【剣闘小説】万聖祭り、IRONの死闘6
「NERF社の最高火力を喰らえィ!Urahhhhhh!!!」
ズゥーギャギャギャギャッ!モーターが唸り声をあげて、タイタンCS-50の銃身が高速回転してダート弾を射出!実際のところタイタンCS-50はカトリングガンではいためバレルが一つしかなく、回転する銃身はただの演出だが、そこがいいのだ。ズドドドドッ、ダート弾の嵐がヘラクレスとソーを襲う!
「いっったァ!痛むぞ!まことに」
「むっ、これはっ」
腕をクロスして頭を守り弾を耐えるソーの後ろに、ヘラクレスがダート弾の一つを拾い上げ、においを嗅いだ。
「退魔効果のある精油をぬったか!」
「WARァーHAHAHAHA!そのとーり!お前らの到来に備えて、一年間で練り上げた幽鬼特効弾を喰らって消滅しろッ!」
「そうであったか。なんかネタを明かすと平気な気がしてきたぞ」
「ああ、痛いけど所詮は豆鉄砲ぐらいか」
「よし。では我があのイキリ野郎をしばいてくる」
「えっ」
退魔ダート弾を受けつつも、怯む様子を見せないソーは弾幕を物ともせず、一直線でトイズロのお兄さんに向かって距離を詰める。ギャーガガガガッ、タイタンCS-50のモーター音先程と比べて遥かにショボく聞こえた。
「えっなんで!?さっきはトイズロを襲った幽鬼には効いていたのに!」
「ほう、それでワイドハント戦士を倒したか。感心。しかし我の格はそこらへんの連中とは段違いなのだ」
「アッ」
前腕だけでお兄さんの太ももよりも太いソーの腕が、いとも容易くタイタンCS−50を奪いとった。
「我はソー、神王オーディンの息子、雷と嵐の王子、巨人砕き、ジョク・オブ・ジョクスである」
両端を持って、力を加えると、プラスチック材質の銃身がポテトチップスのように砕けた。
「アッッ!」「そしてお前はナード、ジョクに辱めれられ、弄ばれるための存在」
ソーはお兄さんの腰とズボンの間に指を差し込んで、下着の襟を掴んだ。
「アッ」
小学校入学から高校卒業までの12年間、ジョクの暴威を耐えて、屈辱まみれなスクールライフを送ってきたお兄さんはこれから何が起こるか完全に理解し、絶望した。
「とどのつまり貴様と我は、サイクロンと蚤の差!おもちゃでこのサンダーゴッドを倒そうなど、幻想も甚だしいわ!喰らえいッ!」
ソーは下着を思いっきりに上に引き上げた。
「ごほぼぉおおお!!?」
引き上がられたパンツが絞首縄めいてお兄さんの股間を、男性の大事なところを締め上げる!苦痛と屈辱を同時に与える、伝統ある残虐極まりないBULLY技、ウェッジ―(wedgie)でる!
「ぎゃぃ……ぎぇぇぇ……ほごぉっぉお!!!」
「まただ!コレアだけでは済まさん!下着を貴様の顔に被せるまで伸ばして、アトミック・ウェッジーを成すまで放さんぞ!イェアアア!」
「ンノホオォォォーー!!!」
「ぬふハハハハッ!」
お兄さんが悶え苦しむほどに、ソーの顔が愉悦に満ちていく。一方、ヘラクレス親指の爪を噛みながらいじめの現場を見守っていた。
「アーいいなぁ。俺もナード野郎シゴキたい……グワーーッ!?」
背後から、超自然の冷気を帯びた長い刃がヘラクレスの脳天を割り、胸まで切り裂いた!
「ヒッ」
横にいる少女がグロ画像を予想して反射的に手で視線遮ったが、幽鬼なので脳漿と血液が飛び散らすことなく断面からは蒸気みたいなエッセンスが溢れるだけ。
「娘ぇ!走れるか!?」弩木は少女に言った。
「あ、ああ!走れる!」
「よしじゃあそこへ行け!」弩木は顎でスタッフルームを指した。「ドアを開けて待て!」
「お、おうわかった!」
「へー君!?大事ないか!?」
トイズロのお兄さんを放り捨て、ソーが向かってくる。彼と退治すべく、弩木は薙刀を引き抜き……抜けない!切断面の筋肉が固めて薙刀刃を締めつけている、再生の兆候を見せている!
「どたま割れて死なねえのかよ!?……クソァ!」
やぶれかぶれに、低温でひっついた手を薙刀の柄から強引に剥がした。掌が千切れて、柄に剥いたシールテープの跡みたいな皮膚を残した。
「ウガァーッ!ファッキン痛てぇッッ!」
ズタズタに裂けた掌から血液が溢れる。弩木はヘラクレスに向かうソーに気を配りつつ、迂回してトイズロのお兄さんのところへ駆け付けた。
「おい立てるか!?」
「げひぇひぇ……」
「そりゃ立てねえか!」
お兄さんを抱え上げ、スタッフルームへ走った。一方ソーは割られたヘラクレスの頭を左右から掴んだ。
「へー君!くっつけてやるから気を引き締めろ!」
「おべばびびびびべ」
発生器官に支障をきたしたヘラクレスは不明旅な声しか発せないが、ソーはそれ意味を分かっている。二人はマブだからだ。
「321で行くぞ……1!」
ソーはヘラクレスの左右半分の頭部を合わせて、力を加えた。そして断面から青白い光が発して接合していく。すぐ様ヘラクレスが元通りになった。
「ふぅー、助かったぜソーちゃん。ありがとう」
「それは良かった。では阿婆擦れに然るべき報復を……む」
二人は振り返ると当時に、スタッフルームのドアがパーンと超えたてて閉められた。
「あーあー」「逃げられたか」
二人はちょっと落胆したように肩を下げた。彼らに掛かればドアを破壊するのは容易いが、そうしない理由がある。
「では元の計画通り、款待(トリート)を受けようか」「そうしよう」
会話を終えて、ソーは両替機に指さすと、指先から電流を放て両替機をショートさせ、誤作動を起こした。ギャバーン!ギャバーン!チリリリリリン!百円玉が湧き水の如く排出される!ヘラクレスはその大きな手に一杯のコインを掬った。
「よし!思いっきりあっそぶぞ!」
二人の幽鬼は悪童みたいに笑った。
⚔
パーン!お兄さんを抱えている弩木が入室したと見るや、少女がぶつけるようにドアを閉めた。
「ハァー……ハァー……おもてぇ……いってぇ……」
「あふっ」
お兄さんを降ろし、弩木は血まみれた手でロッカーから救急箱を取り出した。
「おいおばさん!大丈夫なのか?あいつらは言ってこないのかよ!?」と少女が不安そうに問うた。
「大丈夫、入ってこないよ。昨年もこうやってやり過ごした。ンンッ!」掌にかけた消毒液がもたらした刺激痛に弩木は唸った。「いま外は、奴らにとって款待〈トリート〉の場になっている。款待さえ貰えれば、それ以上の危害を加えてこない。そういう仕組みに……ンン、なってる。」
「……満々とハロウィンじゃん」
「ハロウィンだよ」
「すみません、僕はちょっと、たまたまの安否を……」お兄さんは部屋の隅でズボンのチャックを降ろし、股間をチェックした。「よかった、割れていない……」
と言い、お兄さんはそのまま隅で体育座りで身体をうずくまった。彼は身心ともに多大なダメージを負ったのだ。
「あの、さっきありがとうね」と少女が言った。「あの時あなたがいなかったら大変なことになったかも」
「はは……役に立てて光栄ですよ……」
お兄さんは弱々しく返事した。これ以上話すことがなく、彼女はスタッフルームを見渡した。部屋の中央にCOSTCOとかで売れている折り畳み式デスクを二つが並んで、壁際にロッカー、キャビネットがある。お兄さんの斜め向こうの隅に関しカメラの画像が映っているモニターがある。ほかに商品が入った段ボールとかゴミ袋が空間を巣食い、全体的に窮屈印象を与える空間だ。
「まあ適当に寛いでくれ。夜六時になると、ゴーストどもが出ていくはず。それまでに小の方はペットボトルとかでなんとかできるが、大の方はまじで我慢してくれ」
包帯を巻き終わった弩木は次にロッカーからジャックダニエルの瓶を取り出してラッパした。
「……こんな時によく飲んでいられるよ」
「あのな、こんな時だからこそ、飲まずにはいられないんだ。屈辱と後悔が少しでも和らけるよう、こうってな、ぐびっ」弩木はボトルを煽ると、次はお兄さんの方に差し出した。「あんたもどうよ」
「あ、ではちょっと頂きます……」
お兄さんはボトルを受け取って、一口含んだ。少女は大人の二人に呆れて、モニターに注目した。ヘラクレスは自動販売機を破壊してモンスタードリンク6本を同時に飲み、ソーはデータカードダスアイカツオンパレードの前に座って盛り上がっている。
「う」
先ほど二人のお大男に囲まれていた光景が浮かび、少女は思わず身震いして視線をモニターから離れた。そしてモニターの隣に、プラシードを被せた何かがシート下から光っているのを気付いた。
「なんだこりゃ?」
「それは先行体験で送られてきたアイカツプラネットの筐体だよ」弩木が答えた。「しかしがきんちょは力加減知らずで殴るようにミラーインしたからぶっ壊れた。今は修理を待っている」
「電源入れているっっぽいよ」
「え?マジ?コードはちゃんと抜いたはずだが……」
「ほら」
少女はシートを取ると、下のタッチパネルがひび割れているアイドルプラネット筐体が現れて、画面が映っている。しかしそれはタイトル画面でもなければ、デモの動画でもない。
亜麻色髪にワイン色の目、穏やかな雰囲気の女性が画面に映った。「はっ」弩木は瞠目して、息を呑んだ。
「あり得ない……そんな、あ、あんたは」
『あり得なくありまえんわ、弩木さん。今日はハロウィン、色んな世界が繋がる日ですもの』
「信じられねえ……全然変わってない……あの時とまったく」
『そういう貴女は随分変わりましたね。弩木さん。いいえ、昔みたいにドゥームさんと呼ぶべきでしょうか?』
「かさね……」
(えっ?えっ?なに?なにこれ?どうなってんの?)
不良少女は状況を解せず、ただ頭を左右に振って弩木と画面を交互に見まわした。