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お肉仮面vs.タコ Ⅳ

タコ焼き機の穴の中、タコ焼き生地が熱を受け、形が固まりつつあった。

「......」

場にいる3人は誰ひとりひと言も発せず、静かに生地が焼かれるのを見守っている。ジュー……と心地のいい音が水蒸気と共にたち昇る。

「そろそろ裏返すパズか」
「おっ、来た。タコ焼きパーフォーマンス一番の見どころ!」生肉の仮面に空いた穴の奥にお肉仮面は子供みたいに目を輝かせる。「今度は触手をタコ焼きピックに変形するでしょう?」
「パズズズ……」オクトパズズは人間でチッチッチを言う時の感じで触手を左右に振る。「オレ様にピックは要らんパズ。触手が使いようよ」
「結局触手は使うんだ」
「言葉ではとても言い表せないパズ、とにかくオレ様のワザに刮目せよ!」

オクトパズズは2本の触手を伸ばし、タコ焼き機の上にかざす。少しでもブレたらやけどしてしまうほどの至近距離。読者たちは決して家や店で真似しないように。

「パァー......シュー......」

深呼吸につれてタコ頭が膨み、縮む。触手に意識を集中させる。タコ筋肉が収縮し、触手の強度が増す。

「フンッ!」

触手が自動洗車トンネルの回転ブラシのように緩慢に動く。1本目の触手が吸盤を細かく動かして余った生地を剥がし、穴に詰める。そして2本目の触手は吸盤がタコ焼きに吸い付き、引っ張り、裏返していく。

「わっ」「すごっ」

熟練したポーカーディーラーのシャフルのような精彩さとベルトコンベヤーの上に等間隔で運ばれるクラッカーのような整然さ。お肉仮面と電楽は感嘆した。

「あの、手が熱くない?」

と電楽が尋ねる。

「この2本の触手は厳しい修行の末にできた分厚いタコに護られている。200℃まで平気パズ」
「タコ足にタコってか」
「別に大したことではない。フライドチキン屋はアツアツの油が腕に跳ねても動じない。海鮮レストランでは生きたロブスターを熱湯に入れるに抵抗がないと同じこと。要は慣れパズ。」
「確かに。僕はあまりにも肉が好きて生きている牛さんを見ると自ずと解体の手順が頭に浮かぶし、電楽は地雷メイクを研究し始めて今や地雷を作っちゃってるもんね」
「その喩え方ちょっとズレていると思いますよお肉仮面さん」

雑談をしているうちに、そろそろタコ焼きの裏面も焼けてきた。

「静かにパス、何が聞こえてこない?」
「うん?なんも聞こえないけど?」
「そうか、聞こえないパズか、焼き上がったタコ焼きが奏でる喜びのメロディを!」
「そんなことどうでもいいからさっさと仕上げろ、焼き上がってんだろ?」
「パズっ」

電楽に言われ、オクトパズズは気が落ちつつもつつも弛まぬ使命感で作業を続行。吸盤でタコ焼きを吸い上げ、皿に盛り付ける。残り4本の触手を交代に使ってトッピングしていく。オタフクソースを軽く塗り、その上にマヨネーズをストライプを描く。のり粉末、万能ネギ、最後に鰹節をふりかける。

「完成パズ!アツアツのうちにお食べ!」

6×6に並んでいるタコ焼きの上に、鰹節は熱気を受けてうごめいてい食欲をそそる。

「それでは遠慮なく」
「いただきます」

お肉仮面と電楽は箸でタコ焼きをつまみ上げ、口に放り込む。

「うぉむぅぅぅ!?」
「アッッッツッ!!」

カリッと仕上げた皮が破れて、溶岩じみてトロっとした中身が広がり口内を苛む!

「アッツイ!アッツイヨォー!!」
「はふっ、はふはふはふふっ!!」

熱いと訴えながらも、2人はタコ焼きを咀嚼し、嚥下する。そしてまた次のタコ焼きに箸を伸ばす。

「アッツゥイ!アツすぎる!!」
「ふんふんはほはひほーい!!」

無心にタコ焼きを貪る2人を見て、オクトパズズは満足げにラーメン屋のポスター風にタコ足を組んだ。

「はぁー、美味かったァー」
「大口を叩いただけある。実に美味しかった」

3分もかからず、お肉仮面と電楽は36個のタコ焼きが平らけた。

「パズッズッズッズ……どうだ?オレ様のタコ焼き、大したものだろう?これでわかったか、適切な食材、タコ焼き機の正しい使い方、そしてなによりーータコ焼きを愛する心があれば、誰でもうまいタコ焼きが作れるパズ」
「ああ、最高だったよ。さすがはタコの悪魔」

お肉仮面はオクトパズズに右手を差しだす。

「いつかお肉仮面ランドを建てる時はお前さんためにフードコートのスペースを一つ空いておく。そこでタコ焼き屋やってくれよ!」
「しっかり覚えておく、二言はないパズよ」

オクトパズズはタコ足でお肉仮面の手を握り、シェイクした。

「目的は達成した。そろそろ行くパズ」
「もう行っちゃうの?外は寒いよ?お前さん変温動物でしょう?」
「心配ないパズ。悪魔は内なる地獄の炎で最低でも体温が36℃保つパズ」
「そっか、なら大丈夫ね!いってらっしゃい」
「サラバパズ」

オクトパズズは礼をし、ダイニングルームを出た。

「いやぁ~本当に美味かったな、オクトパズズのタコ焼きは。これからタコ焼きを食べるたびに思い出しちゃうだろうなぁ。どうしよ……なぁ電楽」
「うん、そうですね」

またタコ焼きの余韻に浸っているお肉仮面の横に、電楽は真剣な顔でタブレットを操作し家のセキュリティシステムをマニュアルモードに切り替わった。

暖かい家に中に対し、ドアの外は酷寒の世界。しかしオクトパズズの心は暖かい気持ちがいっぱいであった。

(これでタコ焼き秩序が守られた。自分が誇らしいパスわ〜。さて次はどころにいこうか……)

勤めを果たしたオクトパズズは次のタコ焼き機正しく使っていない現場に向かおうとした。その前にまず電楽によって地雷を埋められた前庭を渡らないといけない。オクトパズズは来た時と同じ、触手で地雷の場所を探知しながら慎重に歩いた。

カチッ。音と共に、オクトパズズの前後左右四方向に筒状の物体が飛び上がる。人員殺傷用の跳躍地雷だ。

「パっ」

筒が炸裂し、内蔵の金属玉が飛び散ってオクトパズズをえぐるにいく!

「ズズーーッ!!?」

オクトパズズは咄嗟に体を軟化させ地べたに這いつくばって散弾を回避!しかし間髪いれずに今度は地中に埋もれた対人フラグマインが起爆!

「ぱああああああああ!!!」

打ち上げられ、オクトパズズはボロ布のように宙に浮く。そこへダメ押しばなりに対空ミサイルが着弾爆発!KABOOOOOM!!!

白い雪の上に、タコの破片が散らばった。

「エリミネイト完了。リモートで起爆できる仕様にした甲斐がありました」

タプレットに移っているカメラ映像に通し、電楽はオクトパズズの死亡を確信した。

「お肉仮面さん、ごめんなさい。あなたが奴を高く評価しているのがわかっています」

と電楽は申し訳なさそうに言った。

「本当だよ、なにをしやがってくれたんだい」先ほどの雰囲気が一変、お肉仮面の口調は冷凍唐揚げのように冷たかった。「弁明、聞かせてもらおうか?」
「はい。オクトパズズは気のいい奴ですし、タコ焼きは確かに高水準でした。しかしながらあやつがやっていたことは観念の押し付けに過ぎません。タコ焼き機とは言え所詮は穴は空いた鉄板。それを使ってなにを焼くかは使用者の自由です。タコが口を挟むべきではありません。これに関してオクトパズズはうざったくてしょうがないって思っていました」
「ふむ。電楽の言い分は一理あるが、それだけで彼を爆殺するのかね?」
「もちろん理由はそれだけではありません」

電楽は拳を握り締め、歯を噛み締める。

「あいつが、私とお肉仮面さん2人っきりの時間を邪魔したッ!タコ如きがふざけるなッ!ずっと我慢していたのですよォ!お肉仮面さんがあいつのタコ焼きを褒める時、私はどんなき、気持ちで見ていたのわかりますかァ!?」
「もういい、電楽」
「むぉ」

お肉仮面の大きな体が電楽を抱擁した。あたかもギョーザ皮で具を包むように。

「僕はタコ焼きに気を取られて、きみの気持ちを疎かにした。すまないな電楽、許してくれ」
「お肉仮面ずゎん......うわああああああああん!!!」

電楽はお肉仮面の胸に顔を埋めて、2分ほど鳴き続けた。

「よしよし、少し落ち着いたか?」
「......うん」
「じゃ離れようか」
「はい、ずびません」
「はは、服が涙と鼻水でべちょべちょだ。着替えてくるね」
「あの、サイコロステーキまた残っていますけど、また焼きますか?」
「もちろん!電楽が用意してくれた肉だもん!」

肉と欲の夜がまた続く。雪が静かに降り、やがて爆発痕とオクトパズズの肉片を覆い隠すだろう。

(お肉仮面vs.タコ END)

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