日記:The Pinballsを聴き始める
音楽の日記です。
The Pinballsを聴き始めました。
おれが好きなボイロ動画投稿者にるいすという人がいるのですが、サブカルにめちゃ詳しくてロキノン系を動画で多用するので(ちなみに投稿されているのがニコニコなのでJASRAC経由で権利者にはお金が入っているハズ)、「いやそういえばニンジャスレイヤーで劇場支配人聴いてからこのバンドちゃんと聴いてないぞ」と思い立つ…という感じです。
そしたらもう、マジで良い。なんでこんなにセンスが良いのか。いままで聴いてこなかったのが損失!!!ってくらいのバンドでした。
ふつうの軽音部でちゃんと知ったafocといい、今年はロックバンドとの素敵な出会いが多くて素晴らしい。今日はちょっとこの、The Pinballsについて曲を流しながら喋ってるんでよかったら聞いてってください。
劇場支配人のテーマ
まあまず、有名なこの曲から。
ニンジャスレイヤーフロムアニメイシヨンでエンディングに採用されたことで一躍有名となった曲ですね。あれから10年ちかく経ちましたが今でも我々オタクくんの間ではよく知られた曲ではないかと。
カッコいいっすよね。舞台は19世紀末から20世紀初頭の売れないサーカス劇団といったところでしょうか、生活苦に追い立てられる悲壮な経済状況に喉を締め付けられてヒュウヒュウと漏れ出る青息吐息、まさしくブルースといったナンバーです。どうにもできないゆるやかな苦しみに追われる人の心をギュッと掴む歌詞ですね。
歌詞といえば「アアイイエエエエエエエエ!!!」に気を取られがちですがなかなかテクニカルなリリックをしていて、一番の歌詞をよく見てみると人体のパーツが上から下に順に登場するのが遊び心あります。頭を悩ます、首を括らないと、胸を凍らす、足の長い、タップシューズ……う~ん、面白い。
ロシア文学じみた重苦しい言葉の味わいもさることながら、音の組み立ての方も唸らせます。しっかり勉強しとらんので音楽理論には詳しくないのですが、これだけ玄妙でまるでピエロが綱渡りをしているかのような不安定さを醸し出すリズムギターがほぼたったの3コードで構成されているのがびっくりですね。ギターの音に注意して聴いているとバックの旋律がかなり単純なフレーズの繰り返しで進んでいくのがわかります。最近ギター初めたのでやっとこのすごさが理解できるようになったのですが、この手のサーカスの楽曲によくあるヨナ抜き音階的なグラグラした悲愴さを見事に出しながら3つ押さえ方覚えればほぼバッキング弾けるんですよね……。これかなり練習したい曲だなぁ…。
ヤードセールの元老
家の庭先でおじいさんがいらないもの並べてフリーマーケットやってる風景を思い浮かべてください。平和で牧歌的ですね。
それをThe Pinballsが歌うとこうなるんですね。何があった???????????忘れ去られホコリを被った古物がダイアゴン横丁に並ぶ魔法の品々に見えだし、おじいさんに酸いも甘いも噛み分けたベトナム帰還兵のような風格が漂って、ラストの値切り交渉に築地市場のごとき迫力が感じられます。
テーマから一片も激しさを感じられないはずなのに、バザールの商人たちが笑顔の裏で執り行う熾烈な応酬が脳裏をよぎる。中古のワードローブ(タンス)ってそんな勢いで競売されるもんじゃないだろどう考えても!!!!!
Twitterでファンの人の感想を探しているとまた面白い見方が浮かんできて一層楽しめますね。言われてみると確かにそう。フィフティ…と言いかけたところに買い手がDone!と食い気味にカブせていて舌を巻きます。元老がまだトゥ、とかワン、と続けるつもりだったかもしれないところで50ドルだかユーロだかで成立するようにお客さんが勝負を仕掛けたわけですね。じっくりと読ませるうえに聴いてると情景が立体的に目に浮かぶすごい歌詞です。
ママに捧ぐ
さよなら20世紀の曲ばっかり挙げてますがこれも本当にすごくって…。
"ママに捧ぐ"って曲名で家族に感謝する内容をイメージしませんか?おれはそう思ってたんですけど、違うんですよ………。ある種そういう話なんだけどはるかにエグい歌詞でした。
曲の中で3人の人物が出てきます。それぞれが何かを母親に捧げようと言い出すワケですが……。
まずピンカートン探偵社のゴロツキですね。ピンカートンってのはアメリカに存在した会社でたしかに探偵っちゃ探偵なんですが、苦しみに耐えかねてストライキを起こそうとする労働者をこっそりスパイして袋叩きにし経営者から報酬をもらう血も涙もない連中として知られています。現代で言う半グレの借金取りあたりかな。ウシジマくんみたいなもんですね。
それが乱闘騒ぎでコケた拍子にみつけた指輪を「これ良いじゃないか!母ちゃんにあげよう」などとのたまうわけです。しかもモリー・マグワイアズ(炭鉱の労働環境がひどくて怒り狂って炭鉱夫たちが立ち上げた労働組合)の宿ってのが最悪に最悪。
この指輪、もらって嬉しいですか?ぜんぜん嬉しくないですよね。
パッと聞くだけでも直感的に嫌な感じがしますが、短い歌詞の中にものすごく意味が圧縮されていて、読み解くとさらに嫌な気持ちになれます。モリー・マグワイアズが隠れ蓑にしている宿、つまり搾取される苦しみと戦おうとしている人たちのところでわざと労働組合潰しのために乱闘騒ぎ起こして、そのうえおそらく額に汗して得た給料で炭鉱夫の誰かが買ったであろう指輪をパクって「母ちゃんにあげよう」言うてるのですね。ドン引きです。
それを母親に平気で贈ろうと恥ずかしげもなく言えるあたりに「ピンカートンで暴力と悪意を平気で振るえる良心の欠けたゴロツキ」という生き方が猛烈に濃縮されております。これだけの文脈が30秒で歌われてるの信じられねえよ!
だいぶギトギトの歌いだしですが、まだ一品目のお通しですよ。二人目はヤク中の料理人です。いやもう勘弁してくれ!
反体制的フルコースと言っているのでたぶん良からぬ料理であろうことは想像できるのですが、麻薬中毒者のガルド・マンジェ(スープを担当する人)が猛烈な勢いで飲んでるスープを「持って帰って母ちゃんにあげたいよ!」と言い出します。
さて、これマンチーやってますね。ハッパやってる人って感覚が鋭くなって快楽物質が大量に出るのでどんな料理も異常に美味しく感じられ大量にかき込んで食ってしまうんですが、モロにそれが出てますわな。スープ自体に仕込まれてるのか、本人が勤務中にやっちまってるのか……。
なんですかね?どうしてこう揃いも揃って嬉しくないものを母ちゃんに贈ろうとするのでしょうか。さすがに実家で泣いてると思うよ。
マンチー料理人くんはたぶん本気で美味しいものをお母さんに食べさせたいと思っているだろうという点でだいぶピンカートンおじさんよりかはマシなんですが、ヤバいもん入ってるスープを食わそうというのはアカンくないですかね…。百歩譲って入ってなくてもガンギマリで全部食っちゃってるせいで贈れもしないあたりに親不孝ぶりが炸裂してます。
やばいものをキメて身を持ち崩しているヤク中という救えなさ、それでもそんなヤツでも萎縮した脳みその片隅に母ちゃんがいるんだなと思うとやるせなさが漂います。もしなりたくてなった中毒者でないなら尚更ね…。
アブラマシマシニンニクヤサイオオメの二郎に生クリームをのせたような胸焼けのする連中に続き三人目はまっとうな女の子。よかった!やっと犯罪者以外が出てきたぞ!
誕生日ケーキのいちごをふたつに切り分けてママにあげようとする少女。それはとても清く美しい思いやり。ママとても喜ぶと思うよ。
ただ、とても……哀しい。いちごをふたつに切り分ける必要がある状況というのがあまりにつらい。ホールケーキだったらいちごを配分するだけで良いので切る必要はない。たぶんショートケーキひとつのいちごをふたつに切っているのだろうと推察できます。もうひとつ母ちゃんのぶんのケーキがあったらいちごは切り分けなくてもいいでしょう。つまりお母ちゃんがいるにはいるけど経済状況が相当厳しい……。
大事に残しておいた、ということはその場にお母ちゃんがいないと見ることができるので、この子はひとりで誕生日にケーキを食べてて、それでもいちごをあげようと思うくらい母親を大切に思っているってことです。母親はきちんと誕生日を覚えていて、なんとか家計から捻出して娘のケーキを用意して、それから仕事に出たのでしょうね。……なあピンズ……おまえの曲聴くの苦しいよ………!
初めてですよ……1分56秒の疾走する歌詞でこんだけおれを悶え苦しませるバンドは……!
「お母さんという大切な身内に何を贈る?」という問いを通してその人がどう生きてきたかを生々しく描いていて、しかもそれがただ単に品物の金額で推し量れるものではないことに重みを感じますね。指輪がいちばん高いでしょうが、あんな指輪をもらって喜べるわけがない。ひとかけのいちごがきっと一番涙が出るくらい嬉しいと思います。
広げてみるとこれだけの大風呂敷になる物語をハンカチサイズに畳み込む手腕が恐ろしいですね。ロックの形をした文学ですよ、これは。
ほんとになんでこんなバンドを通り過ぎていたんだろう……と思っています。今回取り上げた曲はごく一部なのですが、聴けば聴くほどウォースゲーしか言えなくなります。
これ以上は長くなるので割愛しますが、ここに挙げた以外だと「沈んだ塔」「真夏のシューメイカー」も良いですね。もし気が向いたら聴いてみてください。