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回帰と再生

森の下草が乾いた一隅に風が吹き渡った。


蛇は頭を高くそびえさせ、自分もまたハルシオンの茂みの一部のような顔をしてゆらゆらと風に身を任せている。

目を閉じて、気高いその顔をさらにツンと陽に向けて掲げてみせながら風のなかに何かの匂いを探している。

わたしはいつからここにいたかしら


蛇はひとりごちる。


風は甘い
水は苦い
空気はしっとりと重く
火はわたしの中でとぐろを巻いている

夕暮れの風にそよそよと身を任せながら蛇はうっとりと歌うように口上を唱える。

わたしはいつからここにいたのかしら

わたしはなにものなのかしら

そっと目を開け、暮れゆく空の奥から一粒、一粒と星の光が灯りだすのを予測するかのように今はまだ西陽に熟れる梢に切り取られた上方を見つめる。

長い旅をしたのだった。
しかし蛇はそのことを覚えてはいない。
自ら解いた円環から溢れた濁流にのまれ、彼女は遠くまで運ばれた。はじめにいた森、彼女の総べる森をあとにして蛇は生まれかわり、そして新たに生まれ落ちた。


だれかを育てたはずだけど

それとも深く愛したはずだけど

いまはなんにもおぼえていない

わたしは

わたしはここにいていいのかしら

わたしは世界にひつようかしら

さて


そう歌いあげて彼女は我に返る。
ふるふる、と首をふって自らのまじないめいた円環思考を打ち払う。


いけない

ことばは過たず使わなくてはいけなかった

無意識のリズムにのせていてはどれだけでも堂々巡りをし続けるのだったわ


遠く旅してきた旅路のなかで記憶にないながらも蛇は新たに叡智を授かっていた。天王星が、そして冥王星が、彼女に叡智の火を吹き込んでいた。

変えること。変われること。それが本質の求めと異なるときには更地にしてやり直すこと。

更地にしてやり直すこと。


そうだ

憐れむのはなんのためか

自分を憐れむのではないのだったわ

憐れみは愛を知るための呼び水

わたしは

わたしたちは

みずからのなかに愛の湧き出でる泉をもっている

そのことを思い出すのではなかった?


風が静まる。
日が沈む。
森に虫達の歌が響きはじめる。

蛇はぐるりと周りを見渡す。

彼女はこの森を愛してゆくのだ。




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