見出し画像

題名はテキトーにつけた、と入力している自分を描写する。

    白いプラスチックのローテーブルに、黒い汚れが擦れている。明るいピンク色の表紙の下に隠れて、私の視界には入っていない。ここは学校帰りの高校生や中学生がよく入るから、勉強していた跡かもしれない。
   どの町にもひとつはある公共施設が一体何の為にあるのか、なんという名前の建物なのか、未だに分からないまま。分かろうともしていないというのが正しい。白やクリーム色で統一された壁紙、テーブル、椅子、カーテン。天井に取り付けられたスピーカーからは、地元のラジオ番組が流れてくる。ポーンと安っぽい音がスピーカーから聞こえた。時計を見ると、丁度十八時になった所。
    手の付け根が少し痛んだ気がして、キーボードを叩く手を止めた。右手を軽く振ったり回したりしながら、左手で頬杖をついてスマホを眺める。きちんと形になった黒い文字が、スマホの白い画面を埋めつくしていた。痛みが紛れた気がするので、またキーボードを叩く。「手の付け根が少し痛んだ気がして」と打ち込んでいると、また右手の付け根がじんわり痛くなる。
    今私が向き合っているのは、昨日の夜中に布団に包まりながら向かっていたノートパソコンではない。使い始めて三年目になるスマホだ。キーボードはエレコムのBluetoothキーボードを使っている。色は黒で、カバンに入れて歩くにはちょうどいいサイズと薄さ。だけど普段使うといえば家にある厚手のパソコンなので、こうも薄いと逆に使いづらい。そのせいか、このキーボードを叩いていると度々手の付け根が痛くなる。大体少しの間放置すれば痛みは引くから、特に気にしていない。
    ここまで書いたところでまた痛みが強くなり始めたので、両手をキーボードから離した。テーブルに肘をついて右手をぐるぐる回しながら、画面をスワイプして書いた文章を眺める。ぼんやり眺めて痛みが引いたら、またキーボードを叩く。
    スマホはテーブルにぺんと置いているわけではなく、母親から貰った茶色のバッグに背を凭れさせている。
    差しっぱなしのヘッドホンのコードが伸びて、テキトーに突っ込んだヘッドホンがバッグからはみ出しているのが分かる。

    画面から左へ視線をずらすと、付箋とおなじピンク色の表紙がある。シンプルな無地のピンク一色の上に、「演技と演出のレッスン」と黒字で題名が書かれていた。百均で買ったピンク色の付箋が一枚、はみ出るように挟まっている。さらにその本の隣には、色がまだ揃っている五色の付箋が置かれている。
集中力が切れたので、一度Bluetoothの接続を落としてyoutubeの動画を開いた。一本だけ二倍速で流し見て、またキーボードを繋げる。
    ポテトを食べたせいか胃のあたりが少し重たい。カラオケで安いからと言って食べ放題を頼まなきゃ良かったかなと、何となく思った。

    家に父親がいるのは嫌だ。いい歳して未だにバイトしかしていない娘の方が両親からしたら嫌だろうが、それでも嫌なものは嫌だ。人が同じ家の中で行動している気配がするのは、それなりにストレスになる。気が散るというか、気になるというか。
両親の意識や視線がこっちに向いているような気がして居心地が悪いし、父親はそれに加えて不機嫌になった時が面倒くさい。あからさまに「自分は今不機嫌だ」という雰囲気を出てくるし、例え不機嫌でなくても、昼食を作るために使った鍋や包丁を水にもつけず出しっぱなしにする。がさごそと何かしているような音が、自室の扉越しに聞こえてくるのも嫌だ。
    給料の良いバイトは大体が市街地にあるが、交通費の関係で通うのは難しい。母親は一人暮らしをすればいいと言うがそのための資金もない。だけど長年一緒に暮らしてきた両親の気配がストレスに繋がっているのならと、最近は賃貸のサイトを眺めたりしている。休みの日に父親と二人きりかも、なんて憂鬱に思うことが減るし、誰の目も気にしなくていいからダイエットの運動とかも出来るかもしれない。

    ここまで書いてまた集中力が途切れた。今度はキーボードを繋げたまま、画面を操作してyoutubeを開く。動画を二本流し見た。一本あたり大体五分前後の動画だが、二倍速で固定しているから二つ合わせて五分ちょっとで済む。
    気分転換が出来たとまた書き始めながら、ふと時計を見た。十八時三十三分、いつの間にか三十分を回っていて、振り返って施設内の様子を見た。すると来た時には至る所に座っていた学生の群れがほとんど消えて、一人で勉強したり本を読んだりしている人が、見える範囲に四人座っているだけになっている。
    スマホの画面に意識を戻すと、LINEのポップアップ通知が表示された。母親から「ご飯です」と一言だけ。非表示にしてyoutubeを開き、また動画を一本見る。そろそろ帰ろうか、なんて打ち込みながら帰る気分では一切ない。だけどここは夜十九時になったら閉まる。この辺りで片付けた方がいいかもしれない。歩いてきた関係もあり家に着く頃には十九時を回っているだろうし、スマホの電池も三十パーセントに差し掛かっている。
    この辺りで終わらせようと思ってもいないことを書いて、私は指を止めた。
    改行もせずにぶっ続けで書いていたものを段落ごとに区切り、改行して形を整える。あとはコピペしてnoteに投稿して終わりだ。
    上記の文章を書いていると、いきなりキーボードとの接続が切れた。画面を二、三度タップすると、自動的に再接続される。電池がないのかなんなのか。この辺りで辞めておこうというお達しなのかも、なんて欠片も思ってないことを書き込んだ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?