どうしてモバイルオーダーは使われないのか?
絶対「便利」なはずなのに、、、
仕事終わりにスタバで列に並んでコーヒーを頼む私。モバイルオーダーが便利だとは思っているのに、気づけばまた列に並んでいました。
スターバックスのモバイルオーダー使用率は30%を超えているというデータもある中、なぜ私を含め多くの人はそれを使わずに店頭で注文するのでしょうか?
今回はモバイルオーダーが主流にならない理由について、デザイン面の問題点と店舗体験への影響という2つの観点から考えてみたいと思います。
(今回想定するのはスタバやマクドナルドなどのレジがメインの店舗で使われるモバイルオーダーです。)
モバイルオーダーとは
モバイルオーダーではアプリで商品を注文し、指定された時間に店舗で受け取ることができます。主なメリットは以下の通り。
時間の節約:あらかじめ注文を済ませることで、店舗での待ち時間を短縮できる。
身体的にラク:列に並ばず席に座りながらゆっくり注文できる。店舗によっては席まで届けてもらえる。
カスタマイズしやすい:店頭で伝えづらいカスタマイズも気軽にできる。
やはりとても便利に感じるモバイルオーダー。
ではなぜ多くの人はそれを選ばずに列に並んでしまうのでしょうか?
行動デザイン的な問題
私たちは店舗を訪れるたびに、店頭で注文するかモバイルオーダーを使うか無意識のうちにどちらかを選択しています。
行動科学では、行動を引き起こすためには「トリガー」「行動障壁」「モチベーション」の3つが重要とされています(フォッグ行動モデル)。ここからそれぞれの観点でモバイルオーダーの課題を見ていきましょう。
店外のトリガーがない
トリガーとは、行動を引き起こすためのきっかけやサインです。店頭注文の場合はレジと列がトリガーになります。
モバイルオーダーも席のQRや入り口付近の案内でトリガーはあるので、店内で思い出す分には十分と感じます。
しかし店外でモバイルオーダーを思い出させてくれるトリガーはありません。事前に注文することで店内での待ち時間を減らせるのがモバイルオーダーのメリットと考えると、ここに問題と機会があると感じます。
最初のアクションのハードルが高い
行動障壁とは、行動を実行する際に必要なスキル・手間を指します。
店頭での注文は「列に並ぶ」という単純なアクションから始まります。一度列に並んでしまえば注文までの流れが自然に進むため、ストレスがありません。
一方、モバイルオーダーは「アプリを開く」だけ。これが実は簡単そうで面倒臭い。スマホを取り出し、ロックを解除し、アプリを探して開く、もしくはQRコードを読み取るという一連の動作は思っている以上に手間なんです。
(このような「スモールステップ」を意識する考えは「さよなら、インタフェース-脱「画面」の思考法」が参考になります)
「サンクコスト」という心理学の概念でも説明できますが、人は一度始めた行動を中断したくない傾向があります。最初のステップが容易であればそのままスムーズに注文を完了することが期待できるため、この最初のアクションの手軽さの差が大きな課題と言えるでしょう。
(ちなみに、2024年7月からアプリや会員登録が不要でQRを読み込めばモバイルオーダーを利用できるようになっているみたいです。アプリを入れるという行動障壁がなくなっているのは大きいですね。)
店頭注文でしか得られない報酬
行動を起こすための「モチベーション」とは、その行動によって得られる動機・報酬です。スターバックスでコーヒーを注文する際のモチベーションは、もちろん「美味しいコーヒーを飲むこと」です。
しかし、それだけではありません。店頭で注文する際には、店員とのコミュニケーションが、実は大きなモチベーションになっているのではないでしょうか?
これはコンセプトにもよるかと思いますが、特にスターバックスでは重要な要素になっていると思います。
簡単な挨拶や、場合によってはちょっとした雑談がユーザーにとってポジティブな体験となり、スターバックスの「サードプレイス」というコンセプトを支えているのです。このような人と人とのつながりや温かさは、店頭注文の隠れた魅力です。
一方でモバイルオーダーの場合、得られる報酬は異なります。モバイルオーダーの主な報酬は、「時間の節約」や「列に並ぶストレスの回避」です。
しかし現状では、この報酬が必ずしも十分に満たされていないことがあります。店内での受け取りに時間がかかる場合や、商品を棚に取りに行く必要があることで、実際の「時間の節約」、「列に並ぶストレスの回避」がそれほど大きく感じられないことがあるのです。
さらに、モバイルオーダーではコミュニケーションが少ない点も課題です。受け取りの際店員と簡単なやりとりがある場合もありますが、店頭注文に比べると非常に限られています。モバイルオーダーでは店頭注文で感じられる「つながり」や「温かさ」という報酬が欠けてしまうのです。
そのため、現状ではモバイルオーダーより店頭注文の方が魅力的に感じられることが多いと考えられます。
ここまでモバイルオーダーの行動デザイン的な問題を考えました。
解決策の方針はあるものの、やはりトリガーの問題などは解決しにくく、まだまだ課題は大きいと感じます。
モバイルオーダーはブランド価値にも影響する?
私はそれに加えて、店舗体験自体にも影響があるのではないかと思っています。3つの問題点を挙げてみました。
見えない列が体験を不透明にする
朝スタバでドリンクを買って行こうとしたけど、モバイルオーダーで思ったより待つかもしれない、と買うのをやめてコンビニに行った、という同僚がいました。
普通であれば、列の長さを見ておおよその待ち時間を見積もることができます。しかしモバイルオーダーがあることにより「列の外で待つ見えない客」が大量に発生します。私たちはそれが何人か想像もつきません。
Uberなどデリバリー注文もあるため、この不透明さは更に増しています。
このようにモバイルオーダーは店頭注文の体験にも思わぬ悪影響を与えているかもしれません。
店員と客の主従関係を助長しないか?
マクドナルドのモバイルオーダーでは、注文して席番号を入れると席まで店員が届けてくれます。「注文したものを持ってきてもらう」というのはレストランなどでは当たり前です。
しかし「持ってきてもらう」という行為は良くも悪くも店員と客の上下関係を形成すると思っています。このような関係性はマクドナルドやスタバにおいて最適なものなのでしょうか?
私は店員とフラットな関係性を築けるのがマクドナルドやスタバの魅力だと感じます。「持ってきてもらう」というレストラン的なサービスはその関係性を崩してしまう可能性があるのではないかと思います。
雑な店舗体験を生みかねない?
モバイルオーダーの商品が完成したけど受け取り手がおらず商品が棚に並んでいく光景をよく見かけるようになりました。
その雑多な光景は、店舗の景観を崩しているように感じます。
本来であれば店員から直接もらう商品も、棚に置いてあるものを取らなければなりません。
モバイルオーダーは店頭のオペレーションにノイズを生み、雑な店舗体験を生む可能性もあると思えます。
最後に
モバイルオーダーは確かに便利な一方で、現状のデザインや体験において解決すべき課題が多くあります。
トリガーの強化や、注文の手軽さの向上、そして店舗体験とのバランスを取りながら、モバイルオーダーの本来の利便性を最大限に引き出すことが求められます。
店舗体験としての独自の魅力を維持しつつ、モバイルオーダーがより自然に使われるようになる未来を期待しつつ、その一助になる機会があればなとも思っています。