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【剣闘小説】万聖祭り、IRONの死闘

本日はMEGA IRONにご来店頂き、誠にありがとうございます。ただ今より本店はVIPの来店に当たりまして、仮貸し切り状態に入ります。一般のお客様は速やかにご退場をお勧めします。また、VIPと出遭った際に、不都合なことが起こりましても、当店は一切の責任を負いません。引き続き、お買い物を楽しみください。
Welcome to the MEGA IRON……

「来たか」

 続く英語の店内放送を聞きながら、ゲーセン従業員の弩木VAPEに口をつけた。

「おいおばさん、室内で吹かすんじゃねえよ。未来ある若者が受動喫煙被害を受けてんろうが!」

 鼻から夥しい蒸気を噴き出しながらデーダカードダスに興じていた制服姿の少女を一瞥した。

「授業を抜けだしてゲーセンにたむろってる奴が未来を語ってんじゃないよ。それより早く帰りな、アナウンスを聞いただろ」
「帰るかよ。今日はまたSRが一枚も出てねえんだ!VIPだかなんがかしらねえけど、コインが尽きるまでやめないぜ!」
「好きにしろ。何があっても知らないぞ」

 吐き捨てるように言って、弩木はスタッフルームに入った。およそ3分後、右手にスタンロッド、左手に強化樹脂盾を持り、アメフト防具を着けた格好で出てきた。

「えっ、なに?おばさん?」少女は訝しんで、有事に備えてスマホのカメラをONした。「いくらなんでも暴力はないだろ?」
「あ?これ?違うし」
「違うか、よかった……じゃねえ!なんだよ警棒と盾を持ち出して!ビックリするだろ!」

 弩木はため息した。

「本当に?いたる所にポスター貼ってあるんだけど読まなかった?」
「アレか?どーせハロウィンイベントのなんとかだろ?あたいそういうの興味ないんで」
「マジか、おい」弩木は更に長いため息を吐いた。「今日はハロウィン、あの世との境界が曖昧になる日、亡霊が来るんだ」
「なんだそういうことか……え?は?」


 一方、一階のスーパーマーケット。店長および幹部階級の従業員が一列に並んで、その後ろに供物としての酒、オリーブ牛のステーキ、メチャウマイタケ、赤色メロン、ピンクレモン、シナモンの香りを漂わせるパイなどが山積みしている。これは全部VIPために用意した款待(トリート)だ。

 楽しげなハロウィンBGMが流れるなか、店長らが険しい表情で自動ドアを注目して、店が緊張な雰囲気に包まれている。

 ウィーン、自動ドアが開いた。それと同時に凄まじい冷気が吹き込まれて、店内温度が8度さがった。店長は唾を呑んで、心を強めた。

「今年もご来店……」

 店長が口を開いた、続いて幹部たちが斉唱!

「「「「有難うございます!!!」」」」

 そして後列に立っているスタッフたちが一斉に字が書かれたボードを頭上に上げた。

幽 霊 狩 猟 団 御 一 行

 カチャ、カチャ。金属のパーツ身体の曲線にフィットするように作られて、もはや外骨格と言える緻密な鎧を着たソレが悠然と歩み進んだ。被っているフードの下は髑髏を彷彿したフルフェイスヘルメット、携えている杖の先端にある宝石が蒼白い光を放っている。彼はヴォイジャー、幽霊狩猟団(ワイルドハント)の導き手である。

『答えよ。款待か、死か』

 カッ、と杖を打ち付けて、ヴォイジャーが言った。

「無論、款待させていただきます。こちらをご覧ください」店長が手を広げて、後ろに並んでいる供物をアピールした。「ワイルドハントの皆さまを労わるべく、当店自慢の品を用意しました」
『当然だ。先祖がなければ、今日の貴様らが居らぬ。先祖を敬え』
「ハッ!おっしゃる通りでございます!」
『貴様らの款待を、喜んで頂こう。運営部門とスーパーマーケット部門には手を出さないと約束する』
「ハッ、ありがとうございます。フードコートと他企業の店は自由略奪して構いません。契約書にも書いてありますので問題ありません」
『うむ。美酒、美食、狩猟、一遍にやれる。全世界を探してもここしかないであろう』
「御贔屓して頂いてありがとうございます」

 90度お辞儀した店長から離れ、ヴォイジャーは自動ドアの前に立ち、両手で杖を高く掲げた。ウィーンとドアが左右にスライドした。

『わが戦士達よ!宴の時間だ!』

 ヴォイジャーの呼びかけに応じて、宝石が一層強い光を放った!冥界の凍える風が室内に注ぎ込んで、室温がさらにダウン!

「ハァーッハハハ!」「ウォーホッホッホッ!」「この日を待っていたぞ!」「むふふふ……」「宴じゃぁーい!」

 色んな文化、色んな時代、色んな格好をした亡霊たち行列をなして、ご来店!

「むん」スタッフの一人が急遽の温度変化と幽鬼を目にしたショックで昏倒!サービス精神と覚悟が足りなかった!

『年に一度の祭りだ!ぞんぶんに楽しむがよい!食え、飲め、奪え!ハッピーハロウィン!』

「「「「「ハッピーハロウィン!!!」」」」」

 ワイルドハントの戦士たちは得物を掲げて、鬨をあげた。ショッピングモールMEGA IRONは幽鬼の狩場と化した。

(続く)

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