「大好きなあなたへ」
百貨店の休憩スペースでぼんやりしていると、隣に座っていたおばあさんが一生懸命に携帯電話でメールを書いていた。
おばあさんは一生懸命がすぎて前のめりになっていて、そのつもりはなかったのに文面がパッと視界に入ってきた。
「大好きなあなたへ。今日は百貨店へ来ています」
何て素敵なメールだ。
そう思ったと同時に、一体誰に送ってるんだろうと気になった。だって、大好きなあなたへっていう書き出しだ。子や孫にそんな言い方をするか? 家にいる旦那さんにそんな報告をするか?
そこで不意に思いつく。
もしかして、天国にいる旦那さんに送っているのかもしれない。
それだったらなんて悲しい、あたたかいメールなんだ。
先立たれて、それでも大好きで、その日あったことを何気なく話すようにメールを送る。決して届かないメールを。
そうこう考えているうちに、おばあさんは携帯電話をパチンとたたんで、百貨店の中へと消えていった。
明日もまた、旦那さんにメールを送るんだろうな。
……妄想だけど。
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