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透明な手首を自分のものにしたかった君へ
昨日の朝早く。
職場でのこと。
お母さんと、小学生くらいの娘さんがそっとやってきて、
声をかけられました。
お母さんは控えめに
「あの、こちらのお店ではないのですが、、、」
と話はじめました。
どうやら、
うちの向かいの雑貨売り場のなかの、
アクセサリー売り場の飾りとして置かれていた透明の手首のオブジェ?を娘さんが黙って持って帰ってきてしまった、と。
お母さんから手渡されたそれは、
きれいな手首で、
それを欲しいと思った娘さんの気持ちが少し分かってしまいました。
お母さんが促し、ずっと下を向いたままだった娘さんは、一歩私の方へ近づきました。
いくつくらいなのか、9歳の次男と同じくらいの背丈だな、と思いました。
あまりに彼女のまわりが暗く、痛々しい空気が満ちていたので、
思わず「いいんだよ」と声を掛けてしまいそうになりました。
でも、それは彼女から謝罪を口にする機会を奪うことになるな、と我慢。
そんな私の努力を汲んでくれたように、彼女は少しだけ私の方を向いて、「ごめんなさい」と言って泣きだしました。
ああ、がんばってここまできてくれたんだな、と、
なんだかもらい泣きしそうになりました。
それと同時に、なんて言葉を返すことがいいのかを必死に考えました。
こんな時に自分の人間の能力の低さに悲しくなります。
「だまって持って帰ってしまったことはいけないことだけれど、
こうして返しに来てくれて、謝ってくれて、ありがとう。
これ、とてもきれいだものね」
そんなことを言ったように思います。
その後、何度も頭を下げながら二人は帰っていきました。
いっしょにいた後輩の子に少し売り場を離れます、と言って、
向かいの担当の人のいる場所へ。
事情を説明して、透明な手首を渡すと、
そのスタッフさんも「持ってきてくれて、謝ってくれたんだ」とにこにこしていました。
自分の欲求に負けてしまったとき、
それをきちんと自分で正せる(お母さんの後押しがあったのだろうけれど)
ことは、すごいことだなと思います。
どうか、彼女がこのことを上手につかって、
心を耕せますように。