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「大したことのない薄闇」から「追いつけないそくド」までの解説のような

まだ続く、
おそらく折り返し地点。

もちろんここからの参加もお待ちしております。

私にちょっとした休憩なんて与えるな、危険。
塒にはいれば、暫く死んだように眠り、息を吹き返し目を開けるから。
空洞くらいの暗さで私の死を押し隠せると思うなよ。
という詩。

内側の暗がりが空洞になって
そこへ私を押していく

ここニ隠れろ
ココに隠レろ

いやだのやだのいや

私は真っ暗がいい
大したこともない薄闇で
私を飼えると思うなよ

蹴散らしてやった手たち

右側を大切に持ち帰る

おやつの代わりに食べてやる

そしてもっと暗い 私の腹を知るいい

「大したことのない薄闇」

海を前にして、
書いた詩。
音がたくさん水を書き換える。
でもその全てに私は描かれている。

たった一滴にさえ、私の絵はある。
水にどこまでも静かに瞳を開けている。

雨はしとしと ふたんふたん
水ががぶがぶ ごくんごくん
シャワーはシャーシャ―
結びつかない音の根っこの
ほんとの音はどこにあるの
それともすべてはほんものなの

川のさらさら ざぶんざぶん
海のとぷとぷ どっぷんざめん
水中のどくんどくん どぶんどぶん
とらえきれない音の進む方向の
中心はどこに それともすべて本音なの

同じ音には成らないで
同じ音には鳴らないで

いつまでも私を水びたしでいさせてほしい
どんな音も水は私を生き返し 撥ね返し 寄せて抱く

「水」

詩学舎のお題『星屑』に寄席て書いた詩です。

ありのままだった、
それを愛しながら、何故に私を小奇麗な形に思い描くの。

わたしをどうして磨いたの
あの不格好な黒髪は
あの星屑にもなれない小さな火は
黄昏を越えて先へ行ってしまった

さよならも 聞けなかった
懐かしさも ひしゃげ曲がる
うつくしい紐を掛けた
ひとまとまりの偽りよ

わたしをどうして磨いたの
意義ではなく意思でもなく
生きるを振りほどく無様な後ろ姿が
愛を呼んだのに

「わたしをどうして磨いたの」

どうしてバスが故郷?

と思いつつ、
バス、という駅よりも家の近くへ、
生きた町の最中を知っている、車体が覚えているそれに、
私の故郷を染み浸けて迎えに来てほしい。
そんな夢想の詩です。


おかえりなさい
と、言うバスに
いつか出逢えるかしら

絵本の中のお化け列車でも
王子さまのところへ飛んでいくツバメでもなく
迎え入れ そのまま どこまでも行く

私の故郷を抱えるバスは
どこにあるのかしら

「私の帰るバス」

この母は、私自身。
そしてもしも私に育てられた私だったらこう見るだろう、
という妄想の詩です。

母は
くっきりと
さようなら
と言う人だった

愛していると
言わない代わりのように
星を見上げては
なんてうつくしい日々といった

母は私を想ったが
私は私を思っていた
母はそれで十全といい
私はあまりに不全と言った

あなたが手を振るのを見て
私がさよならのことを考えられなかったのは
だから母の所為だ
と言ったら母は、
にやりと笑うのだろう

「母という私を見る」

須磨の駅前はツバメがたくさん飛んでいます。
その黒く夕暮を裂くような姿に目を奪われて書いた詩です。


凄絶な夕日に
呑み込まれていくツバメ

トドメの一息で
雲を流した

あしたあたらしいあなたになったなら
あしたあらゆるあしたに会ったなら

影を越えて
山を越えて

重ねた季節を
遊び合おうよ

「ツバメ」

喜びが喜びであるのは、
私がそうみるから。
その目を離してはいけない。
一時も。

小さな喜びが溶けた
合図はなかった
ひとひらのはねほどのくすぐりも

かなしみに小さな穴を開け
私に 空を見上げることを求めたあいだに
ありあまり
かぎりある喜びは溶けていた

「溶けた」

童話のような詩を書きたくて書いた詩。

家から立ち上がり、
大きな私はそれでもこの大地を進む。

赤い屋根を脱いで
古びた壁を手ではらい
指に絡みついた蔦を
指輪にして 陽にかざしてみる

私は歩いてみたくなり
思い出の埃を
頭を振って軽くしては
風をとおした

背の高い私はどこまでも見渡せる

哀しい膝を撫でてやり
足の爪に入っていた雑草をつまみ
閉じこめられていた内臓に
新鮮な水を探しにいこう

森も砂漠も海も正しさも
月も夢も噂も見計らいも
当てには少ししかならないのよ
私は私の眼を信じて

ずっととおく
すぐに遠くへ

「からだといく」

どうしても迷いが消えないのなら、
それを打ち消してあげるから見つめ返して。
そんなことを言っている詩だと思います。
たぶん。


届いたのなら両手をさしだして
つながることのひとつの方法に
うたがいをもたないで
俯いた温度に
ひろがる肌の張り合いを
認めてやれるように
届いたことを届けに
目に来て

「目に来て」


薬を飲みはじめ、
ぼんやりしてしまうことが苦痛だった私。
でも体とは、心とはすごいもので、
それを吹き飛ばす術を身に着け、
薬を飲んでいようと、そうでなかろうと、
同じ鋭さを胸におけるように改善したのでした。


あの重たかった震えが
頭をつかんでいた雲が
追いつけない速度を掴んだ

泥が跳ね 気づかれても
足型がはがれて叩き付けられても
かまわない速度を私は

厚塗りのパンのバターが
溶けて落ちるくらいの
ささやかな風が背を押す

ためらいに絞められていた首が
とまどいにつねられていた指の皮が
どうしようもない速度生み出した

走る 走る 走ってる
走る 走る 走り去って
今度は真後ろから私が迫ってやろう

縫い止めといてやろうとしたすべて

また
走って追い抜いてあげる

「追いつけないそくド」


怒涛の解説のような。
何とまだ続きますので、
水分をとりながら追いかけて下さいませ。

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