前の車が青信号になっても動く様子がないのでクラクションで煽ったら大変だった件(映画Unhingedの感想)
※ネタバレは避けられませんでした
レイチェルは郊外の一軒家で、息子のカイル、弟のフレディとそのフィアンセと一緒に住んでいる。レイチェルが勤めていたサロンが閉店して、今は出張で美容師をやっている。夫とは離婚調停している最中である。決して幸せとは言えないが、健気に生きている。
今日も寝坊したレイチェルは息子とどたばたで家を出た。学校に向かう途中で渋帯に遭遇、覚悟して高速に入っても、またも渋滞に囚われた。レイチェルのストレスが高まる。その時大手顧客からの電話が来た。約束の時間が過ぎてしまう。間に合わないと告げたレイチェルに顧客が呆れ、彼女をクビにした。ストレスが高まりゆく。
「最悪の一日だわ。もうこれ以上悪くなることないだろう」そう思うレイチェルは高速を降りた。しかし前にいるトラック(SUVより一回大きい車に荷台をつけたタイプの)が青信号になっても、動く様子が全くない。ストレスが頂点に達したレイチェルはクラクションを鳴らした。それも軽いやつではなく、長く、大きく、相手に敵意を示す方だ。
そして次の信号で、さっきのトラックがレイチェルの隣に止まって、ウィンドウを下ろした。太った中年男性の顔が現れた。
「奥様、さっきはすまなかった。ボーとしてたんだ。昨日は最悪な一日を過ごしたせいで……でもあんたも大概だ。クラクションのマナー知ってる?バ、バッバと、軽く三回。善意のある忠告だ。そうすれば誰も傷つかない。でもさっきのあれは?ものすごく失礼だ。あんたも謝ってくれれば、無かったことにしよう」
「謝ることはなにもない!」レイチェルは爆発した。「こっちだって最悪の一日だわ!ボーとしていたアンタが悪い!」
断固なる姿勢のレイチェルに対し、男の目つきが険しくなった。
「あばずれが……お前に何がわかる。思い知らせてやるよ、最悪の一日をな!」
レイチェルにとって最悪の一日、スタート。
Monday、それ一週間の始まりであり、世の終わりである。有難く休日の翌朝、二日酔いや筋肉痛を耐え、この世のすべてを呪いながら着替えて仕事に赴く。そんな経験を抱いた人が大勢いるだろう。人はストレスが溜まると、他人に対して不寛容になる。それが更なるストレスに繋がる。この映画はそのような注意喚起をしようとしているように思えるが、ちょっと役不足だった。
不安全運転がやばすぎる
映画開始数分、ずっと叫びたかった。
「ウィンカーつけろよ!運転中に電話すんな!せめてブルトゥースイヤホンかマイクでしろ!前を見ろ!ちょくちょく振り向いて後ろ席の息子をと喋るな!路肩を走るな!前を見ろ前ェーッ!」
なんてこった、ここは岡山か?開始数分で交通違反の数々、こいつ安全運転する気ねえだろ?免許は金で買ったろ?と思わせるレイチェルの危なかっしい運転。またヴィランが登場していないのにこんなだぞ?これはいずれ絶対トラブルになる、それが今日だけのことだ。
知人との電話からレイチェルは遅刻の常習犯ってことが明らかになる、そのせいで周囲の人に面倒かけている。ちょっとしただめ人間だ。こういうキャラだから感情移入がしつらく、多少傷ついてもこっちのストレスにはならないからいいかも。
やはりラッセル・クロウはすごい
五十代、中年になり、グラディエーターやロビンフッドで見せたムキムキボディなくとも、それでもラッセル・クロウはすごかった。今作で彼の役である”男(The man)”、ヴィランでありながら今作の主役。中年太り、髭面、濁った目。持病持ちで呼吸が重苦しく、顔が脂汗で常に艶を帯びている。躊躇いなく道のど真ん中で急停車したり急Uターンしたり人を轢いたりする。普段死んでいる目だが人を傷つける時だけキラキラしている。とても濃いキャラだが、彼のバックストーリーはほとんど描かれず、セリフから僅かな情報を垣間見えただけで想像を膨らませる。誰だって男(The man)になる得る……という制作側の意図かもしれない。無敵の限界中年男性と化したラッセル・クロウの演技に刮目だ。彼が運転する車が画面にうつる時に流れる重苦しい音楽が笑える。ジョースかよ。
極道技巧
ロード・レイジを主題として扱う本作、運転シーンも多い。ワイルドなスピートシリーズみたいなあり得ない技を繰り広げるやつではなく、一般人として中々上手い程度で留まっているが、それでもやはり自己シーンは痛快もなもので、見ていて癒される。あっ、他人の不幸でメシウマの劣根性が表しました?グフフ、すみません。中盤のハイウェイのカーチェイス、圧巻だった。相手の退路を断つついでに官憲車の追跡を防ぐ方法、それは巧に他車にぶつかって失速させ、失速した車にさらに車が追突して、やがて大惨事なってバリケートができて、警察の注意をそっちに向かわせるって寸法さ。それが最近はまっている忍者と極道が殺し合う漫画に通ずるものがあった。極道技巧『胡蝶特効(バタフライエフェクト)』とでも名付けよう。
エンディングでムスッとする
エンディングね、あれは自分にとっちゃ後味悪かったね。「レイチェルは今教訓から学び、軽率にクラクションを鳴らさなかった」と言いたいだろうけど、どうも納得できない。完全に相手が悪いのにこっちが我慢すれば穏便にやり過ごせる?腰抜けになるってことか?断りだね。交通違反野郎に遠慮する必要はどこにある?車から降りろオラ!なんだテメぇその態度よぉ?そっちが信号無視したろがコラァ!?カメラ撮ってんぞ!あぁん?なに急に弱気になってんだよおめえはよ、さっきの勢いはどうしたえぇ?っておい!それ以上近づくんじゃねえ!(後ろ席からバットを取り出す)死にてえのか!?アアアアー!!!
俺の国だったら、こんな大掛かりな手間はかかない。一回目の煽りで決着がついてるよ誰か死滅(くたばる)によって。うーん美しき人間地獄。
結論
あなたがラッセル・クロウのファンで、彼が元気にやっているか確かめたいならまず見て損はないでしょう。事故映像が好きな人にもおすすめ。お説教要素は露骨だが気にする必要はない。きみはきみが正しい思う道を貫け。今日も一日ご安全に。
補充:
Unhingedのチケットを買うとシールが貰えました。何を書いていあるか検索してみましょう。