『かたち』(みじかいお話)
わたしたちは、マルや三角、四角に星型、様々な形をして発生する。
最初は光を返す粒子のような大きさで世界を漂い、同じような色や、固さのものとくっついては、やがて形としての見栄えが良くなていった頃を頂点として、成長を止める。
それは、わたしたちの唯一の発生する意味。この世界のどこかにあるという、同じ形の穴を埋めるためだ。大きすぎても、小さく欠けてしまってもいけない。わたしたちは、漂いながら気流に流され、いつ出会うともしれない穴を探して旅を続けるのだ。
本当に、わたしの形にぴたりとはまる穴などあるのだろうか。そう思わないわけではなかった。わたしたちの誰かが、穴にぴたりとはまる場面に、出くわすことだってあった。けれど、それは新しく仲間が発生することの数と、全くあってはいないのだか。
だから疑いや不安は募り、いつの間にか身のどこかを固くし、重くしていってしまうという状態にもなる。そうなると、重たさで気流に乗ることが出来なくなるため、そうなったわたしたちは、地に擦りつけられながら転がり、削れていき、やがて発生する前の状態へと戻っていくのだ。
わたしの友も、長い旅の中、少しずつ角のあたりが固く、黒ずんだようになってきていた。少しずつ気流にも乗り切れなくなってきた友。しかしわたしにできることは、何もなかったのだ。わたしが、ただわたしであるだけなのだから。
友もまた、ほかのそうなっていったわたしたちと、同じように地へ落ちていくのだと思った。何故なら他の運命など、みたことがなかったのだ。
しかし、友はそうはならなかった。そのかわり、ぴったりの穴も見つけなかった。
友は、自身の黒ずんだ角をもぎ取り、気流で微かに運ばれたマルい穴へと、その身を削ぎ落しながらゆっくりと、しかし圧倒的な決意で呑み込まれていったのだった。後には、友の黒ずんだ欠片が落ちていただけだった。それは光に反射し、静かに光っていた。
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