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EtB エッセンス5 「トランプル」

Enter the Battlefields,〜TCGで学べる7つのビジネステクニック〜

#創作大賞2024 #ビジネス部門

▶勢いがあれば向こう側まで突き抜ける

突き抜けろ! 俺のトランプル!

 多くのTCGでは、プレイヤーそのものにライフポイントが設定されていて、それがゼロになると敗北します。そうならないためには、生物やモンスター、兵士などを盾にして、身を守ります。たとえば、敵がダメージ10の攻撃をしかけてきても、ライフ1の歩兵が前にいると、そこで攻撃が防がれて、プレイヤーには届かないことになります。9のダメージが宙に消えてしまうわけですが、このときに攻撃側に「トランプル(MTGの場合)」などという能力が備わっていると、余った9のダメージを、プレイヤーに届かせることができたりします。イメージとしては、サイのような重量のある生物に突撃させ、歩兵が防ごうとしても慣性で突破されてそのままプレイヤーまで届いてしまう、というような状況を想定するとわかりやすいでしょう。

現実世界でもビジネスアタックをガードされる

 アタックする側の視点で考えると、ガードは厄介です。たとえば営業をかけたいと思ってテレアポを試みても、当然ながら相手はこちらのビジネス事情などお構いなしですから、断る気まんまんです。決定権のある本丸である上司が電話口に出ることなどまずありえなく、電話番の新人が断るために受話器を取ります。そんな状態でいくら商品をおすすめしても、意味がありません。あちらはこちらが何を売っていたとしても、それには関係なく断りの言葉を述べて、電話が切りたいわけです。かといって、上司を出してくれと言っても埒があきません。ガード役の電話番は、ガードするのが役目ですから、そこでこちらを通してしまっては、彼があとで叱られるわけです。それにそのような状況では上司に代わったところで、さらににべもなく電話を切られるだけですので、これまた無駄骨です。これではトランプルにはなっていません。

実効力のある現実のトランプルとは

 平社員が手ぶらで突撃しても、だいたいは受付で適当にあしらわれたり、居留守を使われたりでガードされてしまうのがオチです。しかし、肩書だけでも立派だったり、あるいは小さい会社でも社長だったりするとまったく対応が変わります。それは、ガード役が役付きの人物まで通していいのかどうか判断ができないからです。アポイントなしでは会わない、というあまり社外の人間と接しない部署ならともかく、相手も同じ営業部だったりすると、社外との交流や情報交換もまた仕事のうちだと考えることも少なくありませんから、まず話を聞くという段階までは進める可能性が出てきます。また、扱う商品もトランプルになり得ます。話題になっている、だとか、人気の定番商品などを扱っていると、知っているというだけで耳が開きます。これもガードを突破して、向こう側にいる決定権者に声を届かせるためには有効な戦術です。

誰に届けばいいのか、よく知ることが重要だ

 決定権者とはつまりこの局面におけるプレイヤーに相当する立場です。その人物が、こちらのおすすめする商品を買うのか、採用するのかしないのか、決めています。ガードにいくら魅力を伝えても、ガードがその商品を手に入れる権利を有しているとは限りません。逆に、決定権がないことをガードの原動力にしている場合もあります。MTGではプロテクションや被覆という能力をもつカードがあります。そもそも受け付けない仕組みにしておくことで、ダメージを無視する存在です。これが結構厄介なのですが、トランプルは通ります。ガードがゼロダメージであれば、そっくりそのままダメージが丸のままでプレイヤーまで到達します。いくらガードが無視を決め込んでも、頭越しに上司にアプローチできれば、ガード役などいないも同然だということです。誰がガードで、誰がプレイヤーなのか。トランプルのある武器は手元にあるのかどうか、それを見極めて戦場に飛び込みましょう。

 CASE STUDY "Trample"

では実際にありそうな、あったかもしれないシチュエーションを見てみましょう。

課長「ナカヨシいるか?」
仲吉「はい、いますよ」
課長「ちょっと新人のイソザキくんに営業のやり方を教えてやってくれないか」
仲吉「研修ですか?」
課長「そんな大げさな感じじゃなくていいんだ」
仲吉「わかりました」
磯崎「よろしくおねがいします」
仲吉「さっそくだけど、どういうものを誰に売っているの?」
磯崎「自分はビジネスマン向けのクラウドサービスですね」
仲吉「なるほど。じゃあわたしがお客さんだと思って売り込んでみて」
磯崎「ロールプレイですね。わかりました。……ごめんください」
仲吉「はい。どちらさまで?」
磯崎「エンター物産のイソザキと申します。今日は弊社製品のメガクラウドのご紹介に参りました、少しお時間いただけますでしょうか」
仲吉「ああ、いいですよ」
磯崎「ありがとうございます。こちらのパンフレットをご覧ください……」
仲吉「ストップ。イソザキさんはわたしがどういう立場か聞かなくていいの?」
磯崎「え?」
仲吉「時間かけて説明しても、わたしが電話番しかしない人だったら意味ないし、ただのアルバイトかもしれないし、派遣社員かもしれないよ」
磯崎「たしかにそこまでは想定していませんでした」
仲吉「実際の営業のときは?」
磯崎「実際にもあまり聞いていません。なんか失礼かなと思ったりして言い出せないんですよ」
仲吉「それもわからなくはないのだけど、逆に権限もないのに時間だけ取られちゃう相手も可哀想だよね」
磯崎「そこまで考えていませんでした」
仲吉「課長、ちょっとイソザキさんと並んでもらっていいですか? もう一度やってみましょう」
磯崎「はい……エンター物産のイソザキと申します。今日は弊社製品のメガクラウドのご紹介に参りました」
仲吉「そうですか。そちらの方は?」
磯崎「はい、上司のイサカイです」
課長「課長のイサカイです。こちらパンフレットです」
仲吉「これはご丁寧にありがとうございます。今、担当の者を呼んで来ますので、そちらでお待ち下さい」
課長「あれ、あっさり? いいのか?」
仲吉「わたしは新人社員という設定なので、偉そうな人が来たらすぐに上司を呼びます」
磯崎「あーそれはよくあるパターン」
課長「なるほどな。これがトランプルか。突き抜けた」
磯崎「なんですか、それ」
仲吉「イソザキさんもトレーニングに参加するといいかもね」

 ということで、若手社員のイソザキさんもTCGトレーニング会に参加することになりました。もともとデュエルマスターズや遊戯王の経験があったので、すぐにこのメソッドを理解して、営業成績がうなぎのぼりになったとか。

重くしてやれば、ガードは退く

 人はそれぞれ抱えられる案件の重さに限度があります。それは地位や経験に比例するわけですが、若くて役職のない人ほど、ガード役を務めきれる最大負荷が小さくなります。平社員が受付担当をしている事務所に、どんな零細であっても社長が乗り込めば、その場での門前払いは難しいものなのです。二度三度繰り返すと慣れられてしまうのでそこはうまくやりましょう。

その装備で大丈夫か?

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