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2020年10-12月の読書記録

3か月ごとに、読んだ本をふり返るnoteです。お正月はなにも為さずに過ごしたため、いまさらの更新ですがめげずにいく。今年もよろしくお願いします。

目録

千の顔を持つ英雄 下(ジョーゼフ・キャンベル)
幸福について(ショーペンハウアー)
カント「純粋理性批判」(100分de名著)
「好き」の因数分解(最果タヒ)
映画を書くためにあなたがしなくてはならないこと(シド・フィールド)
道化の民俗学(山口昌男)
デーミアン(ヘルマン・ヘッセ)
神話と女神(ジョーゼフ・キャンベル)
100のモノが語る世界の歴史 2(ニール・マクレガー)
葉隠 1(山本常朝)
磯崎新と藤森照信の「にわ」建築談義
手の倫理(伊藤亜紗)
聖なるズー(濱野ちひろ)
海をあげる(上間陽子)
ブルデュー「ディスタンクシオン」(100分de名著)
アーサー・C・クラークスペシャル(100分de名著)


書くのがしんどい(竹村俊助)
コーチングが人を活かす(鈴木義幸)
シェアする美術(洞田貫晋一朗)

神話論とシナリオ論:物語のつくりかた

韓国ドラマにはまって以来「物語のつくりかた」に興味がわいて、ジョーゼフ・キャンベルの『千の顔を持つ英雄』を皮切りに数冊読んだ。

『千の〜』は物語における英雄の行動パターンがテーマだったけど、今回読んだ『神話と女神』では、世界各地に残る神話の中で女神がもっていた役割や、男性神に立場を譲っていくさまが描かれる。

おもしろかったのは、農耕民族の信仰対象が木や岩や池といった特定のものになりやすいのに対して、移動する民族(遊牧民や戦士部族)は「どこにでもあるもの」、すなわち天や大地、風や太陽などの、広大で普遍的なものが信仰対象になるという話。結果、移動民族の神格は、農耕民や母なる女神の文化圏の神格(生まれ、成長し、死に、再生する神格)とは異なり、どちらかというと普遍的で永遠の存在になるという。

神話の構成はある程度されてるけど、じゃあ今の時代にあって物語をつくるという作業ってどんなもの?と思い(あと韓国ドラマのおもしろさの理由を知りたくて)、脚本家をめざす人のバイブルと言われている、『映画を書くためにあなたがしなくてはならないこと』を読む。

この本の内容は、映画の見かたの指針にもなるけど、映画以外の創作(それこそnoteもふくめ)のときにも参考になりそう。

たとえば、限られた120分そこそこの作品に観客が興味をもつかどうかは、冒頭の10分程度、脚本におきかえたら最初の10ページで決まるという。ふだんnoteについて「記事の出だしが大事」みたいなお話はよくしてるけど、あれと同じことだなと思った。
あともうひとつ、プロの脚本家であれば、初見の脚本を読んだときに、文字の並びかた(筋書きや台詞の中身そのものではなく)、余白や文章の長さから脚本の良し悪しが判断できるという話はおもしろかった。ぱっと見の読みやすさが全体の印象を左右するのはnoteも同じだなーと。

100分de名著が、いまさらだけどいい

NHK出版の「100分de名著」のテキストを読むのが好きだ。

この番組、存在は知っていたけど、実際にテキストを買ったのは昨年3月の「アーサー・C・クラーク特集」が初めて。最初はテレビじゃなくてラジオ番組だと思っていた(ラジオ英会話とかのテキストに似てる)。
テレビをもっていないので、実際に解説をきいたことはまだないけれど、このテキストは読み物としても普通におもしろい。おなじような読み専の読者もわりといるんでは。

その月のテーマの著作や作家について、その分野の専門家が作品の内容や存在意義を説明してくれる。番組自体は枠が決まっているからテキストは薄いけど、そのぶんいちばん大切な内容に絞って、しかもわかりやすく書かれているから、1冊ごとの満足感が高い。内容に興味がわいたら、その専門家がおすすめする関連書籍も紹介されてるので、そこから手をつければいい。

本屋で見かけると高確率で買ってしまうのに、読むのが遅いからまだ読んでいない2020年の号が数冊ある。今は、ミヒャエル・エンデの「モモ」(初読)と昨年8月の「モモ」の回を併行して読んでる。おそい。

つながりを見つける

本を読んでいると、以前読んだ本の物事や考え方に共鳴するような一文に出会うことがある。本と本の間のつながりが急に目の前に立ち現れてくる感じ。自分が本を読むのは、何かを知ることだけが目的ではなく、そのつながりの感覚を得るためなのかもしれない

「(単なる意味だけでない)その文章や作者が意図すること」がわかるという感覚もそこから生まれてる気がする。
たとえば、今回読んだ『磯崎新と藤森照信の「にわ」建築談義』という本で、「国見の儀式」というのがでてくる。

※国見の儀式…大昔の天皇や殿さまが京や城の場所を決めるときに行っていた儀礼。山や丘などの高い場所から国土をながめわたして、その風景のすばらしさを讃め称えるというもの。

この儀式について、実は昨年たまたま他の本(『言霊とはなにか』)で読んでいた。今回の対談本では、儀式の名前と内容にさらっとふれられているだけだったが、この儀式にどういう意味があるのか、先期の読書で知っていなければ、理解も浅いままだっただろうなと思う。

まあ、テーマの似通った本ばかり読んでるということでもある。が、本を読んだりあたらしい景色を前にしたときに、以前読んだ一節がぽっと浮かんでくる感覚はすごくたのしいし、そういう粒みたいな記憶の集積が今の自分なんだなって思う。

ちなみにこの本、ふたりの建築家が古今東西の「庭」について、背景の思想や建築物との関係をふまえながら議論していて、とてもおもしろかった。藤森さんが設計した長野県茅野市の空飛ぶ泥舟には、本当にたまたま行ったことがあって、なんかつながりの多い本だなと思った。それもあり、同じ藤森さん設計のラ コリーナ(滋賀県近江八幡市)にも、先日ひとりで行ってきた。

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つくづく、この状況下でも本は世界を広げるなあ。

今季の本:手の倫理

今回、1冊だけえらぶとしたら、伊藤亜紗『手の倫理』だろう。

今年、転職すると同時にコロナ感染が急速に広がった。引きこもり生活の中で、予想していたよりはるかに多くのできごとがあった。仕事でもプライベートでも、新しいひと、新しい考え方にふれていく過程で、出会い特有の楽しさだけでなく、盲目的になにかを正しいと思うことの危うさを知った一年でもあった。

だから、本の中の話がすべてとは思わないけれど、痛みをも生じさせうる他者との接触について書かれた本が読みたかった。その中で、「ふれる」と「さわる」という動作に焦点をあてたこの本は、ごくささいな日常にも改めて思いをはせるきっかけになった。

道徳と倫理、多様性についての文章も印象に残っている。

社会生活のさまざまな場面で、私たちはものごとを一般化して、抽象化して捉えてしまいがちです。「人間」「身体」「他者」という言葉。ほんとうは、そんなものは存在しません。それぞれの人間は違うし、それぞれの身体は違うし、それぞれの他者は違っています。
けれどもついついその差異を無視して「人間一般」「身体一般」「他者一般」について語り、何かの問題を扱ったような気になってしまう。もちろん、道徳が提示する普遍的な視点をもつことも重要です。そうでなければ、人は過剰に状況依存的になってしまい、その場まかせの行動をすることになってしまうでしょう。けれども、「一般」として指し示されているものは、あくまで実在しない「仮説」であることを、忘れてはなりません。なぜなら「一般」が通用しなくなるような事態が確実に存在するからです。そして、倫理的に考えるとは、まさにこのズレを強烈に意識することから始まるのです。

自分とは違う考え方の人もいる、というのは多様性ではなく、疎外や分断の一歩手前だということ。なるべく、できるなら寸分の狂いもなく、その人のパーソナリティーを理解することでようやくみえてくるものがあるということは、『聖なるズー』や『海をあげる』からも感じたことだった。

文化や思想に関する本や小説を読むことが圧倒的に多いけど、まさにいま痛みを感じている人の声を聴くということが、本を通じてもできるんだなというのが学びだった。

My Favorite Bookstores

いつまた行けるかわからないけど、心から行きたいなと思っている本屋さんが、松本にある「栞日」さん。

松本が大好きで何度か行っているが、前回見つけたときにとてもうれしかったのを思い出す。ただの本屋もすきだけど、おいしいコーヒーが飲めたりギャラリーがあったり、本のチョイスが自分好みだったり、どこをどんなピントで見てもすき!と思った。

お宿をやってたり(コロナで休業中)、最近は近くの銭湯の経営も引き受けたりして、地域の人たちとの関係の築きかたがいつもすごくすてきだなあ、と思ってみている。本当に大変なはずだけど、応援しています。この事態がおさまったら、必ず行きたい。

店主の菊地さんのnoteも。

* * *

2020年の読書まとめ

2020年の年初に「ビジネス書を除いて、50冊読む」という目標を立てていたけど、無事に達成した(51冊)!!上下巻になってるのもあったから、冊数自体はもうすこしありそう。レベルが低いけど、ぜんぜん読めなかった去年と比べてみればもう、「よくやった自分」って言いたい。

(タイトルが迷走している…)

最初はただの備忘録だったけど、細かい記録(覚えておきたい文章や感想)はNotionに残して、noteでは読んだ本から考えたことを季節ごとに書きつけるようにしたら、いいかんじ。

毎週とか、毎月とかでできたらいいのだろうけど、(上の一連のリンクの日付をみてもわかるように)書くのに5日とか10日とか余裕で割いてしまうので、このテンポ感がちょうどよいという気がする。来年、というか今年もやる。

ちなみにNotionはこんなかんじ。このカテゴライズはけっこう雑にやってしまったから、整理しようかな。今回は人文系が多かった。

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本にかぎらず、今年はもっとたくさんの文章を読みたいなという気持ち。まずは去年からの積読を消化します。

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漆畑美佳
最後まで読んでいただき、うれしいです。 サポートをいただいたら、本か、ちょっといい飲みもの代に充てたいとおもいます。