンスフロアに集まり、互いに軽く掴んで踊り始めた。そこでDJが更に煽る「ヘイ、ボイズ&ガールズ、今夜は聖夜。素敵な思い出を残さんかい。ちゅうしろよちゅう」言われて、大胆にペアのいれば、互いを見、恥ずかしながらスズメの食事みたいに軽く唇を触れたペアも居た。タクトとリョウジは自分が好きな子がほかの男とキスしているところを見せられた。
ドゥン、リョウジは心の中に場にが弾けた気がした。嫉妬だ、聡明なる彼は自己分析した。嫉妬という火種が悔しさに火を点け、黒い煙がもうもうと這い上がり、思考を黒く染めていく。
パーティーが終わり、帰宅した二人は寝ずに通信アプリで遅くまでメッセージを送り合った。
TKT『高校最後のクリスマスが最悪の形で終わったな』
RG『怒りが収まらなくて生徒会室に火炎瓶投げそう』
TKT『なあ、いいのかよ。最悪の思い出をそのまま残すなんて』
RG『提案?』
TKT『いい思い出で上書きする』
RG『kwsk』
そして早朝。いつもより早めに出掛けたタクトとリョウジだが、目標は学校ではなく鹿児島中央駅だった。駅前で合流した二人はトイレで私服に着替え、博多への新幹線チケットを買った。
時を今に戻す。列車が新水俣を発ち、リョウジは鹿児島で買ったミックスつけあげパックを平らげて、タクトはモンスターエナジ―ドリンク2本目を空にした頃。
「では、やろうか」「応」
互いに頷くと、リョウジはリュックに手を伸ばした。中から取り出すのは、二本のバール!
一本をタクトに投げ渡し、軍転をはめた両手でしっかり握りしめる。そして尖った先端部を窓ガラスに向けてーー
「ンンッ!」
ゴッ!突き刺した!強化ガラスの表面に白いひびが生じたが、割れない!
「フンッ!」「ンンッ!」「フンッ!」「ンンッ!」「フンッ!」「ンンッ!」
餅つきみたいに交互にバールでガラスを一点集中に叩く!みるみるうちにひびが広がっていく!
「うっせーな……あぁん?」朝からストロングゼロをきめている若いサラリマンが後ろに振りむいた。
「What da fuck……?」白人男性バックパッカーがイアホンを外し、訝しげに二人を見た。
「誰か乗務員、いや鉄道警察を呼んでよ!」喚く中年女性。車両が騒ぐ。しかし二人は止めるつもりが毛頭にない。
ピャン!リョウジが持つバールの先端がガラスを突き破った!ゴォォォォー!!!外の騒音が容赦なく車両内になだれ込む!
「ヨシ!」「広げるぞ!」
穴を開けたあとはやり易くなった、周辺のガラスをさらに叩き、強化ガラスが小さな粒に砕かれていく。
「はぁー……バカじぇねーの」サラリマンはストロングゼロ缶を呷り、自分のスマホ画面に目を落とした。
「This will be fucking buzz man」バックパッカーはスマホで録画し始めた。
「どうして誰も通報しないの!?もういい!自分でやる」彼女はやっと車両内の受話器に手を伸ばした。
「通報されたぞ!タクト、アンタは手が細い、先にやれ!」「わかった!」
タクトは軍手を脱ぎ、事前にガラスによる切り傷を防ぐべくタクトテープグルグル巻いた右腕を穴を通して外へ伸ばした。
TKT『時速60kmで走っている車から外に手を伸ばすと、空気の感触がDカップのおっぱいと同じと言われてる』
RG『あったな』
TKT『そして速度が上がると、感触がF、Gに。時度が200km超えるとJカップが味わえるらしい』
RG『まさか』
TKT『もしJカップのおっぱいが触れたら、僕はこの悲惨の記憶を乗り越える』
RG『……』
RG『計画を練ろう』
こうして二人は一晩をかけて計画を立てた。少年たちの心に妬火(トッカ)が燃え盛っている。知性と理性を吹き飛ばし、思考をショートさせ、ノーフューチャーの嫉妬戦士となった!前科はなんだ!懲役上等!Jカップを揉みしだきたい!
「やっべーぞリョウジ!」「どうしたタクト!?Jカップは予想通り気持ちいいか!?」
興奮気味で問うリョウジに、タクトは苦渋の表情で見返した。
「本物のおっぱい触ったこともねえから……わかんねえよ!」
(おしまい)