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94歳 一期一会の出会い

「しょいか~ご」
野菜直売所で野菜を買った帰りに、蕎麦を食べて帰ろうかということになり、一軒の蕎麦店を見つけた。
娘の直感に合わせて店の裏にある駐車場に車を停めた。
駐車場の後ろは畑になっていて、車から降りたら、畑にいたおじいさんがこちらをじっと見ていた。 
黙って通り過ぎるのもためらわれて、「こんにちわ~」と声をかけた。
おじいさんは耕すのを中断して、はにかむように笑った。
ツレもじいさんだが、さらに超高齢者と思われた。

広い畑を鍬で掘り起こす作業をしていた。
「これから何を植えるんですか」と聞いてみる。
「これからジャガイモ植え付けて・・・それから里芋だな~」
こんな広い畑を・・・と感心した。
終わりが近いホウレンソウや小松菜。ネギなどが育っていた。

「ホウレンソウ、もっていぐかあ」
親し気にお優しい言葉をかけてくださった。今、出会ったばかりなのに。
ホウレンソウは先ほど直売所で一束買ってあったが、いただくことにした。

いただいたホウレンソウは根元が赤く。

蕎麦を食べて駐車場に戻るとホウレンソウを抜いていた。
抱えきれないほどのホウレンソウをいただいた。
「洗って帰るか。あそこに水道あるど。」と教えてくれたが
そのままいただいて帰ることにした。
初めて出会った方にこんなご好意をいただいて、嬉しい気持ちとちょっと恐縮。
お礼と言ってはなんだったが、先ほど買ってきた「生みたてたまご」を半分差し上げた。
「いいの?貰って?」とおっしゃる。

お歳を聞いたらなんと94歳だという。
腰も曲がって、耳の聞こえも悪そうだったが
ちんまりとしたからだで頑張っていらっしゃる。

別れ際にお礼を言い、
車から手を振ると見えなくなるまで手を振ってくださった。

「可愛いおじいちゃんだったね。」
「耳が聞こえないから、家族の中で孤立してないといいね」
「介護もされずに立派だね」
「ああいう方は最後まで畑仕事してぽっくり・・とかね」
「100歳までも頑張れそうだね」
「昭和の時代を生き抜いてきたんだね」

父は「間質性肺炎」を悪化させてたった10日間の入院で急逝した。
その時63歳だった。
63歳と言えばまだ、高齢者には入らない。
元気でおれば畑のおじいさんと同じくらいになる。
どんなおじいさんになっていたかも想像がつかない。

蕎麦屋の裏の畑のおじいさんがお達者でおられることを祈る。
一期一会であったが、忘れられない出会いになった。








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