【ネタバレ】エッジランナーズの感想
エッジランナーズ、いま見終えた…。何を言えばいいのかわからん……
わからんけど考えをまとめるために書いていきます。ネタバレ全開なので読まないなどの自衛をお願いします。
すごく丁寧にサイバーパンクやってる
やっぱりこのアニメ観たときにまず何を思うかっていうと原作へのリスペクトだと思う。
おれはCP2077を遊んでて、すでにナイトシティの世界観は理解していたし、「ああ、あの場所は…」ということはわかる。わかるからこそこの丁寧なやり方に舌を巻く。
多少説明くさくはあるけども、それでも無理のない範疇でサイバーパンク2.0.2.0.作品群での用語や設定をわかるように組み込み、徐々にこの世界観に視聴者を慣らしていく。
それでいて画作りは非常に刺激的で、とくにサンデヴィスタンを埋め込んでからのルーシーとストレッチャーで道路を逆走するシーンなどは度肝を抜かれる。丁寧にやってるくせしてダラけず引き込むポイントは必ず用意しているのがほんとヤバいなと思う。
ゲームファンへのサービスがうまく屈折している
CP2077を遊んでいるとエッジランナーズのロケーションや、あいつらはどういうやつかといったことが分かるのだが、これがイースター・エッグ的に埋め込んであるのもすごい。
たとえば、第一話でデイビッドの母ちゃんが亡くなり死に目にも会えず……というシーンがあるわけだが、ここはCP2077でこのロケーションを知らなければ「かわいそうに……トラウマチームとかいうのを雇えないから治療が間に合わなかったんだ」となる。
ところがどっこいこのナイトシティの病院は不正が横行しているクソ病院で、CP2077本編で「企業が傷病者を病院に送り届けると税金が控除される」というカスみたいな制度があるために意図的に人を送られているということが分かる。
つまりデイビッドの母ちゃんはまともな病院に送ればまだ助かる見込みがあったが、次の患者を受け入れるベッドをさっさと空け、回転率を上げることで税金を控除された企業からもっと多くウラ金を受け取るために見殺しにされたという可能性が見えてくる。
別に原作を知らなくても普通に受け入れられる作りだが、ナイトシティの事情を知っているともっと最悪な気分になれるというTRIGGERの仕込み方がうまい。
楽曲がいい
曲の使い方もいい。劇中の大半の曲はCP2077で使われているもので、ゲーム中でふつうに車に乗っていれば聞くことができる。AmazonやBandcampでも売られている。
そういった既存の楽曲に対して、エッジランナーズでは適したシーンで使うことでその曲のイメージを再定義したのが趣深い。
"Really Want to Stay at Your House"はその最たるもので、デイビッドに対して中盤からのルーシーがどう思っているかをまさにタイトルから歌詞から全てなぞらえている。あまりにも完璧すぎてこの曲からルーシーというキャラクターを作ったんではないかとも思ってしまう。
この曲自体はごく普通に以前からゲームの中のラジオから流れている一曲なのだが、エッジランナーズが完全に扱いをモノにしていてルーシーの曲としてイメージ付けてしまった。なんてことしてくれたんだTRIGGER!ゲームで車運転するだけでみんな泣いちゃうだろ!!
いままでであれば素通りしていた曲のひとつひとつにエッジランナーズでのドラマを含ませ、「あっ!ゲームのあの場所だ!」というCP2077本位の目で見ていた本作を、話を追っていくにつれて「あっ!エッジランナーズのあのときの曲だ!」へといつの間にか逆転させられてしまった。
こういった演出によって結果的に外伝であるはずのエッジランナーズがCP2077に対してものすごく双方向的な体験をさせる作品になっているのが驚きである。
丁寧にゲームの雰囲気を再現してCP2077の敷いたレールに乗っかるどころか、TRIGGERの連中はエッジランナーズによってゲームの世界観にたくさんの素晴らしい文脈を肉付けし拡張してみせ、街を歩いているだけでついデイビッドの生きてきた足跡を思い起こさせるようにしてしまった。むしろ外伝である本作がさかのぼって原作にさらなる厚みを持たせたと言ってもいいだろう。まさにCP2077という肉体に対するインプラントの如く。
後発の作品で先発の作品をより面白くするのは.hackなどのメディアミックス作品でもある効果なのだが、エッジランナーズも非常に高いレベルでこれをやった作品だよなと思う。
ピカレスクロマンやノワールの流れを汲みつつも爪痕を遺した作品
アフターライフにデイビッドを冠するカクテルがあったり、そしてオープニングでも示されるとおりデイビッドは砕け散って死ぬ。それはマフィアものや任侠もののようなピカレスクロマンのジャンルにおいても主流の結末であり、要はエッジランナーズは最初から最後が見えている作品ではある。
そのような予期された結末であっても、10話でなお爪痕を遺したデイビッドは本当にすごかった。ナイトシティの中で走りきったのだ。
デイビッドの夢は当初なかった。本人が語るとおり、彼は最初から好きでもないスクールに行って母親の夢を背負い、捨て鉢になってサンデヴィスタンを埋め込んださきにメインからあとを託され、彼自身は流れで生きていたとも言える。
しかし最後はアラサカからルーシーを取り戻して、ルーシーの夢を叶えることを自分の意志で選択した。ここが本当に良かった。ナイトシティで自分の意志で何かを選び取って生きることは、たとえ権力を持つコーポ野郎でも難しい。フィクサーだって相当やり手でなければ所詮は飼い犬である、ということはちょうど作中でも触れられる通りだ。
すでにどういう幕引きであるかは誰もが知っているが、それを上回ってデイビッドがどう生き、その意志を貫いたかという点において観客に大きなインパクトを残していったのは凄まじい手腕であったと思う。
エッジランナーズ、本当に面白かった。面白かっただけでなく、画作りなどの演出も良かったし、何より原作との関わり方が伝説級に上手かったことに感動する。
ちょうどPC版でも買い直したところなので、じっくり遊びたいと思う。