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炊飯仙人炊翁⑥
炊飯粒子に生成に必要なカロリーを補給すべく厨房に戻った炊翁の目前、絶望的な風景が広がっていました。
炊き込みご飯が入った鍋に代り、食卓の上に一皿のチャーハンが乗っており、4人の少年少女が食卓に座っていました。
「これはっ」
炊翁の猛禽類に匹敵する視力でチャーハンを分析。確認てきたのはキノコ、タケノコ、ニンジン、そして香ばしいゴマ油のにおい。ベジタリアンも安心で食べれるベジ・チャーハンです。炊翁は確信しました。
「なんて、こと……!」
「「「「戦闘に夢中になりすぎたな、炊翁よ」」」」
少年少女たちが抑揚のない声で同時に言いました。
「「「「貴様が炒飯軍団に手こずっている間、私はすでに炒飯少年団を遣わして手筈を整えたのだ
!見よ、この麗しきベジ・チャーハンを!」」」」
炒飯少年団一斉に手を伸ばしてベジ・チャーハンをアピールします。
「「「「すでにおきづきであろう。貴様が作った炊き込みご飯に手を加え、チャーハンにしたのだ!」」」」
なんと、炒飯神太郎は炊翁とバトルを繰り広げる間に戦闘に適さないサルベージ村の子供たちで構成された炒飯少年団を炊翁の家に忍びこませて炊翁が作った炊き込みご飯を作り直したのです!
「ぐっ……ぐっ……ぎっ……!」
炊翁は怒るあまり声も出ず歯を食いしばります。その背後に、炒飯神太郎はドアを使って悠々と入室しました。
「炊き込みご飯は油で炒めるといとも簡単にチャーハンと成る。その過程は時間が戻らない限り不可逆である。それがチャーハンがあらゆる面において炊き込みご飯に優れている何よりの証拠よ」
「嗟ァァーーッ!!」
炊翁は炊飯粒子を右足に纏わせ、後ろ回し蹴りを繰り出します。
「忿ッ!」
炒飯神太郎が腕で難なくガード、怪我で元気大傷した炊翁は炊飯粒子の大幅減少でスピートが亜光速まで落ちてしまっています。
「遅い!これぐらい造作もないわッ!」
炒飯神太郎は返手して炊翁の右足の脛を掌握したと同時に内力を込めて火雲掌を発動!赤熱した指が焼きごてのように炊翁を苛みます。
「がああああああああ!!!」
足を引こうとしても、万鈞のごとく握力を込めた炒飯神太郎の指が肉に食い込んで離せそうにありません。
「ハハハハハッ!これで文字通り手足も出まい!」
哄笑しながら、炒飯神太郎は逆の手で拳を握り、振動させます。
「私はかつて貴様に屈辱まみれの敗北を味あわさせられた。本来は貴様が死なない程度に思う存分いたぶり尽くしてから殺すともだったが、私は慈悲深い炒飯神だ、痛みを感じる隙もなくその頭を砕いてくれよう。この場に炒飯少年団もいるし、あまりグロいことはできん」
朝食のシリアルに牛乳を注ぐかの如く平然と死刑宣告を言い放す炒飯神太郎を、炊翁は痛みで顔を歪めながら怒視していました。
「……これで終わりだと、思わないことだ、ド外道ッ!炊き込みご飯は世界中にある、私はその中の一人に過ぎぬ。兄弟子、そして祖師比羅夫は必ず貴様を止めるだろう!」
「そん時ゃ返り討ちにしてくれるわ。では炒飯少年団よ、カウントダウン願おうか?3からで」
「「「「かしこまりました、3」」」
炒飯神太郎は肘を弓のように引き、大振りに構えました。
「「「「2」」」」
炊翁は歯を食いしばりました。絶体絶命的な状況の中でも、その目は依然輝いていました。
「「「「1」」」」
「刹ァッ!」
炒飯神太郎の超振動の必殺拳ーー顫拳。
「哈ァァァッ!」
に対する炊翁の決死のカウンターヘッドバット!相手の狙いが分かったうえ、せめて己の命と引き換えに炒飯神太郎を拳を砕かんという意地の一撃。
ゴプァッ!肉と骨がぶつかる鈍い音が響きました。炊翁は頭蓋骨が陥没し、脳漿が飛び散りました。
「祖師さまァァァッ!!!」
最期の叫びを上げた炊翁は体の輪郭が崩壊し、数兆の炊飯粒子となって飛び散りました。光速より早く動く粒子は数秒の内に、中央アジアのとある寺院らしきに到達しました。
「むーん?」
大きな鍋の前に座禅していた壮年の男は目を開きます。彼の周りに凝結した炊飯粒子が雲霧のように揺蕩います。
「そうか、そんなことか……」
男は立ち上がり、遠方を見ました。ちょうど炒飯神太郎がいる方向です。
「この時代でも、戦は避けられんか……」
男は感嘆っぽく言いました。彼こそが始祖炊飯天尊比羅夫、その当人です。
(続く)
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