気高き敗者
試合に負けて、ラグビーで勝った。ピッチの敗者は、最後までラガーマンだった。赤く燃えるジャージーはたくましかった。
高校ラグビー三重県大会決勝が5日、鈴鹿市の三重交通Gスポーツの杜 鈴鹿で行われた。朝明(四日市市)が四日市工業に35-24で勝利し、12年連続14回目の優勝を果たした。
色づいた木々に囲まれたスタジアムに歓声が響く。13時15分、晴天の下、キックオフ。高校生活のすべてをラグビーに捧げた彼らの戦いが始まった。
ラグビーマガジンのA記者と記事の狙いを打ち合わせ、前半を四日市工業のアタック側で撮影した。
「四日市、2年生の代がとにかく良いんですよ」。そう話すA記者の顔が、期待に満ちていた。10年以上もその座を譲ることなく三重の頂点に立つ朝明、その牙城を崩れるかもしれない。カメラとレンズをセットしてピッチに向かった。
ただ、思う通りには行かないもの。前半から朝明の猛攻で点差は開いていくばかりだった。四日市工業も鋭い攻撃を見せるものの、あと一歩届かない。もどかしいまま、あっという間に前半を終えた。スコアは21−3だった。
控室に戻ることなく、ピッチ上で体を休める両チーム。四日市工業の円陣がやや静かなのが気になった。心が折れなければ必ずチャンスは訪れる。W杯フランス大会、フィジー対ポルトガルの試合のように。
後半も立ち上がりで朝明がトライを決めた。「これで大丈夫だ」ーー。朝明の選手、ベンチ、スタンドから安堵が伝わってくる。安堵であれば、良かった。余裕は相手に突きいる隙となる。
四日市工業は粘り強くフォワードを走らせて朝明のゴールへと迫った。1本、2本とトライを重ねる。焦る朝明は退場者を出して14人となった。試合終了間際にもう四日市工業が1本トライを奪った。
ノーサイド、気高き敗者の前に、勝者の笑顔はなかった。
良いラグビーを見た。最後はドキドキした。1週間前、フランスのスタッド・ド・フランスで南アフリカとニュージーランドの決勝戦を撮っていた時と同じく、興奮した。
もちろん体格やレベルの差はある。ただ、目の前にあるラグビーという競技の本質は変わらない。どう熱く戦うか、高校生たちの姿からはW杯の舞台と同じく、伝わってくるものがあった。
今週末(12日)は岐阜県決勝へ向かう。是非、彼らの戦う姿を見てほしい。きっと何か感じるものがある。