ワークハード、ライトハード、リヴハード #ppslgr
創作サービス施設noteの一角、Barメキシコ。清潔で意識の高いnote表街道とうから想像つかない18世紀の小汚いウェスタン風のこの場所はパルプスリンガーと呼ばれる荒くれ創作者どもが乱闘で明け暮れ、いつか飛んでくるかもわからない銃弾に気を付けながらの酒を飲む肝練り的なエキサイティングも味わえる場所だったが、それも過去の話となった。
スイングドアを押しのけて、店内を見回す。ただいま入店した俺も含めて、客が3人しかいない。先客に会釈して、俺はカウンター席に腰を掛けた。煤けた18世紀タキシードを着たマスターが威圧的に両手でカウンターを抑えている
「よぉマスター。今日も客来ないね」
「よぉホイズゥ。てことはおまえは客としてではなく冷やかしに来たわけか?おれのウィンチェスターが火を噴くぞ」
「客だよ。ほい」
電子コインをカウンターに置く。マスターはそれを回収し、ライムを差したCORONAビールを俺の前に置いた。
「あざっす」
ライムを瓶の中にねじ込んでから一口。酒の味/変わらずけれど/故人おらぬ。急に感傷的になってハイク作ってしまった。
「いやぁしかし客いないねぇ。皆はホットなベイブやハンサムなガイと結婚して、小説を書くの忘れてオレンジ農園の世話で忙しいかねぇ~?」
「そうか?おれはやっと静かに酒を楽しめるバーらしくなっていいと思うぜ。おまえらは正直うるさすぎてうんざりしてたところだ」
「そうですか……でも客が少なくなって経営が大変なのでは?」
「おれは衣食住睡眠セックスといった生物的欲求が不要のAIだぞ。収入が減ったところで困ることはねえ」
マスターはたばこを咥えて、火をつけた。
「衣食住睡眠セックスは要らないのにたばこは吸うのね」
「格好つけたいからな」
ちなみにこの店は一応禁煙になってはいるが、マスターに注意する命知らずはまずいない。
「noteが存在する限り、おれは不滅だからよ。客が減ってむしろ洗い物が少なくなって助かるわ」
「そうですか。あっでも、note自体は最近過疎気味になってるきがしますけど。死力を尽くして書いた小説がスキ10も貰えなくてインターネットの海に消えるんですよ。これはnoteが衰退している証ではないですか?」
「ふん。おれはおまえの作品を読んだことないからわからないけど、それは単におまえの文章がつまらんからじゃあねえの?」
「……そんなこと言わんでくださいよ、泣くぞ?」
このジジィ人が一番気にするところを突きやがって……こう見えても俺はプライドが高くて繊細だ。些細な批評でもメンタルに響く。
「つーか読んでなかったんすか?読んでくださいよ。常客に免じてさ」
「おまえのようなアマチュアですらない物書きもどきが書いたものを読む時間があれば受賞経歴持ちの実力ある作家の作品を読んだほうが有意義だと思う」
「……ぐうの音も出ねえですわ」
だめだ、このままでは俺のメンタルが削れて人生について考えてしまう。さっさとビールを飲んで退散しようと思った時、白とエメラルドグリーンの外殻を持っ一台の飛行ドローンがスイングドアの上を飛び越えて入店した。ヴィーンとモーターを鳴らすドローンは壁に設置してあるコルクボードへ飛んでくと、ロボットアームで腹部の小コンテナから原稿用紙を取り出してボードに貼りつき、四角に画鋲を打ち込んでを固定し、また店の外へ飛んで行った。
「おう、そろそろだと思った」
時刻は日付が変わる寸前。この時間に予約投稿ドローンを使って作品を発表する人間を俺は一人しか知らない。
「レイヴンの毎日投稿がきたか。今日はやっとパルプスリンガー新作がでるかな?どれどれ……」
俺はコルクボードの前に行って原稿用紙の内容を確認する。ぱっと見だが、小説ではなく、睡眠や飲食や健康に関する日記的な文章だった。
「ふむふむ、なるほど」
とりあえずスキは保留しておく。俺はカウンター席に戻った。
「なんだ?レイヴンが書いたやつはどうだった?」
「いや、詳しく読まなかったのでまたわからないけど、最近レイヴンが書いたものはなんか似た内容がずっとリピートしてるんような感じがありますね。疲れてるかな?それとも歳で耄碌したきたか」
「レイヴンがここにいたらもうおまえ刺されてるぞ」
「はは、彼は俺と違って批評を受けつけない気の小さい人間じゃないすよ。たぶん。それにそんなに健康が気にかかるならいっそ毎日投稿やめて余った時間で高強度トレーニングでもやればいいのに……はっ」
忽然頭の中にとあるアイデアが浮かび上がった。noteでの地位を向上させるついでに自信回復する完璧な計画が!
「くくくっ……これはやれるぞ……ライバル一人減らせるかもしれないぜぇヘヘヘ!」
「なんだよホイズゥ、気味わりぃや笑い方しやがって。何をやれるって?」
「マスターと関係ない話さ」
俺は残りのCORONAをイッキし、カウンター叩きつけた。
「うぇっぷ。ごちそうさん。じゃなマスター」
「ああ」
スイングドアを押して外に出て、俺はさっそくスマホを取り出してテキスト書き込む。
レイヴンに送信。彼はたぶんもう寝ているだろうから返事は朝になるかと思いきや、着信音が鳴った。
かかったぜ。
(続く)
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