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猿猴月を取る

ここ最近,自分のキャリアのことを考えることが多くなってきた.現職においては今年で10年目,大学教員になって15年目といういわば節目の年のあるからだろうか.人生をトータルに考えれば,恐らく折り返し地点はすでに過ぎていて,時折振り返って見ることがあるが,その時々の失敗や苦労はあるものの,けして悪い人生ではなくむしろ良い方なのではないかと思っている.

僕の好きな物語の一つにミヒャエル・エンデの「モモ」がある.その中の登場人物の1人であるベッポじいさんが,主人公のモモへ語った言葉は,心に残っている.

「なあ、モモ、とっても長い道路を受け持つことがあるんだ。
おそろしく長くて、これじゃとてもやりきれないと思ってしまう。
そこでせかせかと働き出す。
どんどんスピードを上げてゆく。
ときどき目を上げて見たのだが、いつ見ても残りの道路は減っていない。
だからもっとすごい勢いで働きまくる。
心配でたまらないのだ。
そして、しまいに息が切れて動けなくなってしまう。
でも、道路はまだまだ残っているのだ。
こういうやり方はいかんのだ。

1度に道路を全部の事を考えてはいかん。
わかるか?

次の1歩の事だけ、次のひと呼吸のことだけ、次のひと掃きの事だけを考えるのだ。
いつも、ただ次の事だけをな。
すると楽しくなってくる。
これが大事なのだ。

楽しければ仕事が上手くはかどる。
こういうふうにやらにゃだめなんだ。
ひょっと気がついたときには、一歩一歩進んだ道路が全部終わっとる。
どうやってやりとげたかは、自分でもわからん。
息もきれていない。これが大事なのだ。

ミヒャエル・エンデ 「モモ」より

これまでを振り返ってみたら,「一歩一歩進んだ道路が全て終わっとる.どうやってやりとげたかは,自分でもわからん.」という気持ちになる.ただ将来を見ようとすると果てしなく不安になる.そんなときにベッポじいさんがモモに伝えたことを思い出すと,「まあそんなもんか」と,今,目の前にあるタスクをこなしていこう,そしていつか気づけば大きなこともなし得ることができると過度な期待をせずに気持ちを切り替えることができる.なんなら,目の前にタスクがあるだけ幸せじゃないかとすら思うこともある.

いきなり身の程を知らない大きなことを達成しようとすると,大失敗してしまい,再起するにも時間が掛かってしまい,かえって成功までの道程が遠くなってしまう.身の程にあった小さな成功を達成すべく,その過程でできるだけ小さな失敗と克服を繰り返すことが大事だと思う.その小さな成功を積み重ねて行くことで,気づいた時には大きな成功になっていることを期待して,日々を過ごしていこうと思う.

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