7月7日(日)

カフェにいる。スタバではなくタリーズ。入店して一時間くらい経っただろうか。パソコンで適当な動画を観たり音楽を聴いたりしている。気分は晴れない。

注文したアイスコーヒーはもう飲み干してしまった。顔でも洗ってこようか。気のせいかも知れないが、少し動悸のようなものもする。さっき飲んだコーヒーのせいだろうか。

店内の冷房はそれほど効いていない。できればもう少し冷えていてほしかった。肌寒いくらいでよかった。頭がぼんやりするのは、もしかしたらこの部屋の室温のせいかもしれない。ぬるいというか、生暖かいというか、もはやちょっと暑いと言ってもいいくらい。いま文字を打っているこのノートパソコンが発する熱と、私自身の身体が発する熱。それらを打ち消すくらいの冷たさがあればよかったのに。

何もなくなったグラスを手に取る。底の方にわずかに残っていたアイスコーヒーの汁をすする。グラスの表面は触るとひんやりして気持ちいい。結露してできた水滴はもっと気持ちよかった。テーブルの上の、さっきまでグラスが置かれていたところに、グラスから垂れた水滴が集まって水たまりのようになっている。手で拭うと、ひんやりする。でもその冷たさは手の中ですぐに溶けて消えてしまう。

付けていたイヤホンを外してトイレに行ってきた。洗面器で顔を洗う。持ってきたタオルで顔を拭く。気分はそれほど変わらない。店内に冷水の入ったポットがあることに気付き、紙コップに注いで二、三杯飲んだ。それでも変わらない。冷たさを取り込みたいわけではなく、火照りを取り出したいんだよなと思う。自分の体の内側で何かが熱を発している。それを外に出さなければ根本的な解決にはならない。

また冷水を何杯か飲む。やはり変わらない。冷たさを感じるのは喉を通るほんの一瞬。その後はただぬるくなった水が腹の辺りに溜まっていくだけだった。そもそも喉が渇いているわけではなかったので、余計に水を飲んでまた気分が少しだるくなった。

座席を移動する。個室のように仕切られているスペースを見つけた。今まで座っていたところより少し冷房が効いている。もっと効いていてもよかったのだが、まあいい。さっきより多少はマシだ。

息を吸って、吐く。吐くときに、身体の中にこもっていた熱がより多く呼気に含まれるように、ゆっくりと吐く。フーっとではなくハーっと。口を縦ではなく横に大きく広げて、じっくり息を吐く。じっくりと、深く。

あくびが出た。深呼吸の息の吐き方はあくびに似ている。あくびが出たからそう思ったのか、そう思ったからあくびが出たのか知らないけれど。眠いわけではないはずなのに、どうしてあくびなんて出たのだろう。

今朝は昼過ぎまで寝ていた。でも昨夜も床に就くのはかなり早く、夕方六時くらいに帰宅してすぐに倒れ込んで九時くらいまで寝た。それからシャワーを浴びてまたすぐに寝た。目覚めたのは今朝六時。でもそこから断続的に寝たり起きたりして、結局、午前中はずっとまどろみの中にいた。そんな風にして昨夜から睡眠時間は十分すぎるくらい取ったので、眠いなんてことがあるはずない。でもまだあくびが出る。不思議だ。

たしかに昨日は日中からやけに眠気が強くて、運転にも支障が出るくらいだった。どうしてそんなに眠たかったのか。心当たりがない。疲れていたのだろうか。おそらくそうなのだろう。でもそんなに疲れることをした覚えもない。

梅雨の湿った重たい空気がそうさせたのか。それくらいしか思い当たるものはなかった。この一週間ほど雨が続いていた。そういえば毎年この時期はこんな風になっている気がする。気圧のせいもあるかもしれない。湿った空気には胸を圧迫するような息苦しさがある。

雨で濡れたアスファルトのにおい、湿った土や草木のにおい、部屋干しの洗濯物のにおい、こもった部屋から漂うにおい。梅雨はにおいが強くなる。一年の中でおそらく一番。においは湿ったものから生まれてくる。においのあるものは湿っている。湿り気のあるところにはにおいがある。においとは湿り気のことかもしれない。

またトイレに行き顔を洗う。トイレから座席に戻る。店内を歩くと、本を読んだり、ノートを広げて勉強したり、スマホやパソコンの画面を熱心に覗き込んでいる人たちの姿がある。

他の客たちを見ているといつも不思議な気持ちになる。彼らはここにいながらここにいない。本を読んでいる人は本の中に、勉強している人はノートの中に、パソコンを開いている人はその画面の中に意識がある。身体はただイスの上に、抜け殻のように無防備に置かれている。彼らをそんな風にしてしまうものは何なのか。何が彼らの意識を吸い取っているのだろう。心を連れ去っているのだろう。

私は嫉妬のようなものを覚える。彼らのように目の前のものに集中することができない自分。自分だけがこの世界に取り残されてしまったような、置き去りにされてしまったような気分になる。このつまらない現実の世界に。

私はこうしてただ座っている。夕方になるのを待っているみたいに。でもどうしてだろう。どうして一日が終わるのを待っているのだろう。明日が待ち遠しいわけでもないのに。今日が終わればまた明日が始まるだけなのに。でも日は長くなった。一日はなかなか終わってはくれない。

珍しく晴れている。ブラインドの隙間から見える空に浮かんでいる雲の流れが早い。こうして夏になっていくのだろうか。自分の内に潜るには夏の日差しは明るすぎる。