ゲームミュージックを「おしゃれ」にする要素は?
この記事は、TwitterでFantom Iris様が「#GMクロスラ」にて提示した課題「おしゃれゲームミュージック選手権」(2023.5.7)に関する考察をまとめたものです。
発音数が増えるとオシャレ
最初期のGMはBEEP音~単音~PSG3音(+ノイズ1音)がせいぜいであり、そもそも曲としての構成が「メロディ+ベース(+リズム)」で終わることが多かった(※しかもそのうちの1、2パートは効果音に取られることが多い)。そのため、音楽として最低限成立する曲調としてシンプルな調や進行にまとめたものが多く、いわゆるオシャレアレンジをする余裕がなかったと思われる。とくに、音階に使う音数を2にするか3にするかの違いはとても大きく、『グラディウス』のアーケード版とファミコン版の1面曲の違いはよく話題にされる。
[2音ではアーケード版のコード感を表現できないと判断したのか、FC版は曲としては大幅にアレンジされた形となっている]
音数が増えることでどうオシャレになるか……という例をもうひとつ。『ツインビー』では、オリジナルのアーケード版では基本3パート(メロディ+ベース+ドラム)だったが、アルバムのアレンジ版やSCC音源版ではコード進行にオシャレ要素が盛り込まれている。原曲の進行に合わせたアレンジも可能だったはずだが、音数が増え和音を奏でられるということでよりドラマチックなアレンジを採用したのではないかと思われる。
[アルバムアレンジとSCC版が微妙に違うのも面白い]
ちなみに、音数が少なくともオシャレに聴かせる方法が無いわけではなく、ベースラインの妙や曲自体のメリハリで十分オシャレ感を出している作品ももちろんある。
[高速トレモロ・シンセドラム(良く聞くとキックが2種類ある)・ノイズのゲート/ボリューム調節でのグルーヴ感など、ベタ打ちの野暮ったさを消してオシャレに聴かせるテクニックがふんだんに使われている]
音色が豊かになるとオシャレ
ナムコ作品は、波形メモリ音源(とりわけ高音質8パートを実現したC30)を採用した頃から明らかにジャンルの幅を広げている。『メトロクロス』ではブルースやジャズ、『ドルアーガの塔』ではクラシック系の重厚な和音色を使った転調や変拍子。『リブルラブル』のメインBGMは明るい音色でラテンやサンバのノリを表現しつつ、ブライダル完成では弦楽器を彷彿とさせるノコギリ波をいくつも重ねて完全にイメチェンしている。
[ベースが弦楽器系、コードがエレピ系、メロディがサックスなどのリード系の波形なのは、ジャズセッションをイメージしてのものと思える]
FM音源が主流になってからはゲーセンの環境でも目立つ煌びやかで多彩な高音が出るようになり、とくにセガ作品はフュージョン調のスタイリッシュな曲が一気に増えた。PCMのリズム隊でリフをつくり、YM2151音源のオシャレなソロを乗せる……という展開が、『アウトラン』以降多くの大型筐体作品で採用されている。
[大型筐体後期では、とうとう複数の音色でソロバトルさせるに至った]
なお、セガ作品のオシャレ要素でとくに大きな"事件"が起きたのが『サンダーブレード』で、mkⅢやメガドライブでの移植では、なんと最大の華とも言える「サンプリングされたスラップベースでの長尺ソロ」がまるまるカットされてしまった。音色やサウンドドライバの関係でニュアンスを再現できないと判断したのかもしれないが、これが曲の魅力を大きく削ぐ要因となったことは疑いようもない。
[ちなみに、PCエンジン移植版のBGMを手がけたのはセガを退社した後のファンキーK.H氏であり、そちらはベースソロもしっかり再現している]
また『エアバスター』においては、サンプリングを駆使したテクノ系のスタイリッシュな原曲を、PCエンジン移植版『エアロブラスターズ』で「再現するのはムリ」と判断して別の曲に差し替えた……というエピソードがある。
[FM音源が使えるメガドライブ移植版では、簡素化されているものの原曲ベースの再現になっている]
意外な曲調がむしろオシャレ
音源的な制約がほぼなくなってからは、工夫してオシャレ要素を盛り込むというよりは曲自体がオシャレかどうか……という観点が当たり前になる。そこでここでは、どちらかというとゲームならではの演出的な部分が注目ポイントになると思われる「オシャレ」について考える。
具体的には、「え、このシーンでこの曲調なの?(一瞬違和感あったけど)なるほどこれはかえってオシャレ!」と感じる演出。アニメでも良くある、「宇宙大戦争真っただ中で壮大なオーケストラ」「激しい格闘戦の最中にも関わらずエモいバラード」「戦国時代なのに劇伴はHR/HM」などなど。
[ボス曲、それもラスボスを「激しさ」ではなく「悲壮感」で表現したのは初めてかも]
[真ボス戦でも水樹奈々さんの曲が流れます]
[格ゲーでまさかのクラシック、しかもネオジオ音源で]
[そこまでミスマッチでもないけど、城曲からの落差が。なおもうひとつの町曲はノリノリのメロディアスなロック……なぜ?]
こういった前衛的なチョイスに関しては、『ガンフロンティア』2面や『メタルブラック』1面、『ダライアス外伝』の最終面など、タイトー作品での枚挙に暇がない。
[最初はSTGの曲とはとても思えないが、退廃した世界観と(まだ)希望を感じさせる明るさがオシャレ]
ほかにも、曲調的にオシャレと言うわけではないが、「画面演出に合わせて曲が展開する・アレンジが変わる」「あえて効果音を消して曲の重要なポイントだけを鳴らす」などの演出も、楽曲におけるオシャレ要素と言えるのではないか。
[ハッキングを行いゲームモードがACT→STGになると、BGMがチップチューンアレンジにリアルタイムで切り替わる]
[MD移植版で完成したと言える無音演出。以降、ダライアスシリーズでは"お約束"となる]
いろいろなオシャレ
ゲームは総合エンタメな側面を持つので、ほかにもオシャレを乗せる手法はいろいろある。それらをいくつかピックアップ。
過去作の曲やフレーズが流れる
[5面ボス曲もTF4タイトル曲の激熱アレンジ]
[ジャズのアドリブ的なソロがこのフレーズに回帰するのはオシャレすぎ]
[同じハードでほぼ同じグラフィック、しかしパワーアップした音源でこれを聴いたときのゲームキッズの興奮は計り知れない]
効果音も曲の一部
[これをオシャレと言わずに何をオシャレというのか]
いっそ環境音
[演出としてはたしかにオシャレ。だけど当然"曲"とは認識されない……]
MMORPGの曲はオシャレの宝庫
[オンゲーは異論他論大量にあると思われますが、代表作としてこれを。Dungeon Siege系のリアルタイム戦闘RPGですが、中世スペインに似つかわしくないスタイリッシュでダンサブルな楽曲が大量に実装されております]
ゲームミュージックならではのオシャレ
いろいろなオシャレの定義があるものの、単純に「曲調がオシャレ」というケースは、音楽理論的に考えて大量にあると思われる(とくに音ゲー)。しかしゲームの場合、ゲーム機とプレイヤー双方向のインタラクティブ性が存在するため、音楽理論的な「オシャレに聞こえる響き・コード進行」以外の情報……その曲が聞こえる状況での画面情報や、その曲が流れるに至るまでのゲーム内容なども加味されることになる。
であれば、音楽的には「お洒落」「ファッショナブル」という意味合いでのオシャレでなくとも、「粋」という意味合いでのオシャレを定義することもできるはず。曲自体はどちらかというと「かっこいい」「かわいい」「感動」に分類されるかもしれないものでも、さまざまな「あえて」を実行したその本意自体にオシャレを感じるのは、ゲームならではと言えるのではないか。