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退屈と創造

暗い 暗い 暗い
真っ暗なわたしから生まれたわたし

わたしがわたしを生んだとき
暗いくらいわたしから
わたしが生まれたとき
のちにそれを光と名づけて
わたしは混沌のわたしの世界を始めた

いちばん最初の
わたしのおはなし




水曜日の昼下がり、人間の私は暇をもてあましたバイト先のカウンターで途方に暮れていた。

あまりに沢山の仕事が押し寄せたあとに、ストンとエアポケットに入ったかのような静の時間。やることが何もない。
刺激が何もない。

退屈だ。

どうしたの急に。何も起きない。

つまらない。

退屈に圧倒されてイライラとしはじめる。

何もない平穏さのせいでイライラするなんて我ながら心外すぎる。

だけど私は知っている。

これは、本当のところは私のなかのヘビがイライラしているのだ。

刺激を。
何か刺激を。
ゴシップでも心配ごとでも甘いものでも何でもいいから、早く刺激を。

とぐろもバラバラと解けんばかりにカマ首をもたげて、牙をむいて私を脅す。


私はこの頃、そうしたヘビの姿が自分のなかに見えるようになってきていた。


あああ…
ヘビがご機嫌ななめだ。

いつもなら、それ以上彼女を怒らせるのは面倒だからと即座にご要望に適う「何か」に手をのばす。

だけど今日はすこし待ってみようと思う。

何にも手を出さず、ヘビのご機嫌もとらずに
私は目をそっと瞑る。

のどの奥、みぞおちの少しうえ。
身体のなかの異空間でヘビがイライラと重たい吐息をついているが、それをそのまま置いておく。
少し勇気が要ったが、ヘビのプレッシャーを真に受ける必要なんてあるのだろうか?という想いがこの頃の私には芽生えていた。

外は静か。
内ではヘビの不機嫌顔。

目を瞑り、ヘビの幻影を貫いてそのまま内奥に降りてゆく。

なんにもない
なんでもない
だれもいない

つまらない。

なあんにもない。


怖いヘビすらくぐり抜けて、勇気を出して降りてきた先のここは……

退屈な退屈な闇。

いや、闇というよりはただの質。

ただの状態。

ただのフィールド。


つまらない。


何も見るものもなく、だれがいるわけでもなく。


つまらない。


何も起きないし、何もはじまらない。


だれもいないし、だれもわたしを見てくれない。


言葉はここでは無用過ぎて、言葉自体が自己嫌悪に陥る。



なんてつまらないのだろう、ここは。



少し前に通り抜けてきたヘビの幻影が懐かしい気持ちになる。

あれはもてなし。
刺激という、意識へのもてなしだったんだ。


降りてきた先のかなたを仰ぎ見る。

なんにもないここからは最早なにも見えないけれど、微かに、わずかに、ヘビの亡霊が光の点になって浮かんでいるように思えた。


ふうん


そうか


ふうん


そうなのか


つまらないのなら…

こんなにつまらないのなら…

創らなければ。

創らなければ。



あらイヤだ。
私は何を創ろうとしていたの?

思わず目を開けて見慣れたカウンターからの景色を眺める。

一気にこちらに戻ってくる道すがら、再び通り抜けてきたヘビのことを咄嗟に振り返ると、ヘビはぽかんとした顔をして、カマ首を立ち上げたままの直立状態で硬直している。

それは見たことのないようなマヌケな顔だった。

『…アゴ!アゴが外れているよ!大丈夫?』

一応声をかけてみる。

ヘビは目をぱちぱちしばたきながら私の顔をただただ見つめている。…まぁ、大丈夫そうだ。


昼下がりの時間がふたたび流れだす。

人間に戻らなければ。


それにしても、さっきのわたしは何を創ろうとしていたの?

何を創ろうとしていたの?




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