
フライング・ベイビー・ブルース
空がどこまでも青い日だった。
その日生まれた赤ん坊の背には、みな白い羽が生えていた。
愛らしく、ちいさく、いとけない羽だった。
濡れた羽が乾く頃、赤ん坊たちは一斉に飛び立った。
生まれたばかりの赤ん坊たちは、まだ笑うことも知らず、おわあおわあと泣きながら青空へと昇って行った。
恐れ、嘆き、喚き散らす大人を顧みることなく。
あの事件からちょうど40年が経つ。
つまり俺もちょうど40だ。
不注意な鴨撃ちに撃ち落とされた不運で幸運な赤ん坊は、くたびれた中年男になった。
片方撃ち抜かれた羽はオモチャみたいなサイズのまま、肩甲骨の下辺りにくっついている。
まるで年中ハロウィンやってる風情で、女と寝るたび爆笑されるんで俺は未だに独身だ。
苦笑を浮かべ、お守り代わりの鴨撃ち銃を握り直す。
崩れた天井の穴からは、空を飛ぶ無数の影が垣間見える。
おわあ
おわあ
口々に鳴くのが聞こえた。
【続く】