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日本の創造神とは

 以下のコラムは、私が現在執筆中の幻想生物辞典『幻想綱目チェリーピック(仮)』における、「創造神イザナギ・イザナミ」の項目の草稿となります。
 現時点では考証が曖昧な部分や、蛇足と思われる記述が含まれるため、書籍化の際には文章が訂正されている可能性があります。ご了承ください。

前々項:巫女についてのコラム
前項 :日本の神々

1 古事記神話

 最初に天地開闢てんちかいびゃくがあった。そして尊い神が次々に生まれた。その末端に名を連ねたのが、夫婦神としてのイザナギとイザナミである。イザナギが男神で、イザナギが女神となる。

 天の神々はイザナギとイザナミの二神に、不安定な状態の国土をしっかりと固定するように命じ、天沼矛あめのぬぼこを与えた。そこで二神は天に懸かる浮き橋の上に立つと、その矛を下界の海へ突き刺した。

 こおろ……こおろ……。
 そんな音を立てながら、海水が掻き回される。

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 やがて二神が矛を引き上げると、矛の先から滴り落ちた塩が重なり積もって島が出来た。これがオノゴロ島となる。
 オノゴロ島の名称は「自ずから凝る」を意味すると考えられる。
 二神はそのオノゴロ島に天降りすると、そこに天御柱あめのみはしらと立派な宮殿を建てることにした。そしてその場所は、国土・万物の発生する母体となった。

 我々の住む日本国は、ここから徐々に形作られていくことになる。
 二神はまず国生みを行った。すると日本列島を構成する島々が誕生した。
 次に神生みを行った。石、海、山、木、野、風、穀物といった多くの自然神や文化神が誕生した。

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2 イザナギ・イザナミの正体とは

 日本神話における最初の主人公こそイザナギであり、ヒロインがイザナミと言える。

 特に神代かみよの前半は、この二神の結婚から離別に至るまでの物語がドラマチックに展開されている。だからこそ二神の神格として、物語を彩った「結婚」であるとか、「創造」や「人類の起源」という属性がことさら注目されるのだろう。しかし『古事記こじき』『日本書紀にほんしょき』という神話に取り沙汰される以前のイザナギ・イザナミという神が、一体どういう性質だったのかには謎が多い。

 一説によるとイザナギ・イザナミとは、『古事記』『日本書紀』が編纂へんさんされる以前から各地に語り継がれていた土着的な創造神や始祖神しそしんの伝承が、一つの神話という形に整理統合された姿なのではないかと言われている。

 『古事記』を通読してみるとよく分かることだが、神話の中においてこのイザナギ・イザナミほど、まるで人間のように生々しく描写されている神はいない。一般にこうした神のイメージは、人間に近づけば近づくほど古い信仰の歴史を持っていると考えられている。つまりイザナギ・イザナミとはもしかしたら、文献に残らないほど古い時代から民衆に支持されてきた深淵的な神に繋がる存在なのかもしれない。

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 その他イザナギ・イザナミの名前には諸説があり、「イザ」とは「誘う」であり「ギ」は男性「ミ」は女性を表すという説が根強いが、それ以外にも「ナギ」「ナミ」にアオダイショウという蛇の方言である「オーナガ」「オーナギ」「ナミサオ」「ナブサ」という語との関連を見いだすこともできる。『古事記』『日本書紀』に収められる以前の二神の正体が、竜蛇りゅうだ的な形であった可能性もあるのだ。

 後に述べることになるエピソードだが、黄泉の国でイザナミの身体に八種類の雷神が誕生したという伝承も、雷神が蛇体と考えられていた古代の信仰と紐付き、予感を加速させる一助となるかもしれない。

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 そうした謎深きイザナギ・イザナミだが、現在は「お多賀たが様」とも呼ばれている。
 これは二神が祀られる滋賀県の多賀大社に由来する。『古事記』にて「伊邪那岐大神いざなぎのおおかみ淡海あわうみの多賀にすなり」とある通り、現在の二神は多賀大社にて鎮座しているのである。(ちなみに『日本書紀』には「幽宮かくりのみや淡路あわじつくりて、寂然しずかに長く隠れましき」とあり、現在そこに存在するのが淡路島の伊弉諾神宮いざなぎじんぐうである)

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 多賀大社の長い歴史の中には、特徴的な逸話も数多い。
 江戸時代には多賀講たがこうの信仰が全国に広がり、「お伊勢いせ参らばお多賀へ参れ、お伊勢お多賀の子でござる」という民謡も流行った。

 お伊勢とは伊勢神宮に祀られるイザナギ・イザナミの子供である皇祖神こうそしんアマテラスのことだが、「皇祖神を参ったなら、その親の元へも参るべきだ」と謳っているのである。それほどこのお多賀様も民衆に重んじられたということだろう。

 特にお多賀様は、各地を旅する商売人に厚く信仰された。
 イザナギ・イザナミの二神はあらゆる神々の生みの親であるので、お多賀様を信奉すれば、行く先々で出会う様々な神の守護も得られると考えられたのだ。

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 また、多賀大社といえば杓子しゃくし(飯を盛ったり汁をすくったりする食用具)も江戸時代から知られるお守りとして有名だ。実はカエルの子供である「オタマジャクシ(お玉杓子)」は、この多賀大社の杓子……つまり「お多賀杓子」が訛って呼ばれるようになったと言われている。面白いトリビアだ。

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 イザナギ・イザナミの神話における活躍の続きは、次項より他の神々を絡めつつ紹介していく。

イザナギ/イザナミの概要は以上になります!

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<参考文献・資料一覧>
【書籍】
『新版 古事記 現代語訳付き (角川ソフィア文庫) Kindle版』 中村啓信 (その他) 著 KADOKAWA
『深読み古事記 日本の神話と古代史が100倍おもしろくなる!Kindle版』 戸矢学 著 かざひの文庫
『古事記物語 Kindle版』 鈴木三重吉 著
『現代語古事記』 竹田恒泰 著 学研プラス
『古事記完全講義』 竹田恒泰 著 学研プラス
『日本書紀(上)全現代語訳』 宇治谷孟 (翻訳) 講談社
『日本書紀(下)全現代語訳』 宇治谷孟 (翻訳) 講談社
『日本書紀全訳』 宮澤豊穂 (翻訳) ほおずき書籍
『柳田國男全集Ⅱ』 柳田國男 著 ちくま文庫
『妹の力 柳田国男コレクションKindle版』 柳田國男 著 角川ソフィア文庫
『日本巫女史』 中山太郎 著 国書刊行会
『巫女の民俗学 〈女の力〉の近代 (復刊選書) Kindle版』 川村邦光 著 青弓社
『憑依の視座 巫女の民俗学II (復刊選書) Kindle版』 川村邦光 著 青弓社
『図解 巫女 F‐Files Kindle版』 朱鷺田祐介 著 新紀元社
『「日本の神様」がよくわかる本 八百万神の起源・性格からご利益までを完全ガイドKindle版』 戸部民夫 著 PHP文庫
『「日本の女神様」がよくわかる本―アマテラスから山姥、弁才天まで』 戸部民夫 著 PHP文庫
『姫神の本―聖なるヒメと巫女の霊力 (NEW SIGHT MOOK Books Esoterica 43)』 学研プラス
『改訂・携帯版 日本妖怪大事典 (角川文庫) Kindle版』 水木しげる 村上健司 著 KADOKAWA
『幻想世界の住人たち 3 中国編 (新紀元文庫) Kindle版』 篠田耕一 著 新紀元社
『幻想世界の住人たち 4 日本編 (新紀元文庫) Kindle版』 多田克己 著 新紀元社
『日本の神々 (講談社学術文庫) Kindle版』 松前健 著 講談社
『本居宣長 (講談社学術文庫) Kindle版』 相良亨 著 講談社
『本居宣長「うひ山ぶみ」 (講談社学術文庫) Kindle版』 本居宣長 白石良夫 著 講談社
『玉くしげ Kindle版』 本居宣長 著 藤田徳太郎 (翻訳) 知温書房

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