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No.5|都市システム・デザイン

1.「都市システム・デザイン」の考え方

 「No.3」の最後に書いた通り、計画策定と持続性評価は表裏一体である。となると、マルチスケールの計画策定と持続性評価を一体的に扱うシステムの開発が重要になる。これについては、都市の環境負荷低減・気候変動適応やスマート化の動きに対応するために、従来の都市デザインの方法とビッグデータ、AI、IoTを活用したデータ解析・シミュレーションの方法の融合を目指す「都市システム・デザイン(Urban Systems Design)」の概念提示と部分試行の取り組みがあり、私も共同研究や共同演習(主に国立環境研究所・米国ジョージア工科大学・東京大学の研究者で構成される10名程度の研究グループによる)に参加してきた。最近、その研究の成果が書籍として出版され、私も都市システム・デザインを支える制度的環境の課題について執筆させて頂いた(1)。また、日本語のまとまった刊行物としては、国立環境研究所の研究情報誌「環境儀 No.70:和風スマートシティづくりを目指して」の記事「IoT・ビッグデータ時代の都市システム・デザイン Summary」(2)がある。

2.気候変動緩和策・適応策の検討に向けた研究開発

 この記事で紹介されている通り、国立環境研究所地球環境研究センターの山形与志樹主席研究員のチームでは、「建築物・道路単位のCO2マッピング」や「航空機観測・タワー観測・ツイッター情報を活用した熱波モニタリング」をはじめとするIoTやビッグデータを用いた解析・シミュレーションの手法を研究開発してきた。前者は、どのような建築物や道路がいつ、どれだけのCO2を排出しているのかがビジュアルに分かると同時に、建築物や道路のデータを部分的に書き換えれば、大きな市街地再開発やオープンスペース整備がどのように都市のCO2排出量に影響を与えるかの検討、つまり土地利用・市街地環境分野の気候変動緩和策の検討ができる。後者については、熱中症などの熱波リスクを即地的・即時的に把握・公開することにより、リスク回避を促すとともに、都市の物的環境と熱波リスクの関係が分かるので、土地利用・市街地環境分野の気候変動適応策の検討につながる。
 こうした研究開発は、2020年以降の気候変動に関する国際的枠組みであるパリ協定に対応していくに当たり、重要な役割を果たす。2019年6月11日に閣議決定された「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略」(3)によると、「地域・くらし」に分野では、2050年までに「カーボンニュートラルでレジリエントで快適な地域とくらし」を実現し、「地域循環共生圏」を創造することが目標とされている。

3.都市計画・都市デザインへの展開

 こうした環境分野の政策とそれに関連する研究開発の成果を都市計画・都市デザインに取り入れることも、最近の都市計画研究の1つである。私自身は、2014年以降、国立環境研究所・山形主席研究員を中心とする国際会議に参加させて頂いているが、そこでの議論を踏まえ、2017年からは、ジョージア工科大学デザイン学部都市地域計画・建築学科のPerry Pei-Ju Yang准教授とも連携して、山形主席研究員のチームが研究開発した解析・シミュレーション手法を都市デザインに取り入れる演習を開催してきた。これは、ジョージア工科大学及び東京大学の大学院の演習として、東京の市街地の開発・再生の検討に環境分野の解析・シミュレーションを取り入れ、新しい「都市システム・デザイン」の手法を開発すること、また、そうした手法を駆使できるプロを育成することを目的としている。
 2016年度の浦和美園駅周辺地区を対象とした演習の最終成果物(4)を見ると、都市デザインの提案に、エネルギー、食糧、水、温熱環境、モビリティのシミュレーションが含まれており、従来の都市デザイン演習の成果物と性格が異なることが分かる。その後、2017・2018年度は密集市街地である京島地区を対象とし、2019年度は品川駅東側の臨海部地区と対象とした。最近の品川の演習については、「都市デザイン研究室マガジン vol.288」(5)の4・5ページで紹介されている(注:私の研究室は「都市計画研究室」で、この素晴らしいマガジンを定期的に発行しているのは「都市デザイン研究室」である)。参加した学生の声と私の講評も掲載して頂いている。

4.COVID-19感染拡大で変わる「都市システム・デザイン」の条件設定

 さて、2019年末に終了した東京大学の品川演習の成果物は、ジョージア工科大学のスマートシティ・スタジオに引き継がれ、2020年1月から4月にかけて、今度はジョージア工科大学の大学院生が提案を発展させた。本来であれば、3月中旬にジョージア工科大学のYang准教授率いる大学院生たちが東京に来て、東京大学の大学院生と一緒に1週間のオンサイト・ワークショップを開催する予定であったが、COVID-19感染拡大のため中止となった。東京に来ることを楽しみにしていたジョージア工科大学の大学院生たちは、残念ながら、一度も現地に来ることなく、都市デザイン提案を検討することになってしまった。
 このような状況の中、4月21日にはオンライン最終発表会が開催され、ジョージア工科大学のスタジオの素晴らしい成果を拝見した。最終成果物は現在とりまとめ中とのことであるが、発表とその後の議論を受けて、次のようなことを考え、まとめの挨拶とした。

・都市システム・デザイン手法は、もともとは二酸化炭素排出削減に向けた手法として開発が始まり、その後、レジリエンスや人々のウェル・ビーイング(健康や幸せ)をも扱う手法に発展している。
・今回のスタジオでは、都市システム・デザインの手法がマルチ・スケールであることを改めて再確認した。少なくとも敷地スケール(再開発敷地A〜Dやグリーン・ストリートの具体的な計画・デザイン)、地区スケール(容積(密度)の配分、オープンスペースのネットワーク、交通システム、水循環システム)、都市スケール(例えば東京23区:地区開発のあり様が都市スケールの二酸化炭素排出量や交通システムに影響)の3つがあり、相互に関係している。これは、都市システム・デザインの体系化のおいて重要。
・今後、With/PostCOVID-19の都市計画・都市デザインを検討していくにあたり、敷地・地区開発の前提となるオフィス集積や広域移動の考え方が根本から変わる可能性がある。一方、都市システム・デザインの手法自体は、汎用性を持っているので、都市デザインの「条件」(あるいは「ルール」)を変更すれば良いだけ。逆に、条件(ルール)をどう変えるとどうなるのかのシミュレーションができるはず。
・都市システムデザインの手法(ツール)が、現時点ではバラバラなので、うまく連携または統合したい。少なくとも、スコアボードや持続性評価体系(とそれに基づく認証制度)の世界、都市ネットワーク分析(Closeness, Reach, Gravity, Betweeness, Straightnessの概念)、計画サポート・システム(自治体や民間開発業者が使用することを前提)がある。
・理論的には、敷地開発の地区や都市へのインパクトをシステム的に捉え、正のインパクトを最大化し、負のインパクトを最小化することを考え、その結果を敷地開発にフィードバックできるような都市システム・デザイン手法を体系化すべき。また、実務的には、地区や都市の質を高めるような(正のインパクトを最大化し、負のインパクトを最小化するような)敷地開発のあり方を探究する。そのことが敷地開発の価値の上昇につながる。

 この都市システム・デザインの研究は、今年度から少し体制を変えて、推進することとなった。国立環境研究所・山形主席研究員やジョージア工科大学・Yang准教授とは引き続き連携する。

参考ウェブサイト等

(1) Akito Murayama:Institutional Instruments for Urban Systems Design – from the Planner’s Perspective,Yoshiki Yamagata and Perry Yang eds.: Urban Systems Design: Creating Sustainable Smart Cities in the Internet of Things Era, Elsevier, 2020
https://www.elsevier.com/books/urban-systems-design/yamagata/978-0-12-816055-8

(2) 環境儀 No.7:和風スマートシティづくりを目指して:IoT・ビッグデータ時代の都市システム・デザイン Summary
https://www.nies.go.jp/kanko/kankyogi/70/10-11.html

(3) 気候変動に関する国際枠組:2020年以降の枠組み:パリ協定
https://www.mofa.go.jp/mofaj/ic/ch/page1w_000119.html

(4) 2017 Urban Design Studio
http://up.t.u-tokyo.ac.jp/%7emurayama/courses/urawamisono2017.pdf

(5)都市デザイン研究室マガジン vol.288
http://ud.t.u-tokyo.ac.jp/blog/_docs/vol.288.pdf

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