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「どこかに子供は」から「ひとさし」までの解説のような

もう一息ですよ。
いや、あと一息ありますが。

それでは『詩の解説のような』です。


これはギャラリー喫茶あいうゑむさんで飾られていた一枚の絵から詩を貰った一作。
「ずっとずっとのおいでだよ」
が気に入っています。

子供の思影が遊ぶ光の中
冷たい遊具が風にゆれる

静かにしておいでよ
待っているんだよ
ずっとずっとのおいでだよ
待っているのだよ

夕暮れの草原
忘れられない誰かの場所に
受け入れられたなら

きゃらきゃらと声が高く上がる
さらさらと風が手をとる

静かにしておいで
待っているものが
ずっとずっと遠くから
待っているのだよ

光の中
とめどない時間を
冷まさないように雲は往く

静かの間のとまどいを
転がすように回しながら

「どこかに子供は」

たったひとつの、母を目は映す。
それだけで愛は伝わる。

私も生きているよ、という愛は届く。

海から鼓動が響く
涼しい風は少し生々しい
滴の形をまぶたに宿し
光のように海を見た
鼓動の一端を踏む

「海からの鼓動」

これも詩学舎の『星屑』のお題の。

星屑の最後に連なるなにかがあればいいな、と思って。

星屑は
塵になって 海に落ちて
そっと浜に寄せられる
そして静かに星そのものに成り代わりながら
気まぐれに
兵に自分たちだけの星座を描いてみせたりする

「星を崩して」


これも『星屑』の詩。
痛みの限りでのたうつ世界を、
私たちは生きている。

世界は私を撃ち殺す
暴力の日々は弱さを撒き散らす
雨は犬の肋骨の凹みを流れ
助けを呼ぶ声は
たちどころにあがる歓声に掻き消される

どうだっていいものひとつひとつの
どうでもはよいと言い切れないひとつが
悲鳴のように光を放つ
欠片と欠片の共鳴は
一点を起点に立ち昇る
様々な
たとえ屑のような星に成ろうとも

「星」

痛みに滅法強いことが、
果たしていいことなのか。
やさしさをこめてつよくあらなくてはいけない。
自分自身も例外ではなく。
それはとても面倒で、難しい。


私は三十年近く 
口内炎を知らなかった
歯医者さんに
「こんなに尖った親知らずがあったら、さぞよく出来て痛かったでしょう」
なんて言われて
「ああ、あれが」
と名を知った

あついものを食べて口の中が火傷をするとか
肩こりを放っておくとリンパ腺まで腫れるとか
ストレスを溜めすぎると顔面が痛みだすとか

痛いものは痛いもの
去っていくときには去っていくだろうと
信じていた
昔話ののんびりさで

だから体中が悲鳴をあげて
マグマの中を細胞が混乱するのも
まあ そのうちにと放っておいてしまった

今の私はそうして傷んでいる
愚かにも痛みを考えなかった私に
根はかろうじて腐らなかったために
傷んで重くて不自由な体は
私は残されている
純粋な痛みの中心に

「痛いときにはどうしていたの」


駅の改札でひとを待っている時に書いた詩。
自分はその流れに入れないものだったらどうだろう、
という気持ちの詩。

ひとを見送っている
ふしぎと途切れない
ひとというものを
もうどれくらい
見送り続けている

ながいと感じるほどの瞬き
短いと思い込むほどの そよぎ

ああ 香りさえ途切れない

ひとはいつ見送り終わるだろう
そのときはいつかは来て
そしてほんの一時 懐かしく香りだけ
手を振るのだろう

「みおくり」

続けさまに書いた詩。
他人に向かわないとき、
人は少し不満げな顔をしているような気がする。
それは自身の幼さの顕現かもしれない。

人を見る
人を見る
人を見る

同じ色のズボンのおじさま
花柄のシャツのおばあさま
杖をついた男の人
スーツを着たひと
白いフリルのお嬢さんは三人
みんな靴はばらばらで

人を見る
人を見る
人を見る

どの人もやさしそうに見えない
どの人も少し意地悪そうだ
だけどけしてそうじゃない
ひとりひとつだけのべエルを揺らして
ひとは生きていくしかない
ただひとり
どの皮を剥がされたって

「ひとを見る」

銃を売っておいしい食事を家族にさせる誰かと、
おいしいパンを運んで食べるひとを喜ばせるひと。
同じかもしれないし、
そうではあってはいけないと感じる人もいるのかもしれない。


銃を運ぶひとより
パンを運ぶひとの方が
しあわせかしら

木を切る人より
紙を造る人の方が
しあわせかしら

同じ食べ物
同じ服を着ていてはしあわせかしら
それとも逆にけして幸せになれないかしら

わかりやすく大きな声で言ってくれよ
パンでも銃でも運んだことは同じなんだ
しあわせで何が悪いのか
どうか私に教えてください

「パンと銃」

「その方な」は「その刀」の変換ミスだったけれど、
この方が気に入ってそのままにしている詩。
決死の覚悟でそばにいて。
それくらい私は狂暴です。
という詩。


抜き身の足に蔦は這い
その健気さにふるふるる

その方なの芯に口付け
触れて終える紅ひとつ

「ふるふるる」


どこまでねじ曲がったどこかに別れようとも、
私をあなたは見る。
私があなたを感じるように。

あなたの手が獣に成り
わたしが赤子の赤い夢に生まれ
果てよ
果てよ、と
のばされてゆく

静かな耳にあなたは在り
青い瞳の硝子をわたしは渡り
鋭い
その尖先を
求めてゆく

立ちすくむ月の前であなたはしゃがみこみ覗く
心に立ち込める虹の端より芽を生きはじめて空を見る
わたくしの
とむらいのごとく
光差すのを

ひと夜挿す

「ひとさし」


さあ、あとひとページ。
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