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映画『わたしはあなたのニグロではない』I AM NOT YOUR NEGROを観て

あたしがこの映画を観ようと思ったのは、ほんの偶然だった。

2018年の夏、息子を連れて日本に一時帰国したときに、地元駅にある小さな映画館のレイトショーで上映されるチラシをたまたま駅で観たのがきっかけだった。

ジェームズ・ボールドウィンらしき人、つまり、黒人の目のアップのチラシにタイトルが『わたしはあなたのニグロではない(I am not your negro)』。
なんと衝撃的なタイトル! ちなみに「ニグロ」は今では差別用語とされています。

そして裏がわのチラシに書かれている言葉。

差別が当たり前だった時代から、人々はどのように声を上げ
世界を変えていったのか……? 
”過去”から”今”を見つめる。

もーこれは観なきゃダメでしょう!

キング牧師、マルコムXそしてジェームズ・ボールドウィンときたら観ます!

❖ ❖ ❖

晩ご飯を食べて、自転車に乗って映画館に行って。

そういえば、日本の映画館で映画を観るのは本当に久しぶりだった。
もしかしたら20年ぶりくらい?

アメリカで映画を観るときは、ポップコーンを買ったりジュースを買って観る人達が多いし、誰かしら話しをしている。
スターウォーズのエピソード7/フォースの覚醒の時、画面にハン・ソロとチューバッカが出てきた時のやんや、やんやの拍手喝采や、特にハーレムで黒人関係の映画を観ている時の独特の雰囲気(大声で笑ったり、文句を言ったりと忙しいのだ)になれていると、日本のここまでの「沈黙」は気持ち悪い……とまで思ってしまった。

物語はこの映画のベースとなった原作(未完)を書いたジェームズ・ボールドウィンのテレビ出演の発言や講義や現代の問題をうまく織り交ぜてサミュエルLジャクソンの語りで淡々と進んでいく。

製作にフランスが入っているところが面白い。
ちょっと一歩引いて作品を作っている感じがして。
押しつけがましさがない。

ジェームズ・ボールドウィンはハーレム生まれの作家であり、同性愛者。1950年頃にパリに移動した人。その理由が

「自分は黒人だから、夜中にタイプライターを打っているときに知らない人に殺される恐怖が常にあったから」

どんな所だったんよ、1940年代のハーレム!

そしてあたしがとても納得した言葉が

「黒人の憎しみの源流は、現実に受けた不当な扱いに対する怒りや悲しみ。白人の憎しみの源流は、自らが抱いた幻想の恐怖。」

結局、白人は自分達が作った恐怖に囚われていて、それを取り払うために黒人をいたぶっているのではないの?

ジェームズ・ボールドウィンが公民権運動をしていたメドガー・エヴァース、キング牧師そしてマルコムXと行動を共にしていたけれど、わたしはメドガー・エヴァースのことは知らなかった。
あんなにも本を読んだのに、知らなかった。

いや、まてよ。
もしかしたら日本語にあまり訳されていない人なのかしらん?

というのも2001年の夏に、メンフィスに行ったことがある。

目的は、キング牧師が殺されたモーテル。
そこは今、ナショナル・シビルライツ博物館(国立公民権博物館:なんと日本語がのサイトです!)になっているのだ。キング牧師はそのモーテルの向かいのビルから撃たれて殺されたわけだけど、その向かいのビルも博物館になっている。

そういうところがアメリカのすごいな、と思うところ。
丸ごと保管している。

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過去の黒人の歴史ががっつり学べる形になっていて。

1階には奴隷船でどうやって連れてこられたのかという絵から始まり、年代毎に分かれていて、黒人がどういった対応をされてきたか、ダイナーやら丸焦げにされたバス(確か)などの実物も一緒に展示されている。もちろん、当時のニュースも流れていて。
もちろん、シビルライツに関わった人達の資料もあって。
ここにメドガー・エヴァースのことも書いてあっただろう。

さて、キング牧師が殺された部屋も当時のままで一応保管されている。ガラス張りになっていて中には入れないけれど、全てが観られるようになっていて。その中で灰皿にタバコの吸い殻もおあって、細かいなーと思った覚えがある。
と同時に、掃除が大変だなーとも思った。

向かいにビルにいけば、どういった銃で殺されたか、当時犯人とされている人物がどういった行動を取ったのか、足跡までつけていて、本当に芸が細かい。
と同時に、暗殺された日のニュースを流していて、その後に暗殺されたロバート・ケネディのインタビューも流していた(確か、マルコムXもあったような気がする)。

なので、この映画で使用されている画像はいくつか見たこともあったし、黒人の歴史を振り返るわけだから、これは息子にとっていい勉強になるなと観ながら思っていた。

さすがにリンチされた死体を木から吊っている画像は勘弁して欲しかったけれど……。

しかし、この映画を観た他の人はどう思ったんだろう?

この映画、ハーレムで観ていたら周りが怒りでうるさくて落ち着いて観られなかったような気がする。ジェームズ・ボールドウィンの言うことにいちいち頷いて Yes! Right! Yes maaaan!!! とか言って。

だって、日本人であるあたしですら白人教授(確かハーバード大学じゃなかったかな)の言葉を聞いていて、怒りしかなかったもの。

なんてアンタは上から目線なの?
黒人のことはわかっているぜって?
アンタは白人だから、彼らの気持ちは永遠にわかりゃしない!(You've never EVER understood because of you are WHITE!)
FXXK YOU!!!!

と思わず画面に向かって叫びそうになってしまった。
もしもハーレムの映画館で観ていたら本当に目も当てられないような大騒ぎになっていたと思うよ。

息子も身体を思わず前のめりにしていたし、舌打ちしたような気がする。いや、手を挙げていた、震えながら(黒人がよくやる仕草でもある)。で、何か小声で言っていたような気がする。

そこから一気にラストに向かって現代の映像とジェームズ・ボールドウィンの言葉が重なるんだけれど、彼の言っていることは映画が発表された2017年でも輝きを失っていなくて、いや、とても1970年代に発した言葉とは思えないほど、現代にリンクしていて。

それがものすごくショックだった。

自分がいかにアメリカでの生活に楽観していたのか、と思い知らされた。

もちろん黒人に対していろんな事件はあるけれど、オバマさんが初めて白人じゃないアメリカの大統領になって、時代は動いたと思っていたから。
同性愛者に対しても「同等の権利」が与えられるようになったし、いろんな人達がいるという認識になっていたと思っていたから。

もちろん、あたしが住んでいる場所がニューヨーク・シティーというのも大きいと思う。それは2015年の大統領選挙戦を観ていてよくわかったけれど、でも、でも、それでも……と、どこかで思っていた。

そして2020、だ。

時代はあの時から「まったく」変わっていないんだろうか?

でも、今のBLM運動は若い世代が中心だから、ぜったいに変わると思っている。

自分がマーチに参加する、しないは別として。
マーチするだけが全てじゃないから、自分にできることをやるだけ。

❖ ❖ ❖

さてこの映画、今、日本でも再上映されているようなので、興味のある方にはぜひ観ていただきたいですね。
気合い入れて見て下さいね。打ちのめされないように。
ひりひり、しますから。

アメリカの方は、Amazonプライムで無料で観られます。

今回は2018年に観たときのことを思い出して書きました。というのも、もう一度観れる自信がなかったのと、その時のフレッシュな気持ちを載せたほうが良いと思ったから。

何ができる? 

アメリカに住んでいる人は、黒人経営のお店で買うようにしましょうか。
もしくは黒人の人達が作ったプロダクトを購入するとか。
普通に寄付とかもできると思うので、1ドルでもいいから彼らに使って下さい。そのたった少しの行為が、大きな潮流をつくるから。





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ナカムラアキツ|ホリスティックライフコーチ|アーティスト|星読み
2006年生まれのアメリカ人とのハーフの男の子のいるシングルマザーです。日々限界突破でNY生活中。息子の反抗期が終わって新しいことを息子と考えています。