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かぐや姫システム

おばあちゃん、お天道様部屋の準備整いました。

ん?そうかそうか。
私もいよいよお天道様かい。神セブン入りじゃ。



セブン…はどうか知らないけれど、そうか、おばあちゃんの若い頃にそういうのあったんでしたっけ、アイドルというのですね?

みなまで言うまい。それが粋というものじゃ。オトナってもんじゃよ。


……おばあちゃん、お天道様に入る頃になっても変わらないですわねぇ。

当たり前じゃ。
お天道様に入るからってひとが変わるはずないじゃろ。お前はまだまだウブじゃのう。


ウブ…。私もとっくにアラ還過ぎてますけど。まぁ、おばあちゃんからしたらウブなのかしら。


ウブい、ウブい。
あまちゃんじゃ。


あまちゃんかウブいのかどっちかにして下さいな。


どっちもじゃ。大盤振る舞いじゃ。


よく意味分からないけど…、まぁお元気そうでよかった……って、おばあちゃん明日本当にお迎えくるんですか?


そうじゃよ。この前の満月のときに「つぎの新月のときがあなたの冥界デビュー日ですからね」ってうさぎのミニたんが伝令に来たからねぇ。

それはどこのうさぎなんです?


ミニたんは私が若い頃に飼っておったネザーランドドアーフじゃよ。ピーターラビットのモデルになった…

ああ、はいはい、おばあちゃんがいつもテレビでうさぎを観るたびに話すミニたんのことですね。ということは、夢に出て来て教えてくれたんですか?


それなんじゃが。


はい。


おそらく本当のことを話したらお前は私をボケたと思うかもしれん…、死ぬ間際になってそんな疑惑をかけられたら死んでも死にきれん。


どういうことですか?夢で見たのでしょう?ミニたんを。


違う。


違う?


違う。ミニたんはな、満月の夜に縁側で月を見上げておったらしずしずと光の雲に乗って私の目の前まで降りてきたんじゃ。


え?うさぎが?雲に乗って?


ミニたんじゃ。
ネザーランドドアーフ、毛の色は限りなくトープに近い茶色じゃ。


…その、おばあちゃんが昔飼っていたうさちゃんが?月から降りて来た?うちの縁側に?


そうじゃ。かれこれ80年ぶりくらいの再会じゃった。かーわいーんじゃ、ミニたんは!


いやいや。お伽話みたいな。
まるでかぐや姫じゃないですか。


そうじゃよ。


え?


これが通称かぐや姫システムじゃよ。


おばあちゃん?えーと、大丈夫ですか?
お医者さんとzoom繋げましょうか?



ほらほら、やっぱり勘違いしよる。
ボケて言ってるわけじゃないんじゃよ。
お前もうちの村の魂循環型システムの本質をまだ知らないのかい。


なんでしょう、それ。
うさぎと関係あるんですか。


大アリじゃ。
お前は私にさっき、明日から部屋が変わると言ったじゃろう。


はい。
あ、そうです、お天道様部屋の片付けが済みましてね、いつでもお移り頂けるようにしてあります。


ご苦労さまじゃ。ありがとう。
そして、そのお天道様部屋がどういうものか、お前さんは知っているかい?


おうちで亡くなった方を安置してお祀りするお部屋でしょう?


ひらたく言えばそうじゃ。
私らは死んで魂が体から離れてもしばらくはここら辺をうろうろしておる。
自分の体を目印にして冥界のレイヤーへと段々移動していくんじゃが、死んですぐに体を馴染みのないところへ移されると具合が悪い。
レイヤー移動のときの軸がブレてあの世で迷子になってしまいかねない。
だから、死んでしばらくは家の真ん中に位置するお天道様部屋に体を置いてもらうんじゃ。
おじいちゃんもひいおばあさんもひいおじいさんもひいひい……さん達も皆んなみーんな、そうしてあの世に移って行ったんじゃよ。


…それは、私の実家のほうではなかったシステムですわ、おばあちゃん。


お前さんのとこはちょっとばかし都会でモダンな地域じゃからのう。
私らのようなエコシステムはあまり機能しにくい土地だからじゃろう。
この辺りは今でもだいたいそうじゃよ。


…この辺りといっても、ここは近くにあまりよそのおうちもないですからねぇ。
山向こうのタカハシさんちとかもそうなのでしょうか?


タカハシさんちも多分そうじゃよ。
まぁ確かにこの辺りは過疎化ですっかり村らしい村じゃなくなってしまったからねぇ。
お前さんにしっかりと教えてあげられてなくてすまなかった。


いえそんな。
おばあちゃんが逝ってしまわれる前にお聞き出来て良かったです。
それにしても、うさちゃんの話は不思議ですわ。夢がありますね。


夢みたいじゃろうが夢じゃないぞ。
月にはうさぎが住んでおるじゃろう。
そして月は冥界の入り口になっていてな。
私たちはいよいよ冥界に完全に引越すときには月の扉からあちらに入るんじゃ。
今回はたまたま先にあの世入りしていたミニたんが、いよいよ私が神セブンになるからということで伝令役を仰せつかってお知らせに来てくれたらしいんじゃ。熱き友情じゃ。


…それは、私の時もうさぎがお知らせに来ると言うことなんでしょうか。


この村に住んでおったらな。
そういうシステムになっておるから。
どうじゃ、かぐや姫気分味わえるじゃろ?


へぇぇ…。


お前さんが神セブン入りするのはまだまだ先じゃろうけれど、その時もミニたんに行ってもらうように予約しておくかい?


うさちゃんは予約制なんですか?


うちのミニたんはとびきりキュートなうさぎさんじゃからな、人気高くてスケジュール抑えておくのは早めがいいかもしれんて。


じゃあ、お願いしておきますわ。

限りなくトープに近い茶色の子じゃよ。
短いお耳がピン!と立ってつま先が黒っぽくてオシャレなカラーリングのうさぎさんじゃ。


いつかお会いできるのを楽しみにしておきますね。ミニたんによろしくお伝えくださいね。


ほっほっほ。
おまかせあれ、じゃ。
さて、私はそろそろ眠くなったから先に休ませてもらいますかね。


あら、もうお休みになられるんです?


明日の朝には起きないと思うけど、あとはよろしくお願いしますよ。


おばあちゃん…。


しんみりするのはなしじゃ。
死んでも魂はしばらくうろうろしてるからな、
あの世に逝くのも悪くはないんじゃよ。
お前さんももうちょっとオトナになったら分かるじゃろ。


だから、私も充分オトナですってば…。


ほっほっほ。
それじゃあ、休みますよ。
お前さんも早めに休みなさいよ、美肌の秘訣、ゴールデンタイムを逃さぬように!


はい。おやすみなさい。


じゃあおやすみ。お世話になりましたね。





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