アイス
あれは、いつの夏のことだったのだろう…
遺影の中で微笑んでいる人は、あの夏の夜、母に連れられて来た幼き私に「アイス食べるか!?」と優しく声をかけてくれた
四角い小さなアイスに棒がついていた
祖母から甘い物を食べさせて貰う環境になかった私には、それはそれは、ことのほか美味なものであった
姉は、とっくの昔に家に帰ったのか、その場にはいなかったと思う
夜道を歩くときは、なぜか、いつも母と2人
その夜、母は、なかなか家に帰る気配すら感じさせず、長い間、この家に居たように思うが、私の記憶があいまいなだけかもしれない
あと数分も歩けば、家にたどり着くところに、この家はあり、何かにつけて母は、ここに来ては長話しをし、私は、その人がいるときは、必ずアイスをもらった
そんな思い出が走馬灯のように一気に頭の中を駆け巡り、優しく暖かな人だったな…と思うと涙がこぼれ落ちそうになり、慌てて喪主である息子に挨拶をと振り返ると、アイスを食べていた。
そういえば、さっきまで49日の法要があり、終わったところなんだよと出迎えてくれたときから、アイスを頬張っていたんだっけ…
しばし昔話をしていたら、母が慕っていた叔母がやってきて、母は元気でいるのかと尋ねてきた
覚悟はしてきた
意を決して、母が実は1年半以上も前から入院していることを手短に伝えた
しょっちゅう来ていたのに、なぜ来なくなったんだろうと心配をしていたと…
そうか…ここは、祖母や父と折り合いが悪かった母の駆け込み寺だったんだな…とあらためて感じた
幼き私も、その煽りを食って、随分と我慢と精神的苦痛を味わったのに、道を逸れず、人並みに今があるのは、この叔母夫婦が居てくれたから
そして今となっては、精神が破綻してしまった母が、逆に、ある程度まで持ちこたえられたのも、このいつも温かく迎えてくれる叔母夫婦の存在があったからこそと思うと、自然と涙がこぼれてきて、ご心配をおかけしてすみませんという返事が涙声になってしまった
小さくなった叔母が少しでも長く健やかに過ごせますようにと祈りつつ、お暇した
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