私は父から大事な学びを得る
終活は本当に大事だ。
2月に入院した父。
一時は生命の終わりも覚悟した程だったが、危機を脱して一般病棟に移った。
でも決して楽観視できる状態ではない。
先日、弟と二人で担当医師の話を聞きに病院を訪ねた。
先生は明るい調子で、入院当初よりも良くなっていることを説明した。
でも、元のように母と二人で自宅で暮らすことは難しいだろうという話だった。
その日は父への面会はできないという話だったが、確認したら夕食前だということで、急遽面会できることになった。
車椅子で看護師の方が連れてきてくれるという話だったが、血圧が下がってしまう、という理由で、ベッドごと運んできてくれた。
先日ICUを訪ねた時に比べると、確かに顔色もいいし、良くなってきているなという印象を受けた。
実は初めは父への面会を申し入れしていたが断られていた。基本、それを認めていない施設だからだ。
意識がハッキリしているうちに、父に確かめたい事があった。
実家は、家のこと諸々の管理はすべて父がしていた。お金のことも全て。
母は銀行口座の暗証番号も知らない、と聞いた。まだ父が元気な時に聞いたら教えてくれなかったと。どうもこの件に関して母の事は信用していないらしい。
父が今一番信用しているのは、どうやら私らしい。
ならば、大事な話は私が聞き出すしかなかった。
そんな話をするつもりだったが、この日は予定外の面会だったし、担当医師がまた近々面会の設定をすればいいと話していたので、日を改めて話をしようと思った。
ところが、担当医師がいなくなったところで看護師が言うには、基本的に面会できない病院なので、今日会ってまたすぐ、というわけにはいかない、と強く言われてしまった。
医師と現場スタッフのこの件に関しての感覚は違うようだった(私は出来る限り現場スタッフの考えを優先したい)。
だから聞きたいことがあるなら今聞いてください、と。
仕方がないので意を決して話を切り出すことにした。
「お母さんに聞いたら、家の事は全部お父さんが管理してるって。だから大事なことは聞いておかなきゃならない。」
「特にお金のことは、わからなくなったらお母さんが困っちゃうから。」
「こんな話をされるのは嫌だろうけど、でもきちんと話さなきゃならない。」
「本当はもっと早くに聞いておきたかったけど・・・」
父は泣き出してしまった。
「悔しいよね。でもとっても大事なこと。わかるよね?」
父は泣きながら頷く。
そこまで話しても、肝心な聞きたいことは何も聞くことはできなかった。
ただ父は「ありがとう」と繰り返すだけ。
父としても予想外の事を聞かれたのだろうし、動揺もしたのだろう。
弟と入れ替わりに(2名までと釘を刺されていたため)母が上がってきて、母の顔を見た父は更に声を漏らして泣き出してしまった。
これ以上興奮させるのはよくないということは私にだってわかる。看護師からも早く病室に戻したい空気が伝わり、それ以上話すことはやめた。
そんな父だが、今でもまだまだ生きるつもりでいるし、それは嬉しいこと。
最後はしっかり手を握って励まして別れた。
聞かなければならないから聞いたけれど、日が変わっても、その時のことを思い出しては何とも言いようのない苦しい気持ちになる。
終活は本当に大事だ。
私は決して息子たちにこんな思いはさせたくないし、あんな台詞を言わせたくもない。
それを父から学んだし、これからもまだ父から教えられることがあるだろう、と思う。