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【剣闘日記】フォーレストのチュラァア

デカール・ウォーの最中に、フレンズVol.3が実装された。
その事実には私は狼狽えた。
Vol.3の新規アーマーには、デカールが付いてないからだ。
新規カードを集めるついでにデカールの手に入れるなんてうまい話を、狡猾なるローマ行政は許すはずなかった。
剣闘士に選択が迫る。
Vol.2カードが入った台でデカールを集めるか、Vol.3アーマーをいち早く集めるか。
どっちにしろ、高い場所で物を見、微笑むのは憎きローマ行政であろう。

ちなみにデカール(Decal)は英語でシールのことだ。

フォーレスト・ディストリクト。11時42分。

午後の営業はまた時間がある。早めに昼めしを済ませた俺はゲーセンへ足を運んだ。勿論剣闘目的だ。冬休みのカウントダウンは始まっている。俺が平穏な気持ちで剣闘できる時間は残り少ない。

この時間、客は俺を含めて二人しかいない。彼女はゲーセンに二台あるアイカツ筐体の前に座っていた。成年者だ。俺は両替を済ませ、アイカツ筐体へ向かった。椅子には彼女のバッグが置いてある。

「ミス、すみません」
「あっ、ごめんなさい」

声をかけると、彼女素早くバッグを退かせた。頷いて礼を示し、椅子に座る。コイン3枚をマシンに滑り込み、剣闘士証明証を左上のスロットに設置。この台はまたVol.2のカードが入ってると貼り紙されている。よし。

一枚目、Nカード、シールなし。

『カードもう一枚買うならコインを入れてね!』無論連コインする。

2枚目、Nカード、シールなし。

3枚目Nカード、シールあり。

こんなもんか。30枚の目標は高い空の彼方……一曲目が終わったところ、横から声をかけられた。

「その、もしかしてシールを集めてるですか?」

他でもなく隣にいる女性剣闘士だった。俺は常にトレーディングを求めて剣闘する際は他の剣闘士との交流チャンスを狙っているが、上手くいかない。話かけられるのはこれが初めだ。

「あっ、はい。そんなところです。全然出ませんけどね」
「そう。よかったらこちらのシールを差し上げましょうか?」
「えっ」

えっ、マジ?くれる?彼女はカードバインダー(ユリカさま仕様)を開き、その背面に貼っている五枚のシールを見せた。

「もう応募特典PRドレスの2式とも入手したのでこれ以上集めるのも味気ないなと思って」
「ほんとうですか!?ありがたく頂戴しますとも!あっ、こちらにはってください」

 俺はカードの後ろに貼るよう願いした、

「はい。それと、余ったレア以上のカードを持っていたりします?」

 そう来たか、でもあいにく。

「ごめん、今日はバインダー持ってきてないので」
「そっかぁ」

すこし残念そうだが、彼女はシールの贈与撤回しなかった。ブッダだ。

「さっきはPRガード二種類も集めたと言いましたよね?」
「うん。これと、これがね」

彼女はバインダーのページをめぐり、コーディングが輝くカードを見せた。他にPRガードもかなり集めている。ガチ勢とみた。

「それで、一ヶ月にどれ程の金をアイカツに注ぎ込んでるんですか?」
「うん……3千(約一万日本円)ぐらいかな」
「ワオ……なるほどどおりで……スケールと覚悟が違いすぎますわ」
「まあまあ。そちらは始めて間もなくですか?」
「いいえ、もうすぐ一年です」
「一年!じゃあカードいっぱい持ってるよね?」
「ま、そうすね。大体被ってるけどね」
「わたしもそうですわ~」

 話している間に、彼女はカードの背面にカードを貼り終わった。

「本当にありがとうございました。これで進捗が大分進めましたよ。あっ、もしPRガードが出たら差し上げますね」

そう言った俺は再び台にコインを入れた。

一枚目、Nカード、シールなし。

二枚目、Rカード、シールなし。

三枚目、CPカード、シールなし。

「なんかすみません」
「いいのいいの」

彼女はそう言い、ゲームを再開した。俺以上にコインを入れている。

次の曲を叩いている間に、俺はずっともやもやしていていた。どうにかして彼女への返礼ができないのかと考えていた。でも今日はバインダーから一ページだけを外してかばんに入れたという軽装だし……いや、あったわ。

この間排出されたMilkyjokerのハロウィーンキャンペーンカードがあった。初めて入手した貴重なMilkyjokerだが、隣の剣闘士がしてくれた恩恵と比べたら……決めた。彼女のプレイが終わった頃に、俺から話しかけた。

「このカード持っています?」
「うん?見たことありませんね」
「Vol.3のレア枠ですよ。よかったどうぞ」
「ほんとうですか?ありがとー!」
「こちらこそ。そろそろ行くんで、また会うことがあったらトレーディングしましょう!」
「いいですよ」

両方満足の結果となり、かなり上機嫌になった俺はゲーセンを出た。彼女の名前もLineも聞かなかった。そこまでする必要はないと思うからだ。縁があればG・G(グラディエーター・グラビティ)が自然に我々を導いてくれるだろう。

今日の収穫:

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今持っているデカールは18枚。PRガードと交換できるまであと12枚。

ーローマー

「待て!名前だ!せめて名前を教えてくれ!」

 斧を担いで立ち去る剣闘士の背中に、ドゥームは叫んだ。身長は高くないが、横幅のいい女は振り返り、丸い顔がニヤっと笑ってみせた。

「フォーレストのチュラァア、山の民だ。たまに山を降りて稼ぐ。貴様と違って奴隷ではない」

「チュラァア。覚えたぜ」ドゥームは彼女から受け取ったデカールを握りしめた。「感謝する。必ずPRアーマーを手に入れて見せる!」

「おまえはおれになんの証明をする必要はない。まあせいぜい頑張れや」

 チュラァアは手を振り、前に向いて歩き出した。彼女の背中にボリュームのある戦士風三つ編が揺れている。


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