『帰ってきた あぶない刑事』のよさを知ってほしい
あのタカ&ユージが、とどろく叫びを耳にして帰ってきた!
なんてハシャいでみたが、僕は今まで『あぶ刑事』シリーズをそんなに熱心に追いかけていたわけではなく(ちょこちょこ見てはいた)、『帰ってきた あぶない刑事』の公開が発表されたときは
「前作で綺麗に終わったのにまたやんの?」
ぐらいに思っていた。まぁでも、横浜市民としてはチェックしといたほうがいいかなー的な、納税感覚で映画館へ行ったのだ。
でも! 実際に観てみたらめっちゃくちゃ面白いんだコレが。なんなら38年目にして最高傑作、『あぶ刑事』初心者の入門作としてうってつけだと言っていい。
なので、『帰ってきた あぶない刑事』のなにがそんなにイイのかちょっと書いてみたいと思う。
横浜の街がカッコいい
本作『帰ってきた』はまず夜のみなとみらいの空撮カットから幕を開ける。ゴキゲンなテーマ曲とともにオープンカーを駆るタカ&ユージの姿がとにかく楽しそうでよい。
そして船着場の脇に車を停め、夜景を眺めながら感慨深そうに話すふたり。
「8年ぶりだね」
「結局戻ってきちまったな、この街に」
もうこの時点で無茶苦茶イカしてる! さすがダンディー&セクシー。そしてなにより、ユージの「ねぇタカ〜、俺お腹すいたんだけど」の破壊力。このジジイ、あざとすぎる。
と、話が脇道に逸れかけたが、やはりプロはカッコよく撮るんだよなぁ。「横浜の街並みはこう見せろ!」というお手本のようなオープニングだ。
とにかく、最初から最後まで知ってる場所が無限に出てくるので横浜市民はそれだけで楽しめること間違いなし。
とくに、桜木町の横浜ブルク13はかなり気合の入ったプロモーションを打ってるのでもし観に行くなら断然オススメ。赤レンガ倉庫や福富町のコリアタウンなんかも近いので、観終わったあと徒歩でロケ地巡りができちゃうのだ!
キャラクターがカッコいい
そして、いちばん大事なのはなんといってもコレ、タカ&ユージや彼らを取り巻くキャラクターたちの魅力だ。
本作のタカとユージはともに70歳を越えている老人なのだが、衰えを感じさせないキレキレのアクションを見せてくれる。ユージは相変わらずメチャクチャ走らされるし、タカはバイクで疾走しながらショットガンをぶっ放すし、キメのシーンではオシャレで都会的な音楽が流れる。
そんな『あぶ刑事』あるあるをひととおり盛り込んでいながら、今作は全く懐古主義的なかんじがしない“イマドキの映画”になっているのがすごい。
それはひとえに、今作が“老い”を真正面から描いているからだと思う。
昨今は、“老いる”という現象になにかと負のイメージがこびりついているように思う。常に身も心も若々しくあることが素晴らしいことだとされ、ひさびさに見かけた芸能人が前より老けて見えたりしたら「劣化した」などと嘲笑したりする。俗にいうエイジズムってヤツだ。
今作は、そんなエイジズム的な風潮を真っ向から否定している。
70歳を過ぎすっかり後期高齢者となったタカとユージは、若々しく見えても実際はしっかり衰えている。肝心なときに背中が痛くて思うように動けなかったり、Z世代の若者の距離感の近さにタジタジとなったり。
だが、タカもユージもそれを悲観的に捉えたりはしない。「いつでも今がいちばん若い」という台詞が象徴するように、ふたりは寄る年波を華麗に乗りこなしている。どんなピンチでも「面白くなってきやがった」と軽口を叩くように、自分たちの“老い”をも楽しむ余裕が、今作のふたりをより魅力的なキャラクターにしている。そんな彼らの“変わったところ”と“変わらないところ”が、横浜という街の在り方に重なって見えるのだ。
そしてその魅力は、シリーズ38年間の積み重ねなくしては決して成立しない。
(“舞台となる街こそが本当の主役”みたいなのも探偵モノのお約束だったりする。こういう、今までの積み重ねに新たな文脈を乗せてくるやつにホント弱いんだ俺ァ)
人は誰でも歳をとっていく。とくに日本は今後ますます高齢化が進んでゆくと言われているが、そんな時代をサバイブするコツを『あぶ刑事』から学ぶのも大いにアリだと思う。
自分が将来どんな年寄りになりたいか考えるうえで、タカ&ユージの生き方は大切なヒントになるはずだ。若い人にも、『あぶ刑事』直撃世代のミドルエイジにも、そして彼らと同世代のシニアにとっても。
また、今作では脚本家をはじめとしたメインスタッフやレギュラー出演者に加え、シリーズ初参加の若い世代のメンバーが多く参加している。バランス良好な両世代の関係性も、この映画にフレッシュさをもたらしている大きな要因だと思う。
あと、本作における賛否両論ポイントであろう薫さん(浅野温子)の扱いについて。
僕も初見では「う、うぅーーん・・・・・・浅野温子ってホントはカッコいい女優さんなのにこんな扱いでいいの?」と思ってしまったが(面白かったけど)、まぁシリーズにおける薫のポジションというかキャラ付けにはいろいろとハイコンテクストな部分もあるし、いつも通りっちゃいつも通りだったわけで。
それに、タカやユージと方向性は違えど“自分の老いを悲観的に捉えてない”っていうところは今作の薫さんも同じだと思う。若い刑事に「オバサン」呼ばわりされて軽くキレたりしてたけど、あれって裏を返せば“自分のことをオバサンだと思ってない”ワケで、年齢を理由に自分の在り方を縛ってないのは自己肯定感の高さの表れと言えよう。ああいう一生ギラつき続けるような人生もそれはそれで楽しそうというか、タカ&ユージとは正反対のオルタナティブな選択肢として必要不可欠なキャラクターだったと今なら思える。
いちばん言いたいこと
すっかり長くなってしまったが、ここまで書いてきたことを要約すると、
「『帰ってきた あぶない刑事』をみんなも観てください」
このひとことで済んでしまう。
もうだいぶ上映館も減ってきているがまだギリギリ映画館で観られるし、なにより横浜の劇場なら相変わらず1日5回とか流してるから全然チャンスはある。みんなも聖地巡礼しよう!
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