都市再生のあり方に関する議論がスタート
国土交通省の「都市の個性の確立と質や価値の向上に関する懇談会」がスタートし、私も委員を拝命しました。懇談会の目的は、「法制度創設から約20 年が経過した『都市再生』のこれまでの取組を振り返るとともに、中長期的な視点や地域文化を育む観点から、新しい時代の都市再生のあり方を検討する」ことです。
最近、基礎自治体における計画策定や市街地再開発事業の評価に関わる検討、地域まちづくりの現場、市街地整備に関わる様々な主体との意見交換でも、都市再生のあり方が問われ、いろいろな場面で同じようなことをお話をするので、noteにまとめておこうと思います。
まずは、上記懇談会の準備段階で実施された有識者ヒアリングで私が回答した内容を紹介します。ヒアリングの日程調整ができなかったので、文書で回答したものです。質問部分は省略します。
これまでの都市再生制度について
2002年に制定された都市再生特別措置法は、日本の経済の活性化を目的とする「特別措置法」である。目的を果たせたかどうかは別として、その使命は既に終了し、現在はむしろ、その副作用が顕在化している。特に、経済活性化を第一目的としているため、この20年に変化した環境及び社会の状況に対応していないことが大きな問題である。都市再生の第一目的を環境及び社会の持続性の向上に置き、経済はそうした都市再生の取り組みのプロセスの中で循環するものと捉えるべきでないか。
地方都市の再生について
「コンパクト・プラス・ネットワーク」は本来、多様な都市構造・都市形態(urban and regional structure and form)を許容しているはずだが、駅や旧市街地を中心とする中心市街地に都市機能と居住を誘導し、中心市街地を活性化し、公共交通を維持しなければならないと誤認識している自治体が多い。もちろん、こうした方向性が適している自治体も多いが、中心市街地や公共交通の衰退が著しく、郊外部に活気がある都市は無理にこうした方向性を採用する必要はない。重要なのは、環境及び社会の持続性が高い都市構造・都市形態(目指すべき将来像)を丁寧に検討すること、また、現状から目指すべき将来像に移行するプロセスの環境・社会・経済的コストを考慮することである。なお、ここで言う「環境」には、カーボンニュートラルや気候変動適応に関わる内容(環境対策)のほか、地震・津波・台風等の自然災害に関わる内容(防災・減災対策)を含む。
更なる国際競争力の強化に向けた都市の方向性について
国際競争力の観点からは、ハイグレードなオフィス・業務機能だけでなく、ESG投資が集まるような環境的・社会的側面の持続可能性の高い、そして、人々のウェルビーイングの向上に資するような都市開発が求められている。それは、大規模な都市開発プロジェクトである必要はないし、むしろ、環境的・社会的側面でのデメリットがある大規模都市開発プロジェクトよりも中小規模の都市開発プロジェクトの方が良いという見方もある。ここで、環境的側面にはカーボンニュートラル、気候変動適応、資源循環など、社会的側面にはオフィスや住宅や移動手段のアフォーダビリティ(ジェントリフィケーションの回避)、職住近接、全体的な都市空間・移動空間の質の向上(歴史的・文化的界隈の保全、公共交通の混雑の緩和)などが含まれる。
今後の民間都市開発プロジェクトにおける公共貢献・地域貢献の在り方について
この20年で民間都市開発プロジェクトが実現されるような市街地のローカルな環境は向上したので、今後は、プロジェクト周辺の市街地の漸進的更新、歴史的・文化的界隈の保全、老朽化したインフラの更新さらには遠隔の森林や農地の保全を公共貢献・地域貢献として位置づけるべきではないか。
まちづくりにおける文化の役割について
文化は何かの手段ではなく、都市で活動する人々が醸成していくものだと捉えている。よって、都市再生側としては、人々の文化的な活動の動向を見つつ、それをサポートする舞台(都市・建築空間)を再開発、修復、保全を通じてしっかりとつくっていく姿勢をとるべきだと思う。なお、文化的活動の多くは、経済的な利益を生まないので、再開発でできる高価な空間ではなく、修復や保全を通じて創出されるアフォーダブルな空間がもっと必要なのではないか。
まちづくりにおけるウェルビーイングの実現について
近年、商業系市街地においては、エリアマネジメントやウォーカブルまちづくり、公共空間を舞台とした様々な社会実験が進んでいるが、住宅系市街地で、子育て・教育、健康・医療・介護、インクルージョン等をテーマとしたまちづくりを展開できるよう、人材面・財政面から支援することが望まれる。
国として今後重視すべき視点と投資分野について
次の通り、環境的・社会的側面と修復・保全に投資すべきだと考える。
大都市の都市再生でも地方都心の都市再生でも、環境的側面・社会的側面に力を入れるべきである。都市再生特別措置法が制定された2002年当時は、経済の活性化が国としての最重要課題であったかも知れないが、その後、気候変動の進行とそれに対する世界的な対応、社会格差の広がり、世界の地政学・地経学的観点からの食糧自給率の課題などが重要になってきた。都市計画は、本来、市場経済の力で進む開発から環境・社会を守る役割を果たしてきたが、2002年以降、都市計画は経済活性化のために規制緩和を行う道具になってしまった。本来の形に戻すべきである。
都市再生(urban renewal)は、本来、再開発(redevelopment)、修復(rehabilitation)、保全(conservation)の3つの異なる手法で構成される。日本では、このうちの再開発が重視されてきたが、今後はむしろ、環境・歴史・文化の保全の観点から修復と保全を重視すべきだと考える。例えば、来日する外国人からも人気のある東京の谷中・根津・千駄木エリアの歴史的・文化的界隈を保全する仕組みはなく、マンション建設や市街地再開発によってそれ失われる可能性があり、これは国際競争力の低下にもつながる。コミュニティ・ベースの小規模な修復事業や保全事業が実施され、その積み重ねと面的広がりが、市街地の物理的・社会的環境の再生へと展開するような状況をつくることが求められている。
以上です。振り返るとシンプル過ぎる回答ですが、これを読んで頂いた上で委員に任命して頂いたので、この線で発言していきたいと思います。
第1回懇談会(2024.11.22)における私の発言のポイントは、
「質」や「価値」を向上させるには「量」のコントロールも必要(インフラへの負担、余裕のあるインフラの有効活用、環境負荷・カーボンニュートラルの観点から)
都市再生プロジェクトを評価する際には、Global、Regional、Localの異なる空間スケールの視点と環境・社会・経済的側面を含む持続性評価の視点が必要
市街地の持続的な更新のためには、再開発、修復、保全の各手法とそれらのプログラミングが必要
そして、上記とは全く異なる文脈から、
街をつなぐ線的インフラ(道路、鉄道、河川・運河など)の更新を軸とした都市再生のポテンシャル
ですが、これらの詳細については、懇談会の資料や議事概要が公開されてからにします。