時をかける少女2

ヨーロッパ企画『続・時をかける少女』の観劇で“え?”

だいぶ前の話ですが、やっと劇団『ヨーロッパ企画』の舞台を観ることができました。同行してくれたのはこの男…。

ケ、ケン・ソゴル…!
では、もちろんありません。少しだけ「基地」の「外」にいる方です。
単なる脱線なので、ソッコーで話を戻します。

これまで友人が関係していて劇場へと足を運ぶことが多かった僕は、
・ハイバイ
・サンプル
・チェルフィッチュ
・東葛スポーツ

といった小劇場系の舞台ばかり観て来ました。

しかし、今回ばかりは「絶対行く!」と発売初日にチケットを即買いしたんです。


筒井康之原作の続編ではない舞台版『続・時をかける少女』

僕がなぜそこまで興味を示したのか——。
理由は単純明快。
演目が『続・時をかける少女』だからです。

ヨーロッパ企画といえばSFとコメディが売りの劇団。
これは相性が良い!と直感しました。

手っ取り早いのは、本広克行監督が映画化している「サマータイムマシン・ブルース」「曲がれ!スプーン」を観ること。本広監督の映画に対する評論は別として、どんなタイプの劇団なのかはすぐ分かると思います。

主宰の上田誠氏は、日常のちょっとしたことをモチーフにSFコメディへと消化する職人。素材として面白くならないはずがない。

しかも!

舞台演目は筒井康隆氏の原作『時をかける少女』の続編ではありません。
原作本はこちらです。

筒井作品にインスパイアされた脚本家・石山透氏が、1972年NHKドラマ『タイムトラベラー』のシナリオを執筆。これが好評を博し、その後を描いて放映されたのが『続・タイムトラベラー』です。

書籍『続・時をかける少女』は、この『続・タイムトラベラー』のノベライズであり、今回の舞台の原作にあたります。つまり、時代を経て3人目の作家が描く作品というわけです。


「タイムトラベラーvs流行」という秀逸なコメディ演出

舞台版『続・時をかける少女』のストーリーは、未来人であるケン・ソゴル(戸塚純貴)が女子高生・芳山和子(上白石萌歌)に別れを告げるところから始まります。つまり、筒井作品のラストです。

例え記憶が消えても、あなたのことは絶対忘れない

湧き上がる恋心を抑え、やむなくケン・ソゴルは和子の記憶を抹消して未来へと戻っていく。しかし、タイムトラベラーのメンバーが過去のどこかへと失踪してしまったことが分かり、再びケン・ソゴルが和子の前に現れてワチャワチャし始める…という王道のコメディ設定です。

メンバー探しの協力を要請され、1990年代、1980年代、1970年代…とタイムトラベルしていく和子。その時代ごとの風俗・流行がキーになっていく演出はなかなか面白いものがありました。

例えば、
・90年代は、学生時代コギャルだった高校の女教師に出会う
・80年代は、ローラー族だった高校の化学教師に出会う
・70年代は、すでにタイムトラベルしていた80年代アイドルに出会う
(↑これが和子の幼馴染み・吾朗に繋がる!)
といった具合です。

言葉にすると複雑そうですが、観ていてまったく混乱するところがありません。むしろ僕は『サマータイムマシーン・ブルース』のように、幾重にも細工された伏線が回収されていくことを望んでいたので、少し拍子抜けするくらいシンプルでした。

誰もが初見で楽しめる作品を意識してのことでしょうか。
もしかするとニッポン放送がスポンサードしている気遣いもあったかも知れません。


舞台観劇中に思わず“え?”となった役者

その中、僕が“え?”となった役者がいます。
一番上にある舞台のフライヤー画像に潜んでいるのですが、お分かりでしょうか…??

その答えは…










バッファロー吾郎A氏(以下A氏)、その人です。
僕は舞台中盤まで彼が芸人であることを忘れていました。
それほど演劇の世界に溶け込んでいたんです。

すごいなと思ったのはこんなシーン。

舞台が明転すると、化学教師役のA氏と女教師(MEGUMI)が高校の敷地内で意識を失って倒れている。もう見た瞬間に男女入れ替わり設定だな、と分かります。

程なく二人は目を覚まし、お互いの顔を見合わせて
「あたし!?」
「俺!?」
とお決まりのセリフを吐く訳ですが、その後に

…ということには、なっていないようですね

と続くA氏の“間”が絶妙で、聞くたびに面白くなっていく。

数えたら1時間半程の舞台で3回このやり取りをしてるんですが、3回目に一番大きな笑いが起きたところをみると、みんな期待してたみたいですね。平たく言えばダチョウ倶楽部的な上手さがありました。

「お笑い芸人さんは役者もできる」と良く言いますが、個人的には“人によるだろ”っていうのが正直なところです。例えばバナナマンとバッファロー吾郎が対決した第一回目のキングオブコント決勝を見ても、両者はまったく毛色の違うコンビだと分かります。

バナナマンはシティボーイズなどの流れを汲む演劇的なコントですが、バッファロー吾郎はニッチなワードを入れ込むベタなコント。喜劇という括りでいえば、「東京サンシャインボーイズ」と「吉本新喜劇」くらい違います。

東西のお笑いに視野を広げると、古川ロッパとエンタツ・アチャコまで続く長い話になるので割愛しますが、ともかくA氏は舞台役者として光る存在だなと確信しました。


クリエーターの力が試される『時をかける少女』

筒井原作『時をかける少女』は何度も映像化されていますが、特に80年代~90年代はアイドルの登竜門的な印象が拭えないのが正直なところでした。2010年に公開された仲里依紗主演の実写映画についても、あまり上手い作りとは言い難いものがあります。

これに対し2006年に公開されたアニメーション映画『時をかける少女』は、原作から20年後の高校生という設定を設けて、とてもクリエイティブに原作を飛躍させています。

周知の通り2016年に大ヒットとなった新海誠監督の『君の名は。』の完成度を見ても、2000年に入って秀逸なアニメーターの手によって筒井作品の持つ“強度”を再認識することになったのは確かです。

その中、舞台版にはアニメーションにも実写映像にもない“技”を感じました。
ブームに便乗したメディア戦略としての舞台化ではなく、しっかり演劇としてクリエイトされた作品——。

ヨーロッパ企画の『続・時をかける少女』を観た後、“顧客満足度No1”というフレーズが頭の中をリフレインしていました。


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