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梅雨の季節、RGサイの季節 #AKBDC2023

ザァァァ……ザァァァ……ザァァァ…………

雨のヴェールに覆われ、舞鶴自然文化園は朦朧とした美さを帯びていた。雨露のなかで、園内に植えられた約100種類のアジサイが咲き乱れている。青、白、紫、薄緑、ピンク、色とりどりの花弁が球状に拡散するその形はまるで地上に散っている花火のようであった。この美景の後ろには先人たち数世帯に渡った品種改良と、公園に勤めているガーデナーたちによる丹念な管理によって、初めて成立できるものだ。

花が咲けば花見客が現れる。濛々とした細雨の中、カップルが一組、相傘で差して歩いていた。

「わあ、ほんとうにきれいだね!」
「ははっ、きれいなのはきみの方さ」
「もぉ~大地くんったら!」

花より団子というコトワザが示した通り、彼らは本当はアジサイに、ましてや植物全体に興味を持っていなかった。ただ雨の中、花園、相傘といったロマンティックな要素に満ちた雰囲気が欲しいだけ。

「空ちゃん……」
「大地くん……」

両者は互いの鼻息が当たるほど顔を近づかせ、接吻を交わそうとする時、ドゥンク、ドゥンク、ドゥンク、と重々しい音が耳に入り、気になった空が顔を引いた。

「今、なんか音しかなかった?」
「そう?ただの雨の音なんじゃないか?それよりさっき続きをさ」
「いや、待って」
「むっ」

接吻を得られずむっとしている大地をにして、空は聴覚に意識を集中した。ドゥンク、ドゥンク、ドゥンク、声が近づいて来ている。それに伴う地面の揺れ。穏やかではない。

「大地くん」
「ああ、なんかいる」

大地も浮薄な態度をやめ、何があったら手中の傘を投げつけてたあとに全力で逃げる準備をできていた。

目の前のアジサイの枝葉を突き破り、巨大なサイの頭が現れた。その表皮は灰色の皮膚ではなく、空たちの姿が映せるほどなめらかな金属の外殻であった。

「ブルォォ……」

金属の獣が唸り、耳を振るわせ、水滴を撥ねた。赤く発光する両目が吃驚しすぎて反応できない空と大地に焦点を合わせた。すると。

「ブルオオオオオオオオオ!!!」

獣が雄叫びをあげ、アジサイを踏み潰しながら飛びでる!獣の名はRGサイ、梅雨の頃にアジサイが咲いてる場所に現れ、人間に対して凄まじい敵意を持つサイボーグサイなのだ!

「「ぎゃああああああああ!!!」」

RGサイの殺気に触れられ、カップルが悲鳴をあげて逆の方向に全力疾走!サイの最高時速は50㎞/h前後だと言われている。人間がすごく頑張れば到達できない速度でもないが、舞鶴自然文化園の遊歩道は平坦ではないうえに雨で湿っている。加えて空と大地はアスリートほど身体能力が優れていないし、サイボーグサイであるRGサイは脚力がナチュラルのサイ以上の可能性も考慮に入れれた、逃げきれる確率は絶望的だ

しかしRGサイは走って追わなかった。足を使わずに離れた場所の人間を仕留める方法があるからだ。背面の装甲がスライドし、内蔵のロケットランチャーが展開した。RGサイのRはすなわちROCKETのR、逃げていくカップルの背中に照準を合わせ、発射!ロケット弾が煙の尾を描きながら一直線に飛んでいく!このままでは二人が爆死して飛び散った肉片がぐちゃぐちゃに混ざり合って共にわかちがたくなってしまうッ!

その時、岩の如く大質量の物体が飛び入ってロケットの飛行路線を遮り、衝突した。KABOOOOM!!!アジサイの花びら舞い上がり、泥が飛び散る!

「ふぅ、間一髪だったぜ」

岩だと思われた物体が人語を発し、手足を伸ばして立ち上がった。ロケットを受け止め、カップルをピンチから救ったのはなんと、アーミーグリーンの装甲に覆われた、一体のメカゴリラだった。

「おいそのこガキンチョども、さっさと逃げな……あっ」

振り向くと、必死に走ってこの場所から遠ざかっていくカップルの背中が目に入った。彼らはおそらくメカゴリラのこと気を留めることすらしなかっただろう。

「うん、まあ、それでいいさ。それよりお前よーー」一抹の寂しさを覚えながら、メカゴリラはRGサイに向き直った。「ダァメだろ!か弱い人類にビッグなガンを向けるなんてさ、大人げないにもほどがあるぜ!喧嘩売るならサイズが合った奴とでもやったらどうだ?例えばこのオレがよォッ!」
「ブルオオオオオオオオオ!!!!」

まるで「ならばその喧嘩、買ったるわい!」と言わんばかりに、RGサイは怒号し、両肩に内蔵されたグレネードマシンガンを展開した。RGサイのGはすなわち、GRENADEのG!

(続く)



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