No.8|グローバル・リスクとグリーン・プランニング
この1ヶ月で、「気候変動影響予測・適応評価の総合的研究」(2020年度~2024年度:環境研究総合推進費S-18)の全体キッキオフ会合、グループ会合、WG会合が開催された。当然、会合は全てオンライン。私の研究室はこの大規模研究プロジェクトの一部「地域の土地利用・市街地環境への気候変動影響予測と持続的再生方針の検討と評価」を担当する。研究の会合でもCOVID-19によるライフスタイルの変化とその諸影響が話題に。そこで、今回は「グリーン・リカバリー」について書いてみたい。
1.グローバル・リスク
世界経済フォーラムの"The Global Risk Report 2020"の3ページにある"The Global Risks Landscape"の図は、専門家に対する意識調査に基づき、様々なリスクの「発生可能性の高低」と「影響の大小」を比較したものである。影響の大きさを比較すると、気候変動施策の失敗>極端な気候>水の危機>情報インフラの機能停止>感染症>食糧危機>社会の不安定>都市計画の失敗となっている。もっとも、来年のレポートでは、感染症と社会の不安定が図の右上の方向に移動しそうだが。また、都市計画の失敗の影響は相対的に小さいとされているが、都市計画は気候変動アクションの一部でもあり、その他のリスクとの関係もあるので、影響は大きいはず。定義の問題なのかも知れない。いずれにせよ、気候変動施策が重要視されていることは確かである。
(World Economic Forum, 2020.1.15 )
2.COVID-19パンデミックからの「グリーン・リカバリー」
最近、With/Post COVID-19の議論の中で、気候変動施策や環境問題に取り組んでいる専門家から出てくる「グリーン・リカバリー」という言葉が目立つ。
例えば、英国ガーディアン紙は、COVID-19が、きれいな空気、二酸化炭素排出量の低減など普通ではあり得ない環境的便益をもたらしたと認識し、この力のモーメントを活用できるかどうかの議論をリードしようとしている。世界各国の都市の市長の多くは、国の政府が大規模な経済再生策を実行する中、この危機からの低炭素で持続可能な回復、つまり「グリーンな経済回復(green economic recovery)」を達成しようと努力している。自転車レーンの整備、歩道の拡幅といった取り組みは、大気汚染を悪化させることなく、フィジカル・ディスタンスの確保が規範となる都市空間を人々が動き回れるようにリ・デザインするもの。人々が職場に復帰する際、公共交通を避け、再び自動車に乗り始めてしまうと、大気汚染が進んでしまう。そのような事態を避けるために、自転車レーンや歩道の整備に力を入れるのである。気候変動アクションに取り組むC40 Cities(世界大都市気候先導グループ)の作業部隊は、建物のエネルギー効率を上げ、多くの樹木を植え、太陽光・風力発電に投資するプログラムについて議論している。こうした取り組みの背景には、COVID-19パンデミックからの経済回復は気候変動に対する取り組みと社会回復の文脈の中に位置付けられるべきとの考え方がある。
(The Guardian, 2020.5.1 )
次はTheCityFixの記事。EUは、COVID-19危機からの経済回復に向けた大規模予算案を明らかにしたが、その25%は建物リノベーション、クリーン・エネルギー技術、低炭素ビークル、持続可能な土地利用などの環境施策のために確保していると言う。ちなみに、米国や日本は、EUとは対比的に、経済回復に向けた大規模予算を組みつつも、そこに気候変動関係施策は考慮されていない。本来、環境施策への投資は、雇用を創出し、競争力を高め、パンデミックや気候変動といったショックに対応できる健全な経済をつくるはずなのに。記事には、EUの経済回復パッケージに含まれる5つの環境施策(建物の環境性能、クリーン技術、低炭素ビークル、食糧・農業・土地、公正な移行)の概要が説明されている。また、こうしたEUのパッケージだけでは不十分で、各国が持続可能な回復を実現するための取り組みを展開していることもレポートされている。
(TheCityFix, 2020.6.2)
グローバル企業も「グリーン・リカバリー」を求めている。SBTi(科学的根拠に基づくCO2排出量削減目標イニシアティブ)に加盟している155社は、各国政府に対して、2050年よりも早期に二酸化炭素(CO2)の排出量を実質ゼロにする気候変動対策を踏まえた復興策を求める共同声明を出している。詳しくは、下記の記事の日本語版を。
(SUSTAINABLE BRANDS, 2020.5.19)
3.その前に「グリーン・プランニング」
ヨーロッパを中心とする「グリーン・リカバリー」について紹介してきたが、もともと「グリーン・プランニング」(気候変動緩和・適応策、水循環の健全化、生物多様性の確保、その他の環境課題に対応するプランニング)に力を入れてこなかった国や都市では「グリーン・リカバリー」の機運が高まるはずがない。また、日本における「グリーン・プランニング」は、行政計画では環境基本計画や緑の基本計画、民間制度ではCASBEE、LEED、ABINC、SITESなどの環境認証制度と関係が深いと思うが、残念ながらそれらと都市計画がうまく融合されていない。冒頭で紹介した研究の社会実装の部分では、この辺も問題になるかも知れない。