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Chapter01 「二人の商人」 ②

 とはいえ、オベリウスのトラックには魚介類が満載だ。氷温冷凍されているが、トラックのエネルギーパックは保って三日だ。それまでにこの街で売りさばくか、地元に持ち帰って完全冷凍にするか、近郊の加工メーカーと交渉して引き取ってもらうか。なんにせよこのまでは済まない。早急に手を打ってどうにかしないとならなかった。
 エネルギーパックを買ってさらに数日保存期間を延ばす方法もあるが、それは結論を先延ばしにしているだけで、パック代が余計にかかる分、収益が目減りする。得策とは言えない。加工メーカーに売り払うと、予定した収益の半分以下になる可能性もある。赤字確定だ。それでは来月の漁船とトラックのリース料がヤバい。地元に持ち帰ったとして、それではまったく収益にならない。オベリウスの地元では海産物を店で買わない。誰もが自前で獲れるからだ。

「くっそー。どうすっかな」ゆっくりとたゆたう河を眺めながら、オベリウス・フィルコはつぶやいた。対岸はかすんでいてよく見えない。遠くを商船がじわじわと河を下っていった。河沿いの貿易港はもう少し上流側にある。この地方は内陸部なので、海産物がよく売れるのだ。……いつもなら。
「まったく。どうなってるんだ。なあ」
 背後からさっきの男が話しかけてきた。確か、ディカイン・マーカーとか言ったか。オベリウスはちっと見た名刺の内容を思い出した。ディカインもオベリウスに並ぶようにデッキの手すりに寄りかかった。
「なんで中止になったかわかりました?」
「いや、全然わからん」
 ディカインは首を振った。

 かなり食い下がったが、役人の返事は同じだった。実のところ、役人たちも詳しいことは知らされてないのではないか、とディカインは思っていた。何か裏はあるんだろうが……。それよりトラックの品をどうするのか。ディカインは正直参っていた。乾物であるので、今すぐどうにかしないとならないことはないが、売れないことには金にならない。帝国ならそこそこの値段で買い上げてくれるのだろうが、一般客にこれだけの量を売りさばくとなると、安売りしないことには、すぐには品物がハケない。時間をかけるとトラックのリースだのなんだので、さらに経費がかさむ。かと言って、まとめて売りさばこうと思えば、間違いなく足下を見られて買いたたかれる。下手したら赤字で終わってしまう。くそう。また親父にイヤミを……。ディカインは会社の会長であるディロード・マーカーの険しい顔を思い出していた。今回の商談は反対を押し切って無理矢理倉庫を漁って品物をそろえてきたので、なおさらこのまま帰るわけにはいかなかった。

「どうなってるんですかねぇ」オベリウスがつぶやいた。
「わからん」ディカインもぼんやりと考えながら答えにならない答えを返した。
「どうすりゃいいですかねぇ」
「わからん」
「腹減りましたねぇ」
「そうだな」
「何か食いますか?」
 ディカインはオベリウスを見た。そういえば、ガキみたいな顔をしているが、なんだこいつは。カウンターにいたのだから、商人だとは思うが。が、ひとまず腹が減ってるのは間違いない。
「飯か。それも悪くない。いい店知ってるか?」
「いつもの店でいいですかね」
「安いとこなら」
「安いよ」
「じゃあそこで」
 二人の商人は連れ立って、オベリウスのなじみの食堂へ足を向けた。足取りは重かったが、二人の悩みは共通していた。トラックに満載の荷物を、どうしたら地元に持ち帰らずに済むか、である。

to be continued

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