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大事なのはホンモノだよ

寒空の岐阜県岐阜市、それでも長良川球技メドウは熱かった。12日に行われた高校ラグビー岐阜決勝の撮影で見たラグビーのある景色、それは熱いけれど、寒い景色だった。

決勝に臨んだのは、2大会ぶり42回目の花園出場を目指す関商工、学校統合後初の決勝となる岐阜聖徳学園だった。試合前から両校のOBや保護者たちでにぎわうスタンド、声援を背に選手たちがウォーミングアップで汗を流していた。

ちなみにスタジアムの名称にある「メドウ(meadow)」とは、牧草地・草原の意味。全面天然芝のピッチの緑はとても美しく、戦う者、そして観る者の心を昂らせる最高の芝だった。

「キックにこだわる聖徳のラグビー面白いですよ」ー。今回もラグビーマガジンA記者の前情報を頼りに、聖徳の攻撃から撮影することにした。

キックオフ3分前、タッチラインに並ぶ聖徳の選手たちに向けて、コーチの一人が「景色を変えよう」と声をかけた。その言葉に選手たちはコクリと頷く。関商工か岐阜工か、長らく岐阜の高校王者はこの2校だった。岐阜の高校ラグビーに新たな彩りを加えた聖徳、そのカラーに期待が高まった。

前半、聖徳のキックオフで試合はスタート。その最初のワンプレーでそれは起きてしまった。ボールをチェイスしに向かった聖徳のキャプテンがタックルの際に頭部を強打し、開始早々に退場となった。

動揺と不安がスタジアムを包み込む。ピッチ中央で円陣を組み、自分たちのやるべきことを確認する両校フィフティーン。そして試合はリスタート。フィジカルで聖徳を圧倒する関商工が次々とトライを重ねた。追いかける聖徳は関商工の厚いディフェンスに苦しんだ。

前半、敵陣10メーター付近でペナルティーを得た聖徳。定石ならばキックでタッチに蹴り出してラインアウトでトライを奪うところ、キッカーはゴールポストを指差した。点差もある、距離もある、なぜペナルティーゴール(PG)を狙う。蹴ったボールは飛距離が足りず、関商工ボールへと変わった。

ペナルティーのたびに、トライではなくPGを狙った聖徳。その戦いぶりに当初は真っ向勝負を挑まないのか?と疑問を感じる自分がいた。ただその思いは試合途中から明らかに変化した。

開く点差に振り回されることなく、自分たちのやり方で得点を重ねる聖徳。一本筋の通ったラグビーは、聖徳にとっての真っ向勝負だった。ミスすればPGを狙われる。関商工の選手の顔に、恐れにも似た表情が浮かぶ。その出足が鈍れば、聖徳はランとパスで幾度となくアタックを仕掛けた。

見事2トライ3PG、19点を奪った聖徳。関商工との得点差は24点と開いたが、その戦いぶりは見るものの心を揺さぶった。勝利することと同時に、自分たちのプレーをどれだけ遂行できるか。それはW杯準決勝、イングランドー南アフリカの一戦で感じた思いと同じだった。

下馬評では南アフリカ優勢だった準決勝、だが試合が始まればイングランドが終始ゲームを支配する展開だった。敵陣でペナルティーを得ればPGを狙う。試合当初は、イングランドのオーウェン・ファレルがゴールを指さすと、トライを目指さないイングランドに敵味方関係なくブーイングが起きた。

それでもイングランドは自分たちのラグビーを貫いた。ただこの試合は南アフリカが一枚上手だった。南アフリカも最後は自分たちのカタチを貫き、強力なスクラムでペナルティーを奪い、ハンドレ・ポラードが逆転のPGを沈めて勝利した。

https://the-ans.jp/photo/365628/

高校ラグビー県予選、侮るなかれ。そこにはW杯同様のラグビーがある。

そして三重と岐阜、2県の決勝を訪れて気づいたことがある。それは他校の選手たちが全然いないこと。そのことが一番気に掛かった。

決勝までに散った他校の選手は、この2校の戦いを見たいと思わないのだろうか。同じピッチで戦った相手の姿を。来年のライバルになるであろう選手たちの戦いを。

全国大会に出る、出ないは紙一重だ。試合を見て、攻略法を見出し、自分たちのラグビーを見出せば道は開ける。それがラグビーをもっと、もっと面白くさせる。

もっとも近場のホンモノに出会えるこのチャンスを逃すなんてもったいない。

監督やコーチに言われるまま、決勝の日に練習していては強くはなれない。目の前のホンモノを見て、自分たちがホンモノになるための練習を考えてほしい。切実にそう思った。


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イワモトアキト
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