No.4|COVID-19と身近な空間
No.2とNo.3では話が大きくなり過ぎたので、身近な空間(ワークスペース)について考えてみました。
1.長期化する自宅勤務
COVID-19感染拡大により、3月の約半分は自宅勤務または休み、4/3以降は郵便物等を大学に取りに行った1日を除いて自宅にいる。仕事が生活の中にすっかり馴染んでいるので、もはや仕事と休みの区別がつかない。実は、前述の「郵便物等」の「等」にはデスクトップ・パソコン一式とオフィスチェアが含まれており、長期戦に備え、自宅寝室の一角に快適なワークスペースをつくった。
大学の授業は講義も演習もフル・オンライン化が順調に進み、研究室活動もZoomとSlackを導入して実は学生との距離がこれまで以上に近くなっている。もちろん、対面できないこと、都市計画・まちづくりの現場に行けないこと、デジタル化されていない図書や資料にアクセスできないことのデメリットは少なくないが、オンライン化のメリットも多い。また、大学外の仕事は、研究打ち合わせや学会委員会はオンラインになり、行政の会議は書面開催かオンライン開催か延期になり、講演の依頼は激減、前から依頼されて開催日が近づいている講演はオンラインに切り替わった。大変申し訳ないが、遠方の新規の仕事は辞退させて頂いている。大学の活動制限レベル(1)が現在の3(制限-大)から0.5(一部制限)や0(通常)に下がるまでは、この状態が続く。
2.ポストCOVID-19のワークスタイルとオフィス空間
これほどの自宅勤務+オンライン対応を経験すると、仕事のうち対面や現地でないとどうしてもできない部分が明らかになると同時に、これまでの仕事の中で効率が悪かった部分やあまり重要でなかった部分も判明し、COVID-19感染拡大の状況がよくなっても元の働き方には戻りたくないというのが正直なところである。もともと自宅外勤務:自宅勤務の割合が8:2だったのを、現在の0:10から2:8くらいに戻すくらいが良く、そうなると、研究室の空間の使い方も変わってくるはずだ。と思っていたら、同じようなことを考えている米国の人が記事(2)を書いていた。米国の状況だが、記事のポイントは次の通り。
・多くの企業のCFO(Chief Financial Officer:最高財務責任者)はCOVID-19を機にリモートワークを始めた従業員の一部に、ポストCOVID-19にもリモートワークを継続させたいと考えている(3)
・過去100年間、都市中心部(ダウンタウン)では、工業の成長(生産拠点の海外移転も含む)に伴い発生した会計、銀行、保険、マーケティングの諸業務に従事するホワイトカラーの労働者のためのオフィス空間が拡大した(村山注:それでダウンタウンに超高層オフィスビルの街並みが形成された)
・新しい技術の登場によりオフィス空間需要は減少しており、例えば、ワシントンDCのダウンタウンでは、2019年末に1993年以降最高のオフィス空室率を記録した
・ポストCOVID-19時代は、完全リモートにする企業も出てくるし、職場は間違いなく分散する
・オフィスは、(単に従業者を収容する)空間から文化、アイデンティティ、協働といった組織にとって鍵となるビジネス資源を提供する場に転換し、大幅に面積が縮小し、個人机が並んでいた空間が、会議室、共同の机、キッチンやダイニングといった「人が集まる場所」に置き換わりそう
・週1回の自宅勤務から週1回オフィスに来て人と会うワークスタイルに変わり、空席が目立っていた静かなオフィス空間が自宅では体験できない会議やその他やりとりで刺激に満ちた1日を提供する場に変容する
この記事を書いたのは、"neighborhood workspace"(近隣地区のワークスペース)や貸し会議室の事業を手掛けるcove(4)の共同創設者・CEOのAdam Segal氏。coveのウェブサイトを見ると、最近、"cove@Home"という自宅勤務サポート事業を開始したようである。コーヒーやお菓子が詰められたパックの配達、自宅オフィス・アップグレード、バーチャル懇親会・ヨガ・料理教室の開催など、自宅勤務者に魅力的なサービスがある。
3.大学の研究室をどうするか
大学の活動制限レベルが下がるまで、私の都市計画研究室(教員スペース、大学院生室、ミーティング・スペース)に人はいない。年度を跨いだので、特に大学院生室は、図書や資料、様々な物品が散らかった状態だ。ちなみに、大学院生のレイアウトは25年前からほとんど変わっておらず、大学院生1人1人に専用スペースが提供されているが、最近は研究室外にも快適な空調とネット環境があるので、稼働率が必ずしも高くなかった。私が学生の頃は快適なネット環境を求めて、もっと上の先輩方は快適な空調を求めて(と聞いている)、研究室に集まったものだが、そういう時代でもなくなった。
ちょうど今年度から大きな研究プロジェクトが始まることもあり、研究室の空間を刷新したいと考えていたところにCOVID-19感染拡大が起こってしまった。この際、上記のオフィス空間の変容予想のように、対面のディスカッションや協働作業、あるいは懇親会に適した空間に研究室をリフォームしたくなる。なお、研究活動拡大中のため、床面積を減らすことはできない。
そう言えば、昨年度、大学院生がホワイトボードに理想の大学院生室リフォーム案を描いていたのを思い出した。確か作業机はフリーアドレス制になり、大きなソファと観葉植物が置かれ、10階の大学院室と真上にある11階の私の部屋が螺旋階段でつながっていた。学生も年間を通して様々な締め切りに追われているため、とうとう「居ながらリフォーム」は実現できなかった。今、ポストCOVID-19に向けて、研究室リフォームを考えるのは、前向きで良いかも知れない。また、床面積の20%が"communal spaces and kitchens"という大規模 co-living 建物のプロジェクト(5)も思い出した。建物プロポーションと上層階が特殊なつくりになっているところが私の研究室が入居する建物と似ている。
ところで、企業が(特にCOVID-19によって業績が悪化してしまった企業が)これを機にオフィスの床面積を減らすことになると、拠点業務地の都市計画への影響も無視できないだろう。空いてくるハイグレードのオフィスが埋まって老朽化したオフィスビルが空洞化するのか、それとも賃料の高いハイグレードのオフィスが空洞化するのか。大規模再開発もそろそろ終わるのか。一方で、身近な生活圏のシェアオフィスなどは、3密対策が必要だが、需要が高まるかも知れないし、そもそも、人々が広い郊外・遠郊外の住宅地に移住し始めるかも知れない。先に紹介したcoveのようなビジネスが出てくるのも納得できる。
参考ウェブサイト
(1) 新型コロナウイルス感染拡大防止のための東京大学の活動制限指針
https://www.u-tokyo.ac.jp/content/400137691.pdf
(2) Office space occupancy may drop post-pandemic — and that's OK
https://www.smartcitiesdive.com/news/office-space-occupancy-may-drop-post-pandemic-and-thats-ok/577032/
(3) Gartner CFO Survey Reveals 74% Intend to Shift Some Employees to Remote Work Permanently
https://www.gartner.com/en/newsroom/press-releases/2020-04-03-gartner-cfo-surey-reveals-74-percent-of-organizations-to-shift-some-employees-to-remote-work-permanently2
(4)cove - your workplace is waiting
https://www.cove.is
(5) The Largest Co-Living Building in the World Is Coming to San Jose
https://www.citylab.com/life/2019/06/cohousing-san-jose-room-for-rent-starcity-coliving-housing/590731/