9月8日(日)

図書館にいる。丸テーブルの席に座って持参してきたパソコンをいじっていたのだが、「この席ではパソコンの使用が禁止なのですが」と職員から声を掛けられた。席には「パソコン使用禁止」との注意書きが目立つ位置にあるので、もちろん知ってはいる。だがその上で、誰に迷惑を掛けているわけでもないし、べつにいいだろう、図書館側だって黙認してくれるだろうと思って座ったのだった。今日は日曜で利用者が多く、「パソコン使用可能」という窓際のカウンター席が満席でどこにも座る場所がなかった。こういうときなら仕方がないと融通を効かせてくれるかと思ったら、違った。

「どこかに移動しろってことですか」と聞くと「二階に移れ」と言われたので二階に移ってきた。もちろんお互いにそこまでストレートな物言いではなかったけれど、「二階の方にもパソコンの使用可能な席はございますのでそちらをお探しいただいて」的なことを言われたので、なんだかなあと思いながら二階に来た。しかし二階ももちろん満席。だろうなと思う。そんなことは来る前から知っていた。懲りずにまた「パソコン使用禁止」の丸テーブルの席に座ってパソコンを開く。だいたい「パソコン使用禁止」って理由はなんだよ。あっちの席なら良くてこっちの席なら悪い理由はなんなんだよ。

そんなことを思っていたら今度は警備員が寄ってきた。「すみませんこの席はパソコンが使用禁止なんです」と座席の注意書きを指差しながら声を掛けられる。「でもどこも満席なんです」と言い返すと、「こちらでパソコンを使用されると他の利用者の方にもうんたらこうたらで」と、なにやら丸テーブルの席でパソコンを使用することができない理由めいたものを説明してくれたのだが、肝心の後半部分がゴニョゴニョしていてよく分からない。でも言い方がすごく丁寧で表情の柔らかい人だった。警備員の人いわく「一階の丸テーブルの席はたしかパソコン使用可能だったと思うので、そちらに行ってみてはいかがですか」とのことだったので素直に席を立つ。警備員の人も付いてきて「外のベンチ席なんてのもありますけどね」などと階段に向かいながら軽く会話を交わした。実質的には注意を受けているわけだが、気分は悪くない。人情あるベテランの警察官に補導される不良少年もこんな気持ちなのだろうか。そんな経験はしたことないが。

一階に降りてきた。結局、一階の丸テーブルもパソコン禁止の張り紙がされていた。仕方なく、図書館の端の方にあるベンチに座りながらパソコンを開く。膝の上にパソコンを開きながらこの文章を書いている。こうなったら私も意地だ。ここは公共施設。おれだって市民税を払っている。人はこうやってクレーマーになるのだろうか。だが丸テーブルの席はパソコンが使用禁止というルールに納得できない市民だっている。しかし出禁になるわけにはいかない。さすがに二度も注意を受けたのでもう禁止の席では使用しない。得体の知れないルールに従うのは釈然としないが、さっきの警備員の人のおかげで、まあ仕方ないかと思うことができる。

ベンチに座るとすぐさっきの警備員の人が寄ってきた。「一階の丸テーブルの席もパソコン使用禁止でしたね、すみません。もちろんこのベンチの席は大丈夫ですけれど」とのこと。いい人だ。ちゃんとおれを一人の人間として扱ってくれていると感じる。「ご親切にありがとうございます」と思わず頭を下げる。彼も仕事としてやっている。そりゃあ彼だって警備員という立場上、パソコン使用禁止の張り紙のある席でパソコンを使用している人物を見かけたら、注意しないわけにはいかないだろう。彼には職責を果たす義務がある。その上で私に理解の眼差しを向けてくれている。慈悲深い。彼には分かっているはずだ。どうしてパソコンを使用するのに、丸テーブルの席ではダメで、ベンチの席でならよいのか。そこに理由なんてないことを。

誠実に仕事をするってああいうことを言うんだよなと思う。ルールに従うのは大切。しかし所詮人為的な取り決めにすぎない。普遍でも、不変でもない。ルールに従うことが最優先になってしまったら物事は途端につまらなくなる。もちろんルールには基本的に従うけれど、それはあくまでも「あえて」従っているのであって絶対的に帰依しているわけではない。スタンスが違う。その軽さが大切だ。人間味を忘れないこと。その味をこそ守りたい。


近所の温泉でひとっぷろ浴びてきた。久しぶりの水風呂でスッキリした。サウナが好きというより水風呂が好きだ。水風呂に長く浸かっていると、どこかのタイミングで変性意識状態に入る瞬間が来る。昔は120秒くらいだった。今は300秒を越えないとならない。たぶん体の深部体温が下がりはじめたタイミングなのだと思うけれど、モヤモヤしていた視界が水切りワイパーでもしたみたいに一気にクリアになる感覚がある。禅定に入るときってこんな感じなのかなと思う。瞑想というより坐禅という感じ。その後、急に寒さを感じていよいよやばいかもしれないみたいな気分になって、風呂から出る。凍えて死にかけた体を温泉で温める。今日はそれを2セットやった。