見出し画像

眞の拳 4 END #ppslgr

「チーターめ……赦さんッ!」ベルナルドの体から邪悪な闘気が立ち昇り、目がLEDフラッシュライトめいて発光し、極めてオフェンシブな前傾姿勢を取った。「もはやボクシングは無用!全霊を込めて、ここで貴様を仕留めるッ!」
「ベルナルドさん……」

 尊敬する者の堕落を目にして、心の中一抹の切なさがよぎつつも、自分の勝利が盤石だと確信した。舐めていた相手に逆襲され、追い詰められた挙句に体がでかくなって、さらに自分のプレイスタイルを捨てると宣言、負けフラグに負けフラグヲ重ねたようななものだ。"拳聖"のジュクゴからエネルギーが湧き出て、自信が溢れる。何でもやれる、今の俺なら。

「分かったよ」左手が顔の横、右手が顔の前、もはや体に染み付いたサウスポーの構え。「この一撃で、決着つけようぜ!ベルナルドさんッ!」
「死ねぇ!ボンボンがぁーッ!」

 ダァン!地面を蹴り、爆発めいた勢いでスタートアップ。ベルナルドが突進してくる。ジュクゴ力で思考がブーストして、あり得る未来を思い浮かべた。タックルを受けて体ががバラバラに打ち砕かれて即死。マウントにも持ち込まれてそのまま殴打死。組み付きからの窒息死か首折り死。あるいはダッシュパンチで頭ふっ飛ばさて……つまり初撃を受けたらどのみち死亡確定だそうだ。オワタ式プレイってわけか。そこでジュクゴが取るべき手段を提示した。相手よりも早く、重く、強い一撃をぶち込んで、倒せばいい。いいね、簡単明瞭。昂ってきたぜ!

 ベルナルドが迫ってくる。広げた黒く逞しい腕が死神の大バサミめいて、俺の人生を収穫しにくる。

 収穫されてたまるかよ。また食べたい辛い麵があるし、イールも絶滅していないし、剣闘セッションもまたやってないんだ。勝って、生き残るぞ俺!吼えろ俺のジュクゴ力!

 俺の意志に応えかのように、”拳聖”の文字が輝きを増し、左拳全体が白い光球に包まれた。アッッッつぅい!熱すぎるッ!もう打つね!

「シッ」

 腰を左に捻って、更に左腕の時計回り回転を加えた、多分俺史上最高の左ストレートがベルナルドの顔面に着弾した。顔の皮膚がなみ打って、歯の破片が血液混じりの唾液と共に飛び散る。ベルナルドの燃えるような視線が始終俺かから離れなかった。俺は更に拳聖の拳をめり込んで、殴り抜ける!光球が爆ぜた!

KRA-TOOOOOM!!!

 あまりの眩しさに俺は目を瞑った。左手に宿った熱が冷めていく。どうなてんだ?恐る恐る目を開く。

「うおっ!?」

 目の前にテレビがあって、フィットボクシング2のエクサザイズの採点画面が映っている。

『ストレートが素晴らしかったな。お手本になるレベルだったぞ!』

 画面中のベルナルドさんはいつもと違わないセリフを発した。どうやら俺の領域に戻ってこれたようだ。俺は安堵して息を吐き、もう一度ジュクゴマスターへの感謝を述べた。ありがとうマスター、貴方が賜ったジュクゴはすごかったよ。こいつさえあれば俺は大丈夫だ。いつも拳聖の座を虎視眈々に狙っているエイジットとバールはもはや脅威ではない。今の俺ならあのレイヴンさえも……ん?

 ふと左腕を見ると、ジュクゴはどこにもなかった。俺は訝しんで左腕を目の前でいろんな角度で見たが、跡すら見つからなかった。てことは、さっきはもしかして夢?顔を触ってみよ……痛ぇっ!しっかり腫れてる!口の中に血の味がするし、やはり夢ではなかったっぽい。

 ジュクゴを失った俺ゲームを親に没収された子供の気分になってテンションが下がった。もうこうなったらビールを飲んで寝よう……寝ればすべてが良くなるっていつもレイヴンがいつも言ってる。冷蔵庫を開け、コロナビールの瓶を取ろうとした時、ベルナルド(邪悪)の言葉が頭によぎった

『ワーミングアップとクールダウンを疎かにして、スマホ見てただろ!』『酒を飲んだ状態でエクザサイスやってただろ。舐めてんのか?』

「……しゃあない」俺は手を止めて、ジョイコンを持ち直した。 

『最後はクールダウンだ。疲労を残さないよう、しっかり行うんだぞ!』

 俺はベルナルドの動作に従い、肩甲骨を意識しながら腕を回し始めた。

👊

「マイティマックスごっこにしては激しすぎません?」
「人の顔を見て最初の感想がそれかい」

 カウンターにいるパンツスーツ姿のコンビニ店員が俺の腫れ顔を見てそう言った。彼女はコンビニの店員だが、いくつのバイトを数個持っているのでここに居ても全然問題ない。

「マイティマックスごっごはもう25年前にやめたよ。不用意に黒歴史を掘り起こすんじゃない」
「でもただ今読者の皆さんが興味を持たれると思います」
「やめて。もうこの話題おわり。はい」

 俺はカードを受け皿に置き、チェックアウトを促した。

「もうチェックアウトですか?外がやばいですよ。なんかチャンピオンの二人が合体したり、note自体がマクロスみたいに変形したりしてもうカオスです」
「だったら尚更だ。俺が出て、ばばっと片付けてくる」
「いつになく強気ですね」
「ここもう安全じゃないないことがわかったんだ。闇の主とやらがゲームソフトを通して此処まで影響するほどの力を持っている。引きこもってはいられないよ」
「そうですか。なら」話している間にコンビニ店員はすでに手続きを終えて、カードを受け皿に乗せた。「王子がもしお客さんがやる気になったらこれを渡すようにと」
「ほう?」

 受け皿に俺のクレカの他に4枚の鎧の絵が描いたカードがあった。

「これって、グラディエーターを強化する剣闘カード!完成したのか!」
「そのようです」
「よっしゃ!ではさっそく試してみるぜ!」

 場面転換。コロッセオのような建物の中央に立っている俺が目の前にある宝石の形を取ったデバイスにトップ、ボトム、シューズ、アクセサリーの順にカードをセットした。すると空中に浮かんでいたクリスタルが変形して何枚の貝殻が重ね合わせた装置を生成。チャラッ、バコーンと機械的な音を立て、貝殻が展開して輝くポータルが現れた。それを走り抜けたら先は壁と天井が紺碧な靑一色で、まるで海の中みたいにファンタスティックな空間に出た。そこに浮かんでいるランウェイみたいなな一歩道を走る俺の背後に巨大化した剣闘カードが背後から飛来して、二つの滝の間を等間隔にピッタリ止まった。

「ちょっと描写が冗長で退屈になってきた、早く次のシーンに進んでくれない?」と幻聴が聞こえたが、もうすぐだから!これからは滝の下にある大きいヨガーボールを踏んでぼよよーんと跳ぶんだから!ほら、あと少し……跳ぶ、跳ぶぞ!

「むむっ!」

 しかしヨガボールまで一歩のところ出足が止まった。ちょっと待て、近くて見るとなんか、こわい!考えてみよう、ヨガボール踏んで、垂直射出されてカードを3回ゴーススルーするでしょう?もし方向がずれたらどうなるんだ?壁に激突して落下?それとも無限に続く深淵に放り出されて次元の果てまで落ちていくのか?想像してみるとますます怖くなってきた。アイカツフレンズの世界ではみんなはこんなことをいとも簡単に?やべえな……

 \WAR!/

 通信音が鳴って、通信アプリにからメッセージが届いた。コンビニ店員からだ。

[お客さん、今のヨガボールの前でヘタレってるでしょう?]

 何故わかった。

[ヒントあげちゃいます。それらのカードは貴方ではなく、真の剣闘士のために用意したものです]

 なんだと!?俺が真の剣闘士ではないとでも言いたいのか!?あっ。

 そういうことだったのか。『グラディエーター』でいけばいいんだ。

「グラディエーター!マテリアルゼーション!」

 景気づけの口上と共にスマホをタップすると、剣闘士を模した人型機動兵器、俺のソウルアバター、グラディエーターが顕現した!同時に俺が既にコックピット内に転送されていた。ヨガーボールがグラディエーターのサイズに合わせて巨大化。親切だね!

「よしこれで行けるぞ!飛べ!グラディエーター!」

 ヨガーボールを踏んで、グラディエーターが高く跳ね上がった。やはり初めてだから方向がずれているけどスラスターで進路を修正!行ける!行けた!

 一枚目のカードをゴースル―して、グラディエーターの脛に光が収束して、ファー付きの獣皮脚絆を形成した。

 二枚目をゴースル―して、獣の毛皮そのまま廻したようなワイルドなスカートを形成した。

 三枚をゴースルーして、熊の皮をマントみたいに羽織った上着が形成した。

 最期にアクセサリーをゴースル―。和弓とロングボー、2本の弓が翼のように背中に装着する。これがエルフの王子の力が宿ったグラディエーター、グラディエーター・フィヒカイトイエーガーコーデだ!

 ブヨブヨの黒い肉に覆われた東京の上空にポータルが出現し、中からグラディエーターが飛び出た。

「さあ、何でもかかってこい。このフィヒカイトイエーガー初猟果にしてやるぜ……!」

 その時であった。

「MOREEEEEEEEEYYYY!!!!」

 肉塊が爆ぜて、中から黙示録の獣のリヴァイアサンと思わせるほど巨大なネオンウツボが超高速で飛び上がり、深淵じみた巨口を広げた。

「なっ」

 反応する時間すらなく、グラディエーターが飲み込まれた。

「それ以降、ホイズゥの姿を見た者はいませんでした。おしまい」と言い、エルフの王子は絵本を閉じた。
「えぇーここで終わっちゃったの?」物語を聞いていた黒人の少年が不平そうに言った。「大口叩いたのに間抜けな死に方だなぁ」
「まあ、彼はイールにひどい風評被害をかましたからね。ある意味因果応報よ。それに私は死んだって一文字も言ってない」
「じゃあ、ホイズゥはまたどこかで生きているってこと?」
「そうあって欲しいね。現に彼のイマジナリーである私は生きているのでワンチャンあるじゃないかと思う」
「へー、熱い友情だね」

以下の作品と関連あります


当アカウントは軽率送金をお勧めします。