二丁目のない世界を想像してみて
例の2か月間、ほぼ電車に乗らない生活でした。これだけ長い期間、新宿に行かなかったことは、初めてかもしれません。都心の様子は、暇を持て余し観ていたテレビにて、目にしていました。画面には、人の姿が消えた新宿の駅前や歌舞伎町が映し出されていました。
「ここは、シンジュクの名で呼ばれる場所です〜」
どこか知らない都市を伝える、ナレーションの声を聞いているようでした。なんだか、別の次元に存在する場所みたい。それは、ワイドショーやSNSのディストピアな画像が、未知のものだったという感慨であります。加えて、ある虚無感に襲われました。店の仕事がなくなり、飲みに出ることもできず、新宿に行くことがなくなり……。あれ、ふらっと寄ることができてた場所に、届かないぞ。歩き方を忘れたかのように、足を前に出せない感覚です。ステイホームの新たな日常には、わりとすぐに順応しました。外出時にはマスクを忘れないようにすることも、スーパーでまとめ買いをして毎食をやり繰りすることも。いつもの習慣を変えるストレスは、こなしているうちになくなりました。しかし、新たに定着した僕の日常からは、新宿が抜け落ちてしまった。失われてしまったのです。
新宿二丁目では、ママ有志が集まり街を清掃したり、防犯のためにパトロールしたり、動画を作成したり、休業期間も動いておられました。インスタライブや投げ銭ができるアプリ配信は、さすがの知恵です。アデイでも、伏見グランマが常連を集めて、「バー・生存確認」という仮想の店をZOOMでオープンしていました。馴染みの面々の変わらぬ表情に安心を得た人は、僕(いつも酔ってた)だけではなかったと思います。そうして、いつ終わるか先が見えない、おうち時間とやらをやり過ごしていたわけです。
「次はシンジュク~、シンジュク」
新宿がシンジュクになってしまった、という話でした。この見知らぬ街では、ゼロリスクが信仰されています。感染拡大防止という大義のもと、社会が同一の空気をまとい、反する者は封じ込められます。生きるために火を灯した店は、街を仕切る女主に名指しで吊し上げられました。でも、なぜでしょう。限界まで制限したところで、感染者はゼロになりません。一方で、多くのものが奪われていきました。若い笑顔や可憐な歌声、説教を語る年長者の姿、泥酔して戯れる男の姿。ここに存在していた人生は、死んだも同然となりました。しかし、シンジュクには、簡単には脅威に屈することがない、人生が確実に残っていたのです……。
閑散とした街の映像を見た余り、空想の都市に思いを巡らせていたようです。でも実際、「どうしても今日、誰かと話さないとアタマおかしくなりそう」ということ、ありませんか? この6月より、お店の自粛は解除となっています。酒場には、くれぐれも体調や予防に留意して、お越しくださいませ!
A Day In The Life
東京都新宿区2-13-16 藤井ビル203
070-3352-2764
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