チャーハン神 炒漢②
「では、厨房を見学させてもらおう」
「えっ、ちょっと困ります!」
店員が気を取り直し、厨房へ歩む炒漢を阻んだ。
「厨房は部外者立ち入り禁止です!」
当然の対応だ。捜査票なし勝手にプライベートエリアに入れば立派な侵入罪である。炒漢は止まり、店員を見つめた。
「何を恐れておる?」「な」「隠れようが無駄だ。空気中に漂っている油煙、コンソメ粉末、味覇の粒子からすべてがわかった。半チャーハンを作る際は半分ライスではなく、他処で言う一人分のライスを使っている。そして残りの半分は何らかの原因で客に出していない」
(えっ、どゆこと?)側で話を聞いているセンチ美は自分なりに内容を理解するに務めた。(半チャーハンは最初から一つの単位ではなく、普通サイズのチャーハンを作ってから半部に分けたってこと?しかし残り半分は客に出していない?さっき私らが半チャーハン三つ頼んだ、てこと実際チャーハンを三つ、イクォール半チャーハン六つを作ったのか?)
「きみの思った通りだセンチ美」
「ひぇ!?」
気が付くと炒漢に化したテツローのバターをたっぷり使って仕上げたオムレツにような金色の瞳に見られてビックリしたセンチ美。(ワオ、めっちゃミステリー……)乙女心がざわつく!
「(じゃなくって!)思った通りって、私今なんか言った?」
「きみの胃の中にある消化中のチャーハンに介してきみの思考を読んだ。わたしはすべてのチャーハンと繋がりおり、チャーハンから情報を収集している。所謂チャーハンネットワークだ」
「チャーハン……ネットワーク……」
脳内にLANケーブルが刺さったチャーハンの画か浮かぶセンチ美。
「厨房内の異常もチャーネットである程度把握した。わたしがここにいた以上、安心して任せてほしい」
炒漢は掌で店員の肩を触り、温かい体温とほんの熱したヒマワリ油の芳香が彼女の緊張を和らげた。
「でも、チャーハンを調理するときは絶対に入るなって、店長が……」
「きみはいつものように振る舞ってくれれば良い」話している間に、炒男が券売機で半チャーハンを二つ注文し、Suicaで決済した。「あとはわたしがやる。必ずや店長を助ける」
「ぐぅぅ……どうか、よろしくお願いしますッ」
涙ぐみながら、店員が食券を受け取り、炒漢におじぎした。
(なに?どうなってんのこれ?)
話しについて行けないセンチ美。奥の席にいる客がわかめスープを啜り、事の成り行きを見守った。
🔥🍚🥚
「半チャーハン二つ、入ります」
小窓が開かれ、食券が入ってまた閉めた。料理人らしくない細くて切り傷と火傷一つない指がそれを拾い上げる。
「オッホー!半チャーハン二つだ!さっさと始めな店長!(くちゃくちゃ)」
「……イェス、シェフ」
「声が小さいィ!(くちゃくちゃ)」
「ハァイ!シェーッフ!」
「ヨシ!ハジメロ!(くちゃくちゃ)」
白い厨師服と頭巾をかぶった店長の男は炊飯器から、半チャーハン四人分のライスを盛った。もう一度言う、四人分である。なぜ彼はこのような行動を取ったのか。
そしてシェフと呼ばれた人物、それは黒い旗袍(チャイナドレスのことだ)を着た容姿が十代後半の黒髪ロング美少女。ぎゅうっと身体にフィットした布が乳袋を作り、豊満な胸を強調している。調理台に乗せているお餅のような尻が角に当たってあざとく肉感を誇示、手に持っているチャーハンを絶え間なくスプーンで口に運んで、糖分油塩分を大量摂取にも関わらずその腰は陸上部の男子中学生のように細く、厨房という高湿度、高温の環境でも肌に一滴の汗も見られていない。彼女は明らかに異常だ。
そう、実際彼女は人間ではなかった。
「そうだ。チャーハンを四つつくれ(くちゃくちゃ)残り半分は、このおれが」チャーハンを咀嚼しながら、男子十人中十人の心が溶ける可愛らしい顔に邪悪な笑みが浮かんだ。
「”半鼎魔”さまがいただくぞ!」
(続く)