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圧倒する力、OG象

(逃げなさい、マンクット。生きるのよ!)

母は鼻でマンクットを強く押しだすと、雄たけびをあげて敵の方へ向かった。銃声、爆炎、ケモノじみた怒号と笑い声の中、母の巨体が崩れ、地面に横たわっている象たちの死体に加わった。

(かあさん……!)

心が恐怖に支配され、マンクットは走り出した。マンクットはこの日、故郷と家族を失った。侵略者たちは平和に暮らしていた象たちをなんとも思わぬ惨殺し、森を平らげ、大麻農場に作り替えた。

マンクットは必死に逃げて、まる1日走り続けた。やがて体力が尽き、倒れた。

(疲れた……お腹すいた……こわい……悲しい……かあさん……)

哀しい気持ちが湧きあがり、マンクットは涙を流した。その時、

「よぉ、仔象。ママとはぐれたのか?」

ひとりの人間が倒れているマンクットを見下ろしていた。ボロ布じみた服を纏った、文明を捨てジャングルの生活を選んだ野人。顔と体つきはどうみてもトニー・ジャーだ。

(にんげん……かあさんを殺した……)

マンクットは野人が自分を追って殺しにきたと思った。また幼い彼はまた人間の善し悪しを判別できでいない。

(かあさんの……かたきっ!)

最後の力を振り絞ったマンクットは立ち上がり、野人に体当たりした!仔象とはいえ100キロをゆうに超える体重でぶつければ耐えられる人間がいない!マンクットはそう思った。しかし。

「よしこい!フンッ!」

野人は真正面から仔象体当たりを受け止めた!

「バ、バォーー!?」
「ぐぬぬぬぬ……!」

まさに人VS.象の異種族相撲!仔象のやぶれかぶれと野人の気合!両者の力拮抗!

「そうか、そういうことか……!」
「バォ?」

組み合っている最中、野人がマンクットに話しかけた。

「お前、母親と家族、そして故郷の森が連中に、夜舎利に奪われたんだろう」
「バ、バォォ?」

マンクットは人間の言葉がわからない。わからないが、なぜか男が言っていることがわかる。自然の中で生きる野人は文明人が便利な生活を過ごしている内に失った特殊の感覚を持っており、言語に介さず動物とある程度意思疎通できるのだ。男はぶつかり合った際のアイコンタクトに通してマンクットの身に起きたことを完全に理解した。

「惨いことを……可哀そうに」

野人は悲しそうに言い、タコが重なって厚くなった手でマンクットの顔を擦った。

(このにんげん、敵じゃない……)

直感でわかったマンクットは攻撃をやめ、しばらく撫でさせた。野人の手は暖かく、安心感があった。

「仔象よ、復讐を望むか?」
「バオ……」
「よし、なら俺が鍛えてやろう。必ずお前を立派なウォー・エレファントに仕上げる!よろしくな!」
「バオーーン!」

野人を差し出した手を、マンクットは鼻で握り返した。

こうして一人と一匹は師弟関係が結成し、修行の日々が始まった。

~モンタージュ修行シーン開始~

「ばぉ……ばぉ……」
「どうしたもうへばったか?象の最高時速は40キロだと聞くけど、お前は普通の象ではなくウォー・エレファントになるんだろ?時速60キロ目指してもらぞ」
「ハオーッ!」
「なに?不満か?よし、では20キロランニング追加だ!」
「バオォオッオォー!?」
走り込みで基礎体力をつける!

「バオ……!バオ……!バオオオオオ……!」
「まったく使えないウェイターさんね……おーい、俺のココナッツジュースはまたか~?」
鼻でココナッツを潰して鼻力を鍛える!その間野人はハムモックにもだれてくつろぐ!

「ババーンッ!」
スパーン!鼻で鉈を握ってバンブーを見事に両断!しかし切口を野人は切口を指でなぞると難色を示す!
「だめだな。繊維が5本飛び出ている。太刀筋が甘い証拠だ。完全切断までやってもらう」
「バオバオ……」

「バオーン!」
2週間ぶりに体を浄めるため川に来た師弟。マンクットは久しぶりの水浴びでテンションが上がって野人に向かって鼻で水を噴射!
「ぐわっ!?やったなこいつぅ!うりゃー!」
「バオォオーン!」
野人も水をかけ返す!楽しい水遊び!

この日は師弟が林道を歩くと、道端に酷く風化した仏像を見かけた。気になったマンクットは声をかけた。
「バォ?」
「うん?この仏像が気になるか?これは地蔵菩薩という、命を育む力を持つ大地のように、大きな慈悲の心で苦悩する人々を包み込み、救ってくれるらしい」
「バオ……」
「気持ちはわかる。こんな物は誰も救えやしない。人間が勝手に偶像をテッチあげては拝み、良いことがあれば神様のおかげと尊み、悪いことが起きれば神様を恨んで偶像を捨て、また新たな神を様を探し始める。信仰なんてそういうものだ」
「バォ……」
野人は信仰を不毛と一蹴するが、マンクットはなにか想うことがあるようだった。

「バオーッ!バオーッ!」
「すごいぞ!時速65キロに達した!森のでは奴らの戦闘車両も容易に追いつけまいし、逆に言うと逃げていく奴らを容易に追いつけることだ!」
「バオーッ!」

「バオバオバオオオ!」
マンクットは凄まじい鼻力でヤシの樹を割り箸のよう最も簡単にへし折り、木に実っているココナッツむしり取り、6個ココナッツを同時に鼻で巻きつけ、力を込めた。
「ババオーッ!」
万力にかけられたかの如くココナッツが割れ、中に溜まったジュースが飛び散る!
「あわっ、力入れすぎ!これじゃジュース取れないじゃないか!」
「バオ」
ココナッツの殻を持って落胆する野人を見て、マンクットは得意げに耳をバタつかせた。

「バーンッ!」
スパーン!鼻で鉈を握って25本のバンブーを一斉に切断!すかさず検定に入る野人だが、切口はどれも滑らかで難癖をつけようがない。
「うーむ、歴史に名だたる剣豪でも今のお前には叶わぬだろう」
「バオー」

(痛い……痛いよマンクット……なんで私が死んで、あなたはのうのうと生きているの?)
(かあさん……ボクは……)
血塗れた母が恨めしく自分を見つめる夢を見たマンクットは深夜に目が覚めた。
「どうした?怖い夢でも見たのか?」
マンクットの目覚めに気ついた野人がそばに寄って、手のひらでマンクットの頭を擦り始めた。
「ばふ……」
「心を強く持つんだ。でもお前の母親はお前が生きることを願ったんだ。違うか?」
「バオ」
「早く寝よう。朝になると厳しい訓練が待っている」
「バオ……」
野人の手は心地がよく、マンクットはたちまち瞼が重くなり、再び眠りについた。

〜モンタージュ修シーン終了〜

そして10年の歳月が過ぎ、仔象だったマンクットが青年象になり、体重が20倍増えて2トンに成長した。フィジカルが増してダンボのような可愛らしい面影がなくなり、鋭利な牙を持つ戦闘象、ウォー・エレファントとなった!

「もう俺から教えられることは何もない」

白髪と皺が多くなった野人はマンクットを見上げながら感嘆っぽく言った。

「お前どうだ?10年が経って、その復讐心に変わりはないか?」
「……オォ(無論だ。あの日のことは一日たりとも忘れることはない。一刻も早く、我が母とな仲間を殺めた鬼畜どもを一掃したい)」
「そうか……では最後の試練を与えよう、それはつまりーー」

野人は咄嗟に2本のカランビットナイフを抜き、マンクットに飛び掛かった!

「この俺をここで斃すことだあっ!しゃらあっ!とぅりゃあっ!てりゃあっ!」

カランビットナイフの逆反り刃が象の硬くて分厚い皮膚に何度も切りつけるが、大した損傷を与えられなかった。

(……)

野人が突如変貌した理由がわからないが、マンクットは困惑よりも哀れと思った。たしかに師匠は強い、しかしそれはあくまで人間としてのこと。象であるマンクットの前ではあまりにも無力。数と飛び道具に頼らないと脅威すらならない矮小な存在。自分がそんな奴を師と仰いだと思うと惨めな気持ちになる。ならばせめて尊厳を持って散っていけと、マンクットは鼻の先を丸めて拳を模倣し、打ち出した。技の名はノーズ・ナックル。象が人間の格闘技におけるストレートを再現した形意拳だ。

「ボオーッ!」
「ぐああああ!」

正面からノーズ・ナックルを受けた野人はバットに弾かれたベースボールのように吹き飛ばされ字面に2回バウントし、背中が木に衝突してやっと止まった。。

「こぽっ、み、みごとだぁ……お前ならきっとやり遂げられる……行け……西の洞窟……役立つもの……用意してある……かはっ」

最後の言葉を言い残し、野人は息絶えた。己の手で師を殺めたことに対する感傷はさほどなかった。彼はフィジカルだけでなく、メンタルまで冷酷な戦士となったのだ。

(弱い奴は死ぬ。あんたに教わった通り応えてあげた。文句はあるまい)

マンクットは短い黙禱を捧げたあと、師匠の亡骸を埋蔵せずそのまま放置した。遺体がそのまま獣に齧られ、糞になって営養として森に還ることが本望であろう。遺言に従って西の洞窟にやって来たマンクットが見つけたのは、シートに覆われて保管されていた象用のボディアーマーと、象が単体で扱えるガトリングガンであった!

(師匠の奴め、こんなものまで用意したのか!?)

マンクットは驚きつつも器用に鼻を使ってアーマーを装着し、ガトリングを背中にマウントした。体で装備の重みを感じながら、マンクットは血潮が滾っていた。

(感謝するぞ師匠!あんたに教えられた技とこのガトリングで、無為の仏に代わって夜舎利の郎党に天誅を下す!オレはもはや無力のマンクットではない。圧倒的にOverwhelmingガトリングGatlingで敵対物を殲滅する象、略してOG象だ!)

こうしてOG象の戦いが始まった。

(燃える森編へ続く)


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