目を醒ませ僕らのチップスが何者かに細くされてるぞ!
「ANGRY……SADNESS……こんな世界、滅茶苦茶にしたい……」
暗い部屋の中、黒い服を着た黒髪の少年が暗い顔で呟いた。
『やぁやぁ、陰キャ君!今日もマイナスオーラ溢れてるね!なにがあったんだい?』
「キロカーン……」
PCモニターの中、黒いフルフェイスヘルメットと黒いマント纏った魔王のような存在が映った。彼の名は零壱魔王キロカーン、現実世界の侵略を目論んでいる邪悪な軍事AIである。彼が本心では全ての有機生命体を下等生物だと見下しているが、陰キャラ君の才能を利用するために表は親切に接している。
「聞いてよキロカーン!ぼぼ僕は期間限定のプリングルズフライドチキン味を買おうとチャリ漕いで、コンビニも、スーパーも、7軒も、廻ったのに!どこにもないんだ!うわぁぁぁーん!!」
急に泣き叫ぶ陰キャ君。彼はメンタルが弱いのだ。
『それは辛かったねぇ。で、陰キャ君はこれからどうしたいの?』
「うぐっ……VENGENCE......報復だ!僕のプリングルズフライドチキン味を奪った陽キャとデブどもを絶望のドン底に叩き込んでやるッ!』
陰キャ君がすごい勢いでキーポードを叩き、わずか数分で新しい怪獣の怪獣3Dモデルを完成させた。それは発芽したジャガイモを積み上げたゴーレムみたいな怪獣であった。
「これが芋毒怪獣、ポジャントだ!」
『えーなんか雑ぅ〜?まいっか。メタウィルス注入!汝に命を吹き込めん!』
キロカーンの指先から放たれた光線を受けた怪獣モデルは解像度が実写レベルに上がる!動く!光る!叫ぶ!
『イィィーモォォオオオオ!!!』
「さあゆけ、ポジャント!ポテトチップス産業を破壊しろ!」
『イィィーモォォオオオオ!!!』
芋毒怪獣ポジャントは陰キャラ君の家のLANケーブルから全国に張り巡らす電力システム経由して瞬時にミシガン州バトルクリーにあるケロッグ本社のローカルインターネットの侵入を果たした。
『イィィーモォォオオオオ!!!』
デジ・ワールドでポジャントが暴れはじめる!
数週間後。
チーム・サムライは放課後に全員サムの家に集まってバンドの練習をする予定だが、ドラマーのタンカーがなかなかこない。
「タンカーの奴、どこで油売ってんだよも~」ギタリストのサムはしびれを切らしていた。「ベースとキーボードはともかく、ドラムがないとバンドが成り立たないだろうがよ~」
「あら、それじゃあたしとアンプがいなくてもいいわけ?」キーボード兼ボーカルのシドニーは口を尖らせる。「いいわ、今日これで帰らせたもらうね」
「いや、待ってシド!すまん、ちょっと言葉が軽率だった!もう少し居てくれ!」
「おれっちはべつ演奏しなくてもいいからよ。ここで寛いでもらうぜぇー」
自称宇宙人のベーシスト、アンプがソファで横たわりながら言った。完全にここで寝泊まりする勢いである。
『アニキったら、また下手こいてしまったね』上の階に繋がっているパイプからサムの妹のエリザベスの声が届いた。『シドちゃん、冷蔵庫にあるヨーグルトは好きに食べていいから、アニキのことは大目で見てやってね』
「ありがとうリスちゃん。本当は怒ったふりをしてサムの反応を見てみたいだけだったけど、ヨーグルトは喜んでいただくわ」
「か、勝手に決めんじゃねえ!てか俺が買ったヨーグルトだぞ!」
サムがヨーグルトの所有権を主張すると、ドアが勢いよく開いた。
「ハァーッ!ハァーッ!タイヘンだ、タイヘンなことになってるぞ……!」
ドラマーのタンカー慌ただしく部屋に駆け込む。息を切らしてるし汗がすごい。
「やっと来たかタンカー!じゃあ早速バンドの練習を……」
「今はそれところじゃないッ!」
タンカーは手に持っていた円柱体を机に叩きつける。
「これを見てくれ!これは何だと思う?」
「なにって、プリングルズだけど?」
「なんか違和感を感じないか?」
「いきなりそう言われても……」
「うん?なんか若干細く見えねぇか?」
「それだ!さすがアンプは鋭いぜ!」
「まあおれっち一応宇宙人だし」
「そうなの?あたしには普通に見えるけど」
「そりゃシドは普段おやつ食べないからだろ。おいサム、空の缶でもいい、1ヶ月前のプリングルズはまた残っているか?」
「アー、多分そこらへんのゴミだめにあるんじゃない?確信はないけど……」
『1ヶ月前のプリングルズならここにあるわ!ほいっ』上の階に繋がっているパイプからプリングルズの筒がドロップした。『前にベルギーから仕入れたものよ!』
「サンキューリスちゃん!では諸君に客観かつ科学精神に基づいた検証をお見せする。まずは俺がさっきコンビニで買ったプリングルズとリスがくれたベルギーのプリングルズを並べて比べよう」
「うわっ、高低差が!」
「エグイって!」
「だろ?なんだって重さはこんぐらい違うからね!」
「55gも!?」
「エグいって!」
「またまたいくぜ!次は筒の直径を見てみよう」
「そして中身はこうだ」
「「はっ」」
サムとアンプは驚くのあまりに手で口を覆う。
「マジだ……一回り小さくなってる!」
「信じらんね……こんなの人間がやっていいことかよッ!?」
ふたりとも憤慨!タンカーが頷く。
「確かにこれほどの非道は人間の仕業だと考えにくい。もしかしたらキロカーンの悪巧みじゃないかと俺は睨んでいる。シド」
「はいはーい、もうやってるよ。あっ、本当だ。怪獣がいたわ。ケロッグのインターネットで暴れてる。モニターに出すね」
『イィーモォォオオオオ!!!』
ジャンク品じみたPCモニターにデジ・ワールドの映像が映し出す。発芽したジャガイモでできたゴーレムみたいなメタウィルス怪獣がパンチでサイバービルをなぎ倒している!
「こいつのせいでプリングルズが細くなったか!許せんッ!」
「電光超人グリッドマンの出番ね!」
「頼むぞサム!プリングルズの未来はお前にかかっている!」
「ああ、行ってくる!レッツ・サムライズ・ガイズ!」
掛け声とともにギターを鳴らし、サムは全身が光に包まれてデジ・ワールドへ転送され、赤と銀の鎧を纏ったサイバー戦士、電光超人グリッドに変身したのだ!
電光超人グリッドは家のLANケーブルから全国に張り巡らす電力システム経由して瞬時にミシガン州バトルクリーにあるケロッグ本社のローカルインターネット到達した。
『イモ!?イモォオオオ!!』』
怪獣がグリッドに気づいて襲ってくる。
「気をつけてグリッドマン、ジャガイモの芽に含まれるソラニンとチャコニンは一度発芽したら毒素がジャガイモ全体に浸透して、たとえ芽を取り除いて火を通しても毒性は無くならない、うっかり口に入れないように!」
『了解!では行くぞ!』
グリッドマンはポジャントと激しい戦いが始まった。殴ったり殴られたり、投げたり投げられたり、額のカラータイマーが鳴ってピンチになったり、盾や剣などの武器が転送されたりして、グリッドマンはなんとか怪獣の体力を削って動きを鈍らせた。
『トドメだ!グリッドォォォ.......ビーム!!』
『イィーモォォオオオオ!!!』
グリッドビームを受けた怪獣は爆発四散!
「「「やったー!」」」
モニターの前でタンカー、シド、アンプがハイタッチ!グリッドマンとチーム・サムライの勝利だ!
一方、暗い部屋のなかではキロカーンが陰キャラ君に制裁の電撃を喰らわせていた。
『また負けたじゃないか!』
「アアアアアアアアア!!!」
『役ただずの肉塊め!』
「アアアアアアアアア!!!」
「チンケな怪獣作りやがって!」
「アアアアアアアアア!!!」
「勝つ気があるのか!」
「アアアアアアアアア!!!」
キロカーンの野望が阻止され、デジ・ワールドは一旦平和を取り戻した。しかしプリングルズのサイズは元に戻らなかった。今回の件で企業は消費者が文句を言いつつも結局減量された商品を買ってしまうと解ったからだ。味をしめた企業はこれからもひっそりステルス値上げをやり続けるだろう。何が消費者の嗜好を踏まえた上での変更だ、何がカロリーを抑えるただ。君を肥満から救いに来たんだって?ふざけるな。カロリーを気してお菓子食べる奴がいるものか。企業がこんなセコい商売をやっている限り、消費者の心に溜まった怒りと悲しむが更なる怪獣を呼び出すだろう。果たして今度もグリッドマンが助けに来てくれるだろうか?
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