[クリスマス・ファンタジー童話]エマとダリア
主な登場人物
エマ 魔女
ダリア 魔女
ぺぺ 妖精
コーボルト 小悪魔
ギルバート 魔法学校の先生
ここは魔法の国。魔法学校を卒業したばかりの魔女エマは、一人でお祈りをしていた。そこに妖精のペペが飛んできて話しかけた。
「エマ、何してるの?」
「今日はクリスマス・イブよ。みんな楽しそうにクリス魔の準備をしてるわ。あそこの家は子供たちがツリーの飾りつけ、あそこの家はお母さんが大きなケーキを作っている」
「ああ、そりゃそうだよ、一年に一度のイブだもん」
「でもね、みんながみんな幸せなクリスマスだけじゃないのよ。見てごらん、あの人。あの人はクリスマスでもいつも一人なの。ずっと家族も恋人もいないのよ」
ふたりは魔法の国から人間の国を魔法の鏡で見ていた。
そこにはクリスという青年が映ってきた。エマとダリアは魔法の国から、そっと人間の国へ行き、見つからないようにクリスに近寄った。無論クリスには二人は見えない。
「うーん、みてくれはわるくないんじゃない。どうしてかな?」
「きっと仕事が忙しすぎるのよ」
「じゃあさ、エマの歌を聞かせれば幸せがくるんじゃないの。エマの歌には魔法の力があるから」
「そうか、では二人で歌の魔法をかけてあげよう」
二人は静かにクリスの耳元で歌い始めた。
「ああ、毎年忙しいな。でも、クリスマスくらいのんびりしたいな。おや、なんかきれいな歌声・・・空耳かな」
クリスは、すごく晴れやかな気分になってきた。そして、その時携帯が鳴った。
「はい、もしもし。やあ、エリザベス。どうしたの、急に。2年ぶりじゃない。え、クリスマスどうしてるんだって。きまってるじゃない。仕事だよ、仕事。そんなのやめて食事にいかないかって。だって、君にはポールが・・・え、とっくに別れた?浮気してばかりのひどいやつだったって。ぼくにあやまりたいって。いいよ、そんな・・とにかく、わかったよ。すぐそっちにいくよ」
クリスは急いで着替えると、うれしそうに出ていった。
「ほら、みて。エマの歌の力はすごいね。もう、カップルができちゃった」
「二人はこれからよ、これから。ねぇぺぺ。あっちをみて。あの人もひとりよ。きっと、人見知りでひとりでお店にもいけないみたいね」
「よし、そういう人たちにはこの歌ね」
ぺぺは大きく羽を広げると、エマと一緒に歌いだした。
一方こちらは魔女の森である。薄暗い森の奥の家で、魔女のダリアが歌の稽古をしていた。そこに小悪魔の小―ボルトが現れた。
「ダリア様、ここにいらっしゃいましたか。じつはお耳にいれたいことが」
エマとダリアは同じ年で、魔法学校を同じ年に卒業した。
しかし、二人は仲が悪かった。
「手短にしてくれ。歌の稽古中だ。最近からだの調子がわるいんだ」
「では、なおのこと。実はエマのやつがこれこれをはじめまして・・・」
「なにっ エマのやつめ、幸福な人間をふやしているだと。そういうことか。どうりで頭痛がひどいとおもった。わたしは人の不幸を自分のパワーにしているのだ。人が不幸になればなるほど力がわくのだ。逆に幸福な人間が増えれば調子が悪くなる。みろ、クリスマスでみ幸せそうなやつらばかりじゃないか。だからクリスマスはとくに調子がわるい」
「まことに、まことに。わたくしなどはクリスマスというのに、大悪魔様にこき使われる毎日で」
コ―ボルトは揉み手してへらへら笑った。
「おまえのことなどきいておらん。調子がわるいのは、幸福な人間どもがふえているせいだな。エマの奴をなんとかせねば。あいつは魔法学校のときからいやな奴だった」
「その件で私に妙案が」
コ―ボルトはダリアにぼそぼそと耳打ちした。
「なるほど、なるほど。エマの声を封じ込めるわけだな。ふふふ、面白い」
さて、エマはかわいそうな人を探して歩いていた。
「さてと、つぎのかわいそうな人は」
「ゴホ、ゴホ・・・」
「どうしたの、おばあさん」
「胸がくるしくてな。すこし、休めばなおるんじゃが」
「そう。じゃ、私の歌で元気にしてあげる」
「ほほう、歌でのう。不思議なことを言うの」
「そうなのよ。私には歌で人をいやす力があるのよ」
「それはすごいことじゃ。聞かせてもらおう」
その時、おばあさんはニタリと笑い、ふところから変な革袋をだした。
エマは歌いだした。だが、その声は次第に細くなっていき、ついに声が出なくなってしまった。
「大変、声がでないわ。歌えない!」
「ふふふ。うまくひっかかったな。この魔法の袋にお前の声を閉じ込めたのだ。もう、歌えまい。お前の力はおしまいだ。あばよっ」
おばあさんは、逃げてしまった。
おばあさんはコーボルトが化けた偽物だったのだ。
「あっ まって!」
エマ、胸をおさえて崩れてしまった。
ぺぺが走りよってくる。
「エマ、どうしたの、大丈夫? 歌えなくなったの。大変!」
「ぺぺ、私の代わりにみんなに幸福の歌をあげて。そして、お祈りをして頂戴」
「ああ、マリア様・・・エマに声が戻りますように」
ぺぺは悲しみに声を震わせた。
ここは再び森の家。コ―ボルトがダリアにへたへらと、エマのことを報告した。ダリアは上機嫌だ。
「コーボルト、でかしたぞ。これでエマはもう歌えない。これからは私の天下だ。クリスマスを不幸な人間だらけにしてやる。ほれ、ほうびをとらすぞ。牛丼屋のサービス券だ」
「へっ牛丼屋ですか。せめてビール券にして下さいよ」
「牛丼では不満か。ぜいたくなやつだ。しかたがない、ほれ」
「ははっ。ありがたき幸せ」
「実に楽しいクリスマスだ。飲むぞ!」
ダリアとコ―ボルトは酒盛りを始めた。
そしてここは魔法学校、ぺぺはギルバート先生に尋ねた。
「かわいそうなエマ。人々に幸福を与えて自分は不幸になってしまった。エマはもう一度歌えるようになるのでしょうか?」
エマも尋ねた。
「ギルバート先生、私の歌を取り戻すのはどうしたらよいのでしょうか」
魔法学校のギルバート教師は、しばらく考え込んでいたが、重く口を開いた。
「お前の歌を奪ったのはダリアだ。小悪魔のコーボルトを使ってな」
「なんでダリアがそんなことを」
「あいつはお前の全てに嫉妬しているのだ。お前は魔法学校でいつも1番。あいつはいつも2番にしかなれなかった。それを逆恨みしているのだ。そして、自分の力のもとは不幸だと信じている。それが大変なまちがいだということを本人に気付かせるしかない。なぜなら、お前とあいつは一心同体、お前が歌えなくなるということは、あいつも歌えなくなるということだ」
「それはどういうことでしょう」
「いずれダリアにもわかる。悪いのは小悪魔コーボルトだ。ダリアは騙されているのだ」
「これをご覧」
ギルバートは魔法の鏡を指差した。
ダリアが胸をおさえている。
「どうしたのだ。声がでなくなってきたぞ。おい、コーボルト、どうなっているんだ」
「やっとききめがでてきたか」
「どういうことだ」
「しれたこと。お前たちの力をまとめて頂くためさ」
「なんだと。このコーボルト様が悪魔界で出世するためだ。やっとわかったか、愚か者め」
「おのれ・・・でもなぜ声が?」
「お前たちは双子の姉妹なのさ。一人がそうなれば、もう一人も同じことがおこるのだ。お前は昔、おれがさらって、子どものない家置いてきたのだ。知らなかっただろうが、それが真実だ。エマに起こったことは、やがてお前にもおこる。お前たちはそういうふうに生まれてきたのだ。特におまえは体の自由もきかなくなってきたようだな。人を呪う力が強いぶん、効き目も強い。ふふふふ」
コ―ボルトは悪魔界へ消えていった。ダリアは床に倒れた。
そこにギルバートがあらわれた。ダリアをやさしく抱き起して言った。
「せんせい・・・」
「ダリア、可愛い弟子よ。しっかりしろ。エマの声をもどすことができるのはお前だけだ」
「それはどうすれば・・・」
「私が、最後の歌をうたう力をお前に与えよう。エマに自分の歌声を差し出すのだ。そうすれば、その力でエマはもとに戻る。しかし、ダリア、そうすればお前は全ての歌の力を使いはたし、永遠に歌えなくなる。だが、それしかコ―ボルトの魔法を解く方法はない。ダリアどうする・・・」
「先生、わたしは・・・間違っていた。わたしはエマのために歌おう。エマの声を取り戻すのだ」
そこにエマも現れた。
「ダリア、やめなさい!わたしは歌えなくてもいいの」
「エマ、いいのだ。これが人々の不幸を望んだ私の報いなのだ」
ダリアは最後の力をふり絞って歌いだす。
エマもダリアに寄り添う。
やがて、エマの歌に救われた人々が、二人の周りに集まってきた。
「我々はエマにたすけられた。エマの声が戻るようにみなで祈ろう」
二人は、次第に晴れ晴れとした笑顔となり歌いだした。
人々もうたいだす。歌声は天に届くかの大合唱となった。
天空から光がふりそそいだ。
「エマ、歌声がもどったようだな」
ダリアが言った。
「あなたも・・・歌声は失ってないわ」
ギルバートが二人の肩を抱きながら言った。
「二人のきずなが魔法を解いたのだ。クリスマスと幸福は誰にも平等にやってくる。聞くがいい、あの楽しげな歌声を」
「みんな楽しそうなクリスマスのなりそうだな」
「ダリア、みて。ほら、雪!」
ペペが楽しそうに二人の周りを飛んだ。
「エマとダリアの物語。これでおしまいです。みなさん、今年も楽しいクリスマスをね!」
おわり